第34話 血みどろの復讐劇だゾっ
ステージはシルルの血で真っ赤に染まった。
魔法により出現した木の根に自由を奪われ、抵抗できないシルル。そんな彼女を、ドエスは延々と鞭で打った。
「ぐあっ……うぐっ……くっ」
ビシィッ! パンッ。ビュッ!
鞭は太く、よくしなった。痛々しい殴打の音と、その度に漏れるシルルの悲鳴。
シルルの白いローブはボロボロに切り裂かれ、肌が見えていた。
普段なら陶器のように白い肌が、今は青あざと血潮が混ざって紫に見える。
「嗚呼、キモチイイわぁ。あなた、最高。だって、全然意識を失わないんだもの。いくらいたぶっても、眠らない。攻めがいがあるわぁ」
昇天寸前といったように、恍惚な笑みを浮かべるドエス。
こんな状況が30分続いている。
どよどよ……。
観客席も混乱していた。
「もういいだろ」「可哀想だぜ」「見てられない」など、醒めた感想が聞こえる。
そりゃそうだ。だってこんなの、決闘じゃない。
「ただの拷問じゃないか……」
僕も思わず唇を噛んだ。
「シルルの奴、このままでは本当に死ぬぞ。ミイラ取りがミイラになってどうすんだ」
勇者様も同意見のようだ。
奴隷の子を救いたいと戦いに挑んだのに、自身が命を落としてはマジで笑えない。それこそ、無駄死に。何のために戦ったのか、わからないじゃないか。
「ふう。そろそろお終いにしないとねぇ。お客さん、みんな飽きちゃってるし。あたしにとっちゃ、永遠に続けていたいけれど」
ドエスは名残惜しそうに吐息し、鞭を構えた。
シルルはぐったりとして動かない。木の根の十字架に張り付けられたまま、血のしずくをぽたぽたと垂らしている。
「さようなら、お嬢ちゃん」
殺す気だ。
ドエスは渾身の力を込め、鞭を振り下ろした。人の頭蓋骨をかち割らんばかりの強打である。
木の根もろとも巻き込んで、鞭の閃撃は衝撃と土ぼこりを上げた。
「シルルさーーーーーんッ!」
僕は神に祈るように、大声で彼女の名を呼んだ。
死んでほしくなかったからだ。僕の初めての仲間で、謎めいていて、でもちょっぴり天然で。
そんな彼女が好きだったから。
粉塵がステージを舞う。
静まりかえる円形の観客席。木霊するのは僕の叫びだけ。
土ぼこりが落ち着いて、視界がはっきりしてくると。
「いない!? そんな、嘘……」
ドエスは自身の目を疑った。
いないのだ。先ほどまでぐったりとしていた
あるのは鞭の一撃を食らって破裂したように散らばった木の根の残骸。そして、えぐれた石床。
「チッ……」
思わずドエスは舌打ちをする。一気に焦燥感が心を支配した。
はっと。
ドエスの背後に気配を感じた。
幽霊の気配だった。
「シルル、さん……?」
ゆらり、とシルエットがよろめいた。
観客席の僕は、目をこらしてそれを見た。
紛れもなく、シルルだった。こうべを垂れている。青く長い髪がだらりと流れていて、表情までは見えない。
一瞬で、ドエスの後ろに移動したということか。
「おいおい。あれ、本当に貧乏
そう、シルルのボロボロになった体は紫色の燐光を纏っていた。
魔法の才のない僕でもわかる。強い殺意と、恣意的な魔力の暴走。シルルはそんな混沌に身を委ねていた。
「ひっ……。く、くるなッ!」
ジャリ……ザッ……。
ゾンビのような足取りで、シルルはドエスとの距離を詰めていく。
先ほどまで意気揚々と蹂躙を楽しんでいた
ドエスは鞭を手放し、シルルの迫力に尻もちをついた。
「ひひっ。仕返しです」
シルルは不気味に笑った。口を三日月みたいに広げながら。
紫色のオーラを手元に集めて、弓矢を具現化した。
「虹色に輝く
弓の帆を限界まで引きつけ、放った。
放たれた臙脂色の大矢は、ドエスの心臓を貫いた。
糸が切れた傀儡が地に伏すように、ドエスは仰向けに倒れた。
勝負あり。
一回戦勝者、
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