第四章 荒野はどこまでも続かない

第29話 女僧侶が暴走したゾっ

「ふっざけんなっ! 我輩が来たときには入国料など必要なかったぞ。なんで関所のおっさんに銀貨二枚も払わねばならんのだっ!」

「まあまあ、勇者様。手持ちがなかったわけではありませんし……」

「拝金主義の国なんだろ。通してくれたんだから御の字だよ。安いもんさ。入国拒否なんてされたら、僕らはまた野宿だよ」


 一週間歩き続けて、荒野の都、ロージアン王国へ到着した。


 黄金に装飾された壁門を潜り、無事に入国。

 街は賑やかで美しかった。


 一言でいうと、アラビアンナイトの世界。まるで聖地エルサレムだ。


 石造りの街並み。左右に並ぶ建物の窓からは縄が渡されていて、カラフルな極彩色の洗濯物がなびいている。


「さっさと宿へ入ろう。もう体力の限界だよ。誰かさんがずっと乗っていたせいで、左肩めっちゃ凝ってるし」

「おいッ! まるで我輩が悪いみたいに言うな!」

「どう考えても悪いでしょっ! 人の頭部って、実は結構重いんだぞ」

「重いって……。レディに向かって体重の話はするなっ。まるで我輩がデブみたいじゃないか!」

「君の体型なんて興味ないって。デブでも何でもいい。今は早くベッドにダイブしたい……」

「きょ、興味ないだとっ!? わ、我輩はなぁ、少なくともそこの貧乏聖職見習いアコライトよりはおっぱい大きかったぞっ!」

「な、なんだと」


 じー。僕はシルルの胸の丘を凝視する。


「ちょ、ちょっとっ! まじまじ見ないでください! あ、でも、ハイバラさまに見られるなら、かまわなかったり……」


 はぁ。ため息一つ。コントもこれくらいにして、マジで宿に入りたい。


 僕らはロンザの宿場街を出てから、森を抜け、谷を越え、山を越え。んで、もう一度森を抜け。二日前くらいからは砂漠と荒野をひたすら徒歩で横断。


 過労死寸前。立っているのもやっとだった。


 冒険者ギルドの館に寄り、安い宿屋を紹介してもらった。さっさと宿へ直行しようとしたそのとき。


「……」

 シルルがギルドの掲示板の前から立ち去ろうとしなかった。


「どうしたの、シルルさん。早く宿へ行こうよ」

「ハイバラ様、わたくしのわがままをお許しください」

 すると受付のカウンターへすたすた歩いて行った。何かの手続きをしている。


「どうしたのだ、シルル。我輩も腹が減ったからさっさとレストランへ行きたいのだが」

「勇者様、胃袋がないのになんで空腹になるのさ」


 シルルが眺めていた張り紙を見ると。


「こ、これ、女戦士武闘会イヴコロッセオの参加募集要項」

「なんだと!?」


「求む、最強の女戦士。ルールは問わず、殺されても文句なしの武闘会。トーナメント戦で、上位三位までは豪華賞品。優勝者には、スキル持ちの奴隷をプレゼント!?」

「スキル持ちの、奴隷だと」


 張り紙には少女の奴隷が描かれていた。首にはリボンを巻いている。豪華賞品という意図を含んでいるのだろう。


「スキル『遠縁念話テレパシア』。この奴隷は、ご主人様がただ念じるだけでその命令を聞き取ることができます。これでいつどこにいてもこき使い放題、まあなんて素敵、か」

「ふん。心を読むスキルってところか。奴隷にしちゃ、なかなか良い能力を持っているではないか。見世物小屋でこき使われるのがオチだろうが」


「お、おまたせしました。ハイバラ様、勇者様」

 気づくと、後ろにシルル。何かやり遂げたような清々しい顔をして立っていた。


「シルルさん、ギルドの受付で何をしていたの」

「あ、はい。女戦士武闘会イヴコロッセオの申し込み期限が今日の日没までということだったので、急いで申し込んできたのです」

「ああ、そう」「フンっ、そうか」


 ……。


「「って、えぇぇぇぇぇええ!?!?」」

 僕と勇者様の悲鳴が木霊した。


 ちょうど、夕日が地平線へ沈んでいく時分であった。

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