間章 任務はまだ終わらない

第27話 騎士と魔族のつばぜり合い


「この方角……。行き先は、ロージアンか」

 ガーゴイルの娘は上空から旅人一行を見下ろしていた。


 ロンザの宿場街を出発した銀髪の少年と、僧侶。そして、生首。

 あの生首が勇者その人であることは確認した。


「勇者の亡骸を見つけるまで、ひとまず監視続行ね」


 ユキオ=ハイバラと名乗った悪しき魂。そいつがグリム王子の肉体を奪ったのだ。


「ハイバラって奴、許せない。グリム王子、待っていてください。このガーゴイルが必ずあなた様をあの阿呆から解放してみせます――なッ!」


 ガクンッ。


 突如、強烈な重力が浮遊中のガーゴイルを襲った。まるで足に重石をくくりつけられたかのように、真っ逆さまで地上に落下。


 広葉樹の枝葉がクッションになってくれた。地面に打ちつけられたが、ケガはないようだ。


「魔族の娘よ。貴様、何をしていた?」

 鋭い声。はっと振り返ると、人間の女がレイピアをかまえて立っていた。赤いビロードのマントには、剣をクロスした十字架の紋章。


 騎士団のシンボルだ。


「フンッ、答えぬか。私の名はルイーダ。騎士団の人事を担当している者だが」

 ヒュンッ。レイピアで空を切る。


「重力魔法と、剣の腕には自信があってな。少なくとも、貴様のような下級魔族なら一瞬で屠れるだけの力はあるんだが」


 ガーゴイルは痛む体をなんとか起こし、闇の大鎌を出現させる。

「出てこい、『闇闇戦鎌ジョーカー』ッ!」

 覚悟を決める。大鎌をかまえ、ルイーダと名乗る騎士と向かい合った。


「なんだ、やる気か。良い度胸だ。なら、容赦はせんッ!」

 不敵に笑う、ルイーダと名乗る騎士の女。


 次の瞬間、消えた。消えたように見えた。少なくとも、ガーゴイルの目には。

 ギィィィインッ!


「くっ……」

 劈く金属音が森に響き渡った。


「ほう、受け止めたか」

 レイピアの斬撃を鎌の柄でなんとか防御した。


 ――なんて重い攻撃なのッ! こんな細い剣なのに!


 太刀筋が見えていたわけではない。本能的に守りの体勢に入ったがための、偶然的な命拾いだった。

 ルイーダと顔を見合わせる。相手は笑っていた。まるで蹂躙を楽しむように。


「どうだ、私の剣は重いだろう?」

「な、なぜ……」

「言っただろう。私は重力魔法には自信があると」


 ガーゴイルはやっと悟った。先ほどの恐ろしく早い瞬間移動も、異常に重い斬撃も、すべては重力系の魔法剣が成す技だと。


 ギギギギギギ……。

 押されるガーゴイル。そして、ついに。


「ぐあッ……」

 闇闇戦鎌ジョーカーがレイピアに弾かれた。尻餅をつくガーゴイル。前を向くと。


「チェックメイトだ、下級魔族」

 ガーゴイルの首に剣の刃が触れていた。


 ――ここまでか。ならばせめて、道連れにッ!


 禁忌の術、自爆の呪文を唱えようとしたそのときだった。

「聞け、女騎士よ。我が名はサバト=グレンデル。漆黒の血盟ブラッディアの一四代目盟主にして、魔王の血を受け継ぐ者である」


 耳を疑った。自分の喉と口がひとりでに動き、女王サバトを名乗ったからである。

 一秒後、すぐに察した。

 女王サバトが自分の体を遠隔操作して、声を発したのだと。


「ほう、こりゃあとんだ大物の登場だな」

 ルイーダは不敵に笑い、レイピアをおさめた。

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