第18話 ナーガの爪は鋭いんだゾっ

 二時間ほど歩いた頃、勇者が剣呑な声色で忠告した。

「近いな。魔素の流れが濃くなってきた。お前ら、武器を装備しておけ」


 僕らは無言でうなずく。僕は短剣を抜き、シルルは鉄槌矛メイスをかまえた。


 広葉樹の群生地を抜けると、少し開けた岩場に出た。


「あれは……」

 洞窟だ。

 入り口はかなり大きく、相当奥まで続いているようだ。


「人の足跡がありますね。それと、大きな蛇が通った跡も」

「呪術師とナーガのものだろう。十中八九、あの洞窟が敵のアジトだ。どうする?」

 勇者様とシルルは同時に僕を見た。

「そうだね。できれば敵を洞窟の外におびき出したいな。例えば洞窟の入り口付近で煙をガンガン焚いてとか――」


「上ですッ! ハイバラ様ッ」

 シルルが叫ぶと同時に、僕は反射的に地面を蹴った。


 頭上に広がっていた大樹の枝葉から、人型の何かが落ちてくる。

 寸でのところで回避したが、先ほどまで僕がいた空間を鋭い爪が両断した。


「キキキキキッ、よく避けたな」

 ナーガだ!

 腰から上が人間で、下半身は大蛇の尾。紫色の鱗が不気味な光沢を見せている。蛇のような長い舌に、ぎょろりとした蛇目。


「マジかよ……」

 僕はその数に目を疑った。


 ぞろぞろと茂みから姿を現すナーガの大群。10体はいる。

 囲まれていたんだ。最初から。


「ちくしょう……」

 ナーガたちはニヤつきながら自慢の爪を長い舌で舐めている。

「キキキッ、通りすがりの旅人ってわけじゃねーよな。おッ、もしかしてロンザからの使者か。呪術がバレたんだな、おもしれぇ。俺たちは契約上、呪術師バイロンの護衛もやらなきゃならねぇし。せっかくだからギッタギタに切り刻んで、食ってやるよ、キキッ」


 バイロン。それが呪術師の名前か。

 ナーガの不気味な悪態に、僕はビビりモード全開。ガチガチと歯が鳴る。手は震え、持っている短剣を落としそうなる。


 が、シルルは冷静だった。

「ハイバラ様、勇者様。洞窟へ向かってください。ここはわたくしが食い止めます」


 え、嘘だろ。今、なんて。


「くくっ、ボンビー聖職見習いアコライトにしちゃ勇敢じゃないか」


 シルルは鉄槌矛メイスを振り上げた。

「光の加護よッ。盲目こそが悟りを開くッ、『光の稲妻ライトニング』!」

 一面が光に包まれて真っ白になる。目眩ましの閃光弾か!


「キィィィィァァァアアアッ!」

 ナーガたちは目を覆いながら絶叫している。


「さぁ、今のうちにお早くッ!」

「ハイバラ、いくぞッ。シルルの意思を無駄にするな!」

「くっ……」

 勢いに任せて、僕は洞窟へ走り出した。

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