第17話 呪術師討伐、開始だゾっ
流行り病の正体は石化の呪術だった。
病人たちへとのびる魔素の触手は、西門の外へつながっていた。
治療院を出た僕らは、まず町長を訪ねた。
町長はテンプレ通り初老の男性で、大通り沿いに宿を構えていた。
「ようこそ、おいでくださいました。といっても、ここロンザの宿場街は今大変で……って、なんですか!? その頭だけの少女は!?」
「ああ、お気になさらず。コレは僕らの仲間です。一応、勇者の残りカスなんですよ」
「残りカスってなんじゃボケェ! むしろこっちが本体だっつーの!」
勇者の生首で驚愕する町長をなんとかなだめて、話を進める。
「流行り病ですね。事情は承知しています」
僕らは事の成り行きを説明した。エレナとの縁で、この街を病改め呪術の魔の手から救いたいと。
町長は感激し、ぜひお願いしたいと僕に握手を求めてきた。僕も快くそれに応じる。
勇者様が面倒くさそうにため息をついた。
「我輩は何人かの呪術師と相対したが、趣味の悪い奴らが多かったぞ。カルトチックだったり、拷問好きだったり。薄気味悪い奴らばっかりだ。群れることはしない。基本的には単独行動で、自分の呪術の研究に没頭している。そのかわり、『使い魔』をそばに置いているケースが多い」
「使い魔?」
「使役した魔物だったり、魔素でつくった木偶だったり。そういう人外と契約して、護衛や身の回りの世話をしてもらうのだ。それ相応の代償を払ってな」
すると、町長は思い出したように話し出した。
「そういえば、街の飛脚隊が見たこともない魔物と遭遇しました」
「飛脚隊?」
「ええ。このロンザの宿場街は、飛脚隊の本拠地なのです。街の男たちは旅人から手紙や荷物を預かり、指定された場所や人に届けるというサービスをやってます。だからこそ、流行り病は天敵なのです。飛脚隊が荷物と一緒に病魔を運んでしまいますから」
なるほど、そりゃあ確かに商売あがったりだ。
「で、魔物ってのは」
「はい。蛇人間です。下半身が蛇で、上半身が人型なのです。飛脚が一人襲われて、怪我人が出ています」
「えっと、ナーガですね。使役可能の『言葉ある魔族』です。最初に石化が始まったのは、その怪我をした飛脚さんではありませんか」
シルルが青髪をもじもじいじりながら指摘した。
「そ、その通りです。それから立て続けに病魔が蔓延し、一週間経った今ではほとんどの男たちがベッドから動けずにいます」
「シルルさん、博識だね」
「へ!? い、いえいえ。冒険者になる前、たまたまあるお屋敷で魔物相手にお仕事していたものですから……」
さらにもじもじ。魔物相手って、一体どんな仕事なんだ。
「ナーガから受けた傷は単なる感染ルートで、病魔それ自体は呪術師が放った魔素だろうな」
「はい。勇者様の分析の通りだと思います。ナーガの牙にも毒はありますが、ただの神経毒です。激痛が数日続くだけで、あんな風に石化したりしませんから……」
この二人、詳しいな。さすが勇者と冒険者。
僕、蚊帳の外。
とにかく、西の森に立てこもった呪術師がナーガを使役しているってところまでわかった。
敵の目的がわからないのが気がかりだが、一刻も早く呪術を解かねば死人が出る。
僕らは町長にお礼を言い、いざ西門から森へ向かった。
街の西側には深い森が続いている。町長いわく、魔物や野獣がわんさかいて、とても人が潜伏できるような場所はないとのこと。
「魔素の流れはずうっと西に続いてるな」
僕の肩の上で目を光らせている勇者様。スキル『
「しっかし、湿気がすごいな」
西の森は青臭さと泥臭さに加えて、高湿だった。それでいて寒い。
「ハイバラ様。足元、気をつけてくださいね」
「ん? って、どわっ」
地面に張った木の根っこにつまずく。
「おいっ、ハイバラ、てめえ! お前がコケると、我輩まで落ちてしまうだろ」
「嫌なら僕の肩から降りろよ、もう」
「フンッ。やなこった。それよりハイバラ、今ひざまずいたのはただの不注意か」
「えっ、うん。そうだけど。こんな足場の悪いところ、歩き慣れてないんだよ」
「そうか。ならいいんだが」
勇者様は神妙な顔で僕の足を見ている。
「異変や違和感があったらすぐに言えよ」
「う、うん。どうしたのさ、急に」
その真意を教えてくれたのはシルルだった。
「勇者様はハイバラ様を心配しておられるのです。『
「ま、そういうこった」
え。ドキリと、恐怖で一瞬息が止まった。
「じゃ、じゃあ、僕もシルルさんも、感染してるってこと!? 石化しちゃうの!?」
「フンッ、騒ぐな。すぐに発症するわけではないだろう。石化する前に、呪術師の野郎をぶちのめす。それしか我輩たちが助かる方法はないのだからな」
こわっ。絶対失敗できないじゃん。
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