第14話 『肉塊』の真実に気づいたゾっ
「こ、ここは……」
目が覚めると、知らない天井。ベッドに寝かされていた。
肩の痛みは消えていた。あの忌々しい気持ち悪さも。
「お、目覚めたか役立たず」
ぬん、と僕の視界を覆うように少女の生首が現れた。
「うわぁぁああ!」
反射的に起き上がってしまい、勇者様に渾身の頭突きを食らわせた。
「いってぇ! 何すんだボケっ、我輩の綺麗なお顔に傷でもついたらどうすんだっ。お嫁にいけなくなるだろーが! 責任とってくれんのか、ああん!?」
「全力で拒否します……」
見渡すと、ウッドコテージのような部屋だった。大きな煖炉が燃えている。
「シルルさんは」
「ああ、エリナと薪割りをしているぞ」
「エリナ?」
「お前が助けた女の子だ。ここはエリナの家。木こりのじいさんと二人暮らしだとさ」
話を聞くと僕が失神した後、勇者様とシルルがあのムカデ野郎を倒したという。
僕はムカデの毒にやられて瀕死状態だった。傷はシルルの治癒魔法で治したが、全身に回った毒は取り除けなかったらしい。
「エリナに感謝するんだな。森の薬草からオリジナルの解毒薬をつくっていて、それでお前を治したんだから」
「そう、だったんだね」
ばふっ。僕は再びベッドに身体を沈めた。
空の右手を天井に伸ばす。
「ねぇ、勇者様」
「なんだ、急にしおらしい声だして。気持ち悪い」
「ひ、ひどい……。あのさ、スキルってどうやったら自在に使いこなせるようになるのかな」
「はぁ?」
ムカデの魔物と対峙したとき、僕はスキルを発動させることができなかった。
「銃さえ出せれば負けなかった。サイクロプス討伐のときはすんなり出せたのに」
念じると、頭の中にホログラムとして文字が浮かぶ。
『
【弾倉Ⅰ】黒弾『肉塊』 【弾倉Ⅱ】黒弾『
【弾倉Ⅲ】白弾 【弾倉Ⅳ】白弾
【弾倉Ⅴ】白弾 【弾倉Ⅵ】白弾
回転式拳銃の弾倉データを確認することは簡単だった。ホントに、ただ念じればいいだけ。
しかし肝心なときに銃を具現化できなければ意味がない。
「……あれ?」
ふと、今さらながら気になった。
【弾倉Ⅰ】黒弾『肉塊』……?
「ねぇ、勇者様」
「今度はなんだよ。寝てろよ、お前。まだ病み上がりなんだから」
面倒くさそうに勇者が舌打ちする。
「僕のスキルってどう見えてる?」
「はぁ? お前のスキルって、あれか。ジュウとかいう金属片で相手の異能を奪うやつか」
「そう。それを自分に撃ち込むことで、僕はその能力を使える」
弾丸に奪ったスキルがセットされると黒弾となるようだ。逆に、まだ空の弾丸は白弾という表記らしい。
となると、【弾倉Ⅰ】黒弾『肉塊』とは一体。
僕は自分のスキルについて説明した上で、勇者様に意見を求めた。
「この『肉塊』ってのが最初から黒弾として格納されていたんだ。何なんだろ、コレ」
すると、何の悪気もなく即答が返ってくる。
「そんなの簡単だろ。奪ったモノが白弾に込められて黒弾になるなら、お前が最初に奪ったものなんだろうさ」
「僕が、最初に奪った、モノ」
ぞくり、と。恐ろしい予測が悪寒となって背筋を走った。
僕は現実世界で流れ星に祈った。異世界に転生したいと。流れ星は僕の願いを聞き入れ、この異世界に僕を転生させた。
それが今の僕の意識である。
――では身体は?
このイケメン銀髪でジャニーズ系細マッチョな、この身体は、一体誰の。
もしかして、『肉塊』って、この肉体のことなのか。
僕が、奪ったのか。
どこかの誰かの大切な肉体を。
だとすれば、決して許されることではない。
「――い、おい! ハイバラ。聞いてんのか」
「ねぇ、勇者様」
「なんだよもうーっ。そのシリアスなトーンで質問攻めするのは我輩に対する嫌がらせなのか!」
「スキルを解除したり、消したりすることってできるの?」
勇者様は不機嫌そうに眉根を寄せたが、堪忍したようにため息をついて話し出す。
「フン。一応マジレスしてやろう。普通はできないな。スキルってのは基本的に先天的なもので、生まれつき異能を持っているケースが多い。一応、後天的にスキルを会得することもたまーにあるけど、拷問に近い訓練を受けたり、育ちが特殊だったりと、まあ稀少なケースだな。スキルってのは呪いみたいなもんで、魂にくっついていてとれないもんだ」
「で、消せんの? 消せないの? どっちなんだよ」
僕は低い声で結論を急がせてしまう。
勇者様も僕の異変を察知して、怪訝そうに僕をにらむ。
「お前、何焦ってるのだ。消せるかどうかで言えば、消せる。ただし、荒技だ。スキルを消すスキル『
マジか。
ってことは、そのスキルを使えば僕の『
それができれば、この身体をもとの持ち主に返すことができるかも。
「その、『
「我輩、勇者アルスだ」
「……え?」
「正確に言えば、我輩の身体の方。我輩たちが追っている『勇者の亡骸』が持つ一三のスキルの内の一つだな」
なるほど。であれば話が早い。
改めて、旅の目的が明確になったと言っていい。
僕は勇者の亡骸を探さなければならない。
見つけ出して、『
スキルの無効化。それはつまり、【弾倉Ⅰ】黒弾『肉塊』の消滅と解放。
待て。その後、僕はどうなる。
僕の魂は、どこにいく?
「はぁ。今考えても、答えは出ないよな」
独り言のように僕は呟いた。
「必殺っ! たなびく金色ヘアのこちょこちょシャワー!」
「ひ、ひひひ、あはははっ! ってやめぇぇぇえい!」
いきなり勇者様のブロンドヘアが触手のごとくウネウネ動き、僕の脇腹をこちょこちょした。
「お前、何カッコつけてんだ。ひとりで悩んでんじゃねーよっ!」
「え? いや……」
僕は勇者様から目を逸らした。
罪悪感が心に広がる。僕はみんなに隠し事をしている。
転生者であることを、言えていない。
「相談しろよ。お前が言い出したことだろッ! 我輩たちは仲間で、対等だって。まあ首から上しかない我輩に何ができるかなんてわからないけどよ」
「そ、そういうわけじゃなくて……」
「少なくとも、シルルはお前を好いているからな。そんな奴に、お前はずっと隠し事を続けるのか? お前がそんな奴なら、我輩もお前を信じないぞ」
その言葉が決め手だった。
「わかった。全部、話すよ」
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