第10話 僕のジョブは銃士らしいゾっ

 レストランでのもてなしでお腹いっぱいになった僕らは、宿屋に部屋を借りた。


「いてて……」

 獣人化した反動だろう、筋肉痛でまともに歩けない。あと一日くらいはゆっくりしたい。


 村を救った英雄ということで、宿屋で最も大きな部屋に案内された。


「お代なんていらないわよっ。何泊でも、ゆっくりしていきな」

 宿の奥さんはエプロン姿で僕らを歓迎した。

「いやぁ、あはは……。ホントすみません」


 褒められ慣れていない僕は、奥さんのご厚意になぜか謝ってしまった。こういうときは素直にありがとうとお礼を言うべきなのに。

 シルルは無言でもじもじしている。僕より挙動不審だぞ。


 人の命を救っても、陰キャコンビであることからは卒業できないらしい。


 夕刻。オレンジの夕日が沈みきる頃。

 丸テーブルの真ん中にランプを灯す。僕とシルル、そして生首勇者のアルスとルイーダの四人で向かい合って座った。


 これからのことを話し合うという。


「ハイバラ、手を出せ」

 口火を切ったのはルイーダだった。

 言われるままに手の甲をルイーダに向けた。


 ぺろりっ。

「ひえっ!?」


 な、舐められた! 親にも舐められたことないのに。


 舌つづみを打つルイーダの身体が黄金色に発光し出す。

「慌てるな、これは私のスキル『絶対味覚ダイアグノシス』だ。対象者を舌で味わうことで、適性ジョブはもちろん、使えるスキルや魔法などを分析することができる。大事な勇者を預けるのだ。貴様らの能力値を確認しておかねばな」

「へ、へえ……」


 正直、言おう。美人に舐められて興奮しましたっ。


「ルイーダが騎士団で採用担当をしているのも、このスキルがあるからだ。我輩を勇者と見抜いたのも、こやつだからな。フハハッ」

 自分事のように威張る勇者。


「ふむ、ハイバラ。やはり君は奇妙な男だ」

 ルイーダは黄金色のオーラを指先に集める。その輝きをインクにして、何もない空間に魔法文字を描いた。まるでホログラムだ。


【ユキオ=ハイバラ】

 ジョブ:銃士ガンナー Lv.3

 STR(力):5  DEX(器):10

 VIT(体):7  INT(知):10  LUK(運):2


 スキル:『灰色回転銃マイ・リボルバー

 魔法:『星を呼ぶ者メテオ


「うおおーっ。すげー」

 これが僕のステータスか。

 RPGゲームのように数字で可視化してもらえるのはありがたい。


「すべてがわからん。この銃士ガンナーというのは、一体何を得意とするジョブなのか。そして、スキルと魔法が一つずつ。古文書にも載っていない新種だな」

 古文書とは、スキルや魔法についての記録書だという。言わば、人類の能力辞典だ。ルイーダは採用担当という職業柄、その内容をすべて暗記しているらしい。


「僕、魔法も使えるんだねっ! ヤッベ、才能豊かすぎる自分に震えて眠れないっ。どうやって使うんだろ。ねぇ、シルルさんっ!」

「え、えっとぉ……」

 テンションMAXな僕に若干引き気味のシルル。


「落ち着け、白髪坊ちゃん」

「銀髪と言ってください、勇者様」

「お前、サイクロプスをどうやって倒したんだ?」

「え? えっと、シルルさんの魔法の矢で倒せなくて焦ってたら、銃が手の中に現れたんだ。回転式のリボルバータイプの。実は街の酒場でも出せたんだけど」

「あの金属製の黒い塊か」

「そうそう」

 やっぱりこの世界に銃は存在しないらしい。


「酒場でダンカンって男を撃ったんだ。そしたら、そいつのスキルを奪うことができた」

「なんだと……」

 ルイーダの顔がいきなり険しくなった。


「た、たぶんそういうことだと思う。奪ったスキルは弾丸に込められているみたいで、自分に撃ち込んだら狼男になれた。それでサイクロプスを倒せたわけ。これって、ダンカンから奪った『四肢獣化ビーストキング』を使えたってことだろ?」

「ふむ、狼男か。ダンカンは『四肢獣化ビーストキング』というスキルのおかげで、街最強の傭兵と言われていた。しかし、狼の風貌にはならなかったぞ。せいぜい、筋肉を少しだけ増強したり、爪や牙を多少鋭くさせるくらいのレベルだった」


「ほうほう。我輩の分析では、こいつ、ダンカンよりも『四肢獣化ビーストキング』を使いこなしていると見た」


 ルイーダと勇者様が考察を始めていたが、僕はそれどころではなかった。

 自分の隠れた才能にウキウキが止まらない。


銃士ガンナーかぁ。スマートでかっこいいなぁ。魔法『星を呼ぶ者メテオ』も強そうだし、早く使ってみたいなぁ……」

 他の三人は僕を白い目で見ている。


「まあいい。新種のジョブである以上、議論しても詳細はわからん。いろいろ試してみるがいい」

「はいッ!」


 ルイーダはシルルにも『絶対味覚ダイアグノシス』を使おうとしたが、シルルが頑なに拒んだために診断は叶わなかった。


「わ、わたくしは特別なスキルなんてありませんし……。それに適性ジョブが別にあったとしても、聖職見習いアコライトでいたいですから……」

 うむ。陰キャである。


 結局、今夜はここでお開きとなった。

 ベッドが二つしかなかったため、ルイーダと勇者アルスがこの部屋に泊まることになった。

 僕とシルルは別の一般客室へ移る。


「いってて、もう寝よう。シルルさん」

 例の筋肉痛がおさまらないのだ。

 倒れ込むように、ベッドにダイブした。


「あ、あの……ハイバラ様。服を……脱いでくれますか」


 ――ぇ。

 ぇぇぇええええええ!?


 僕、前世を童貞で終えてるんですよ!? 童貞すら守れない男に何が守れるというのだと、誰かの言葉を信じて自身の貞操を守り続けてきた男なんですよ!?

 シルルの直球に、僕は口をはうはうと開閉する。


「ぷはっ」

 僕を尻目に、シルルは白いローブを脱いだ。


 ロウソクの淡い明かりがシルルの白い肩をほのかに赤く染める。青く長い髪がふわりと揺れ、女の人の良い香りが流れてきた。透けるほど薄いチュニック姿、直視できないっ。


「ちょ、ちょっと、シルルさん!? ぼ、僕ら、まだ出会って三日目の初夜で……」

 三日目の初夜ってなんだ。


 錯乱状態の僕に、恥ずかしそうにシルルは告げた。

「治癒魔法付きのマッサージです。魔法をジェル状に具現化して、患部にもみ込むんですよ。そうすると、筋肉痛や打ち身はすぐに治ります。間に衣服があると効力が落ちるので、お見苦しいとは思いますが脱がせていただきました……」

「じぇ、ジェル!?」


「さあ、ハイバラ様も」

「だ、大丈夫でっす! もうちょいお互いのことを知ってからにしましょうっ。おやすみなさいっ」


 意気地なしの僕は、シルルのお誘い(?)を断って毛布をかぶった。

 後悔したくないって信念を持っていたはずのに。きっとこれ、あとから後悔する流れだな。

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