第4話 銃で撃っちまったゾっ

「なんでこいつらなんだ。どう見ても俺の方が強ぇだろ!」

 ダンカンは鼻息荒く、シルルの胸ぐらを掴んだ。


「特にこの女、『一文無し』で有名な聖職見習いアコライトのシルルだろ。なんでお前がここにいるんだ。奴隷出身の分際で。路地裏で娼婦でもやってろって、忠告したよな?」

「ひぃぃ……やめてください……」


 なんだ、顔見知りなのか。

 それにしても、ひどい言いぐさだ。


 僕は助けを求めるように周りの連中を見回した。

 例外なく、全員ゲスな目をしていた。

 これからおっぱじめられるであろう、筋肉男による罵倒。無抵抗な女性への暴力、蹂躙。


 ルイーダや勇者アルスすら、鼻をほじりながら見物している。

 こんないざこざは日常茶飯事だと言わんばかりに。


 いやいや、ふざけんなよ。

 僕が妄想してきた冒険者ってのは、こんなクズ野郎たちじゃなかったぞ。


「やめとけよ。筋肉マッチョマン」

 考えるより先に、手が出てしまった。

 気づくと、僕はダンカンの太い腕を掴んでいた。


「お前、まだいたのかよ」

 筋肉野郎の標的が僕に移った。やべ、こりゃあ殴られ――。


 バンッ。

 やっぱり。ソッコー殴られた。鈍器のような重たい左フック!


「いってぇ……」

 尻もちをつく僕。


 右頬の感覚がない。アゴがガクガク鳴っている。親にもぶたれたことないんだぞ。まあ、小学生の頃にいじめられっ子にはよく殴られていたけどね。


「ハイバラ様っ」

 シルルが駆け寄ってくる。さすが聖職見習いアコライト、優しいなぁ。


「ああ、うん。だいじょう、ぶぅぅう!?」

 間髪入れず、ダンカンは僕の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 鼻と鼻が触れあうくらいまで顔を近づけてくる。おいぃい、間違っても唇と唇が接触するなんて事故は起こすなよ!


「お前、誰に喧嘩売ったか、わかってんのか?」

「あはは……。えっと、ダンカンさんっす」

「そうだ! 俺はスキル持ちのダンカン。この国で一番の傭兵だ! ここでお前を切り刻む。俺のスキル『四肢獣化ビーストキング』でなッ」

「ちょっ、顔近いっす、めっちゃツバ飛んできまっす! 変な臭いしまっす! なんですか、スキルってぇぇえ!」


 僕の抵抗虚しく、ダンカンはそのスキルとやらを発動させたらしい。

 獣のようにうなり出す。屈強な筋肉から赤いオーラが漏れ出した。俺でもわかる、強烈な殺気。


「ちょ、ちょ、ちょっ! 僕、まだこの世界に来て間もないんですけどっ。もう死ぬの? 早くない!?」


 ――流れ星に強さを求めたのは、あなたでしょう。


 ふと。脳内に機械音声が流れた。女の声だった。あの夜、双子座の流星群から聞こえたものと同じ声色。


「俺に喧嘩売ったこと、後悔するんだな! 『四肢獣化ビーストキング』ッ」


 ダンカンの双眸が獣のそれとなった。八重歯が立派な牙と化す。爪は獅子のように鋭くのび、鷲づかみしている僕の肩に食い込む。荒い呼吸は、まさに飢えた獣だ。なんて剛力。


「ひぃぃぃいっ」

 ダンカンは理性を失っているようだ。僕の首筋に噛みつこうと口を開ける。


 ――あなたも、その手に持っているでしょう。


 え? その手って……。


 ――あなただけが『撃てる』、起死回生の一手を。


 ずしりと、右手に重みを感じた。ひんやりと硬い金属のグリップ。

 見ると、回転式拳銃リボルバーを握っていた。重厚感のある漆黒のボディ、磨き上げられた黒鉄の銃身がギラリと光っている。


 あれ。なんで、こんな物騒なものが僕の手に。


「くっそ、どうにでもなれっ」

 僕は筋肉男の胸部に銃口を突き当てた。


 ――『灰色回転銃マイ・リボルバー』 発動。

    弾倉Ⅱ に 白弾 を装填。


「グワァァアアッ!」

「ひぃッ」

 ダンカンの咆哮を合図に、僕はトリガーを引いた。


 無音の銃声。


 ただし、銃口からは確かに弾丸が放たれた。白い閃光弾のようなまばゆい光がダンカンの胸部を貫く。


「ぐおっ……」

 短く悲鳴を漏らし、ダンカンは倒れた。

 獣化が徐々に解けていく。

 牙はただの歯に、鋭い爪も人間のそれへと戻っていく。

 スキルが、解除された?


 白い弾丸はダンカンの心臓を貫いたことで黒く色づき、空中で制止。そのまま、ぐるりと弧を描いて再び銃の弾倉へ帰還した。


 ――弾倉Ⅱ に 黒弾『四肢獣化ビーストキング』が装填されました。


「も、もしかして、奪ったのか。こいつのスキルを、僕の銃弾が」


「ほう、面白いもんみっけー。合格にして正解だったな」

 勇者の生首がにやりと悪い笑みを浮かべていた。

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