第3話 貴様ら全員、不合格だゾっ

 テーブルの上。

 酒瓶と一緒に勇者の生首が並ぶ。


「不合格っ!」「ひー」

「不合格っ」「ぐはっ」

「ふごうかーーくっ!」「そんなぁぁあ!」


 大企業の圧迫面接官バリに鼻息を鳴らしている勇者アルスの生首。

「ああ……しゅごい……不合格にするのキモチイイ……とくに我輩よりおっぱいの大きい女を不合格にするのたまらん……」


 こいつ、ホントに勇者かよ。

 面接とは名ばかり。特に質問するわけでもなく、ただじっと凝視するだけの審査である。


 ルイーダはカウンター席で葡萄酒を傾けている。

「おーい、勇者アルスよ。これじゃあいつまで経っても捜索隊なんて組めないぞ。真面目にやれー、真面目にー」


 とか言いつつ、グラスワインでは飽き足らず、葡萄酒の瓶をウェイトレスから奪いとってひとり酒盛りしているルイーダ嬢。


 この世界にはモラルという概念がないのか。


 すると、筋肉隆々のガチムチ男が前に出た。

「仕方ねぇな。この俺様が合格者一号になってやるぜ」

 バキボキと拳の骨を鳴らしながら、したり顔で勇者と向かい合う。


 別の冒険者たちから期待の歓声が上がった。


「おお、ダンカンさん!」

「真打ち登場だ。『スキル持ち』の実力、見せてやれ」

「あんたの『四肢獣化(ビーストキング)』で、そんな生首やっちまえっ」


 むむ、スキル持ちとは。気になるワードだ。

 あの筋肉野郎、何か特殊能力を持っているのか。


 ダンカンは勇者様とにらみ合う。

 そうして五秒後、ジト目でため息。


「ふ・ご・う・か・く。マッチョは好みじゃない」


「んだと、てめぇ……」

 今にも勇者の頭をぐわしと掴んで全力投球しそうな殺気だったが、ダンカンはしぶしぶ下がっていった。


「オラオラぁ、次は誰だっ。我輩に不合格にされたいヤツは前に出ろぃ」

 趣旨違ってきているぞ。


 酒場に集まった全員の足が止まっている。

 こりゃあ、あれだ。たぶん。いや、きっとそうだ。

 気づいたルイーダが手を上げた。

「おーい、まだ面接受けてないヤツ、手を上げてー」


 そう。このアホ勇者は、すべての冒険者に不合格にしたらしい。

 僕と、もう一人をのぞいて。


「あ、あの、はーい」

 僕は手を上げた。僕は引っ込み思案で絶望的にシャイである。今の今まで酒場の隅っこで様子見していたのだ。


「わ、わたくしもまだです……」

 もう一人。反対側の隅っこからか細い声が飛んできた。


 ドラ○エⅢの僧侶のような格好の女だった。青く長い髪はのびっぱなしで、片目が隠れてしまっている。白いローブも所々黄ばんでいて、貧乏くさい。そして漂う陰キャ臭。聞かなくてもわかる。この女、幸薄系女子だ。


「ふむ、二人ともこちらへ来い。ひっく」

 ルイーダはワイングラス片手に僕らを交互に見た。

 顔が赤いぞ。息、酒臭いし。そんなすわった目で合否の判断できんのか。


「おい、勇者。こいつら合格にしよう」


「えぇぇぇぇぇええ!?」

 酒場中からわき起こる驚きの悲鳴。

「まあ、うん。そうだな。この冴えない感じなら、我輩とキャラがかぶることはなさそうだし。うむ、お前ら二人、合格っ!」


 はい、みなさん。いっせいに。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!?!?」


 他の冒険者から怒号と罵声を受ける中、勇者の亡骸捜索隊が誕生した。

 僕と。

 幸薄そうな僧侶の女と。


「あ、あはは。どうも、ハイバラです。ハイバラ=ユキオ。よろしくっす」

「こ、こ、こちらこそっ。わたくし、シルルって言います。シルル=ミクリア。ふつつか者ですが、よろしくです」

 くっ。たかだか自己紹介タイムなのに。

 女性に免疫のない僕は手の汗びっしょり。


 バリィンッ!


「ひっ」

 ガラス瓶が割れる音。シルルがびくりと肩をすぼめた。


 見ると、筋肉男――ダンカンが酒瓶を床に打ちつけたようだ。怒りに顔を真っ赤にさせながら、肩を揺らして歩いてくる。

「納得いかねぇぜ……」


 こりゃあ、人生初の喧嘩フラグか? 勝てる気がしないぜっ。

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