第2話 勇者の生首とご対面だゾっ
「フフッ。見て驚け、聞いて讃えよっ! 全員、拍手の準備だっ。この生首、彼女の名は『アルス=トロメリア』、勇敢にもひとりで魔王に挑んだ勇者その人であるぞ!」
ルイーダはあおりに煽って、鳥籠の中のそれを紹介した。
にぱぁっと。少女の生首は得意げに笑い、白い歯をキラリとさせている。
――……しーん……。
静寂。というか、沈黙。
僕も含めて、酒場にいた冒険者全員がいっせいに黙ってしまった。恐怖に涙目になっている者もいる。生首の生々しさにガチガチと歯を鳴らす者も。
ぶっちゃけ、ビビっていた。
そりゃそうだろ! ホラー映画かよ。人間の生首だぞっ。
「あ、あれ?」
戸惑うルイーダと勇者の生首。
「お、おい、勇者アルスよ。話が違うぞ。憧れの勇者との対面に、冒険者から拍手喝采の嵐じゃなかったのか。ま、まるで私がスベったみたいな空気だぞ」
「おい、ルイーダ。それは我輩の台詞だ、クソアマ。この仕打ちはなんだ。まるで公開処刑じゃないかっ。せっかく命張って魔王と戦ったのに、なんでこんな寒い目で見られにゃならんのだ。しかも、実質ホームレス一歩手前の泥臭い冒険者風情に! 我輩は人類にとってヒーローではないのか、ああん!?」
え。なにこの勇者、めっちゃ口悪いんですけど。
ドン引き、そして興醒め。そんな空気が酒場に充満した。
ルイーダは鳥籠を開けて、その首を取りだした。
「まあいいっ。とにかく、これから勇者の亡骸――正確には首から下の胴体を探すため、捜索隊の選考会を開始する」
よく見ると、勇者は美人な顔つきだった。さらさらのブロンドヘアは流星のごとく輝いていて、透き通るような白い肌は金髪以上に眩しく光る。ひたいには勇者のかんむりを装備していて、首の切断部には包帯が巻かれていた。
目つきと言葉遣いは最悪だが。
「勇者アルスは一三個のスキルと、様々な強力魔法を使える人間兵器である。しかし一歩力及ばず、魔王に敗れた。結果、首をはねられた末に捨てられた。頭部の方は、ご覧の通りうるさいからすぐに見つかったが、体の方は行方知れず。二年経った今でも見つかっていない」
「フンッ。我輩の一三個あるスキルの一つ、『不死再生(イモタリティ)』によって、首チョンパされても死ぬことはない。どうだ、すごいだろっ。すごいと思ったら我輩をあがめ奉れ、愚民どもめ。って、いってぇ!」
「そろそろ黙れ、勇者アルスよ」
ルイーダの脳天チョップを受けて、涙目になる勇者様。
「先に述べた通り、勇者の体はスキルと魔法の宝庫だ。様々な地下組織が血眼になって探している。エルフやドワーフ、魔族たち。同じ人間でも、ただ力のみを得たいと考える不届きな奴らが勇者の体を――」
「我輩のセクシーでグラマーな体をもてあそぶために狙っておるのだっ。そんな奴らにいやらしい辱めを受けることになれば、もう絶対お嫁にいけないではないか――って、痛ぇぇ!」
「だから黙れ」
ルイーダが勇者様を鷲づかみ。ミシミシと頭蓋骨が鳴っている。
「で、勇者に魔王討伐を命じたのは王国だ。新たな争いの火種となり得る勇者の亡骸を、誰よりも早く見つけ出さねばならない。しかし、大々的に捜索活動をすれば、魔物たちに勇者が生きていることがバレてしまう。そこで、君たち冒険者の出番というわけだ」
「わ、我輩の体を探す部隊だっ。せめて、我輩がその隊員を決めたいのだ。だって、魔王との激しい戦闘で……その……服とか破けているかもしないし……足とか腕とかもげちゃって惨めな姿になっているかもしれんだろっ」
なるほど。勇者様も乙女なんだな。
「さあ、前置きが長くなったが、面接開始だ! 内容は簡単、一人ずつ勇者アルスの前に来い。あとはアルスが適当にフィーリングで合否を出す。どうせこの生首に人を見る目などないのだ。ほら、先着順だぞ。我こそはという者から挑んでこい!」
めっちゃグダグダな展開。
斯くして、捜索隊の選考会が始まった。
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