大きな二つの夢

文屋旅人

大きな二つの夢

「本当に残念だ。これで政権を渡す相手がいなくなった」

 先生の葬儀に来て下さった岸信介先生は、そうお嘆きになりました。

 恐らく、本当に政権を渡す気はなかったと思いますが、それでもこの言葉を聞いた先生はお喜びになると思います。

 先生は、社会党の再統一に尽力なさり、岸先生は保守合同を成し遂げなさったのですから。

「すまないな、あの阿呆を支えてくれて」

 岸先生は、先生の秘書をしておりました私を見て、そうおっしゃってくれました。

「いいえ、私は先生が岸先生と共に二大政党の夢を語る姿が好きでした」

 政治的に左派的な先生と、政治的に右派的な岸先生。二人が政治的思想の壁を越えた親友であったことは、それを間近で見ていた私にとって誇りであります。

「また、花を供えに行くよ」

 岸先生は、そういうとお戻りになりました。

 私は、葬儀場に掲げられた遺影を見ます。

 三輪先生、あなたと岸先生が夢見た二大政党制の時代がもうじき来ますよ。


 この時、私が三輪寿壮先生に語り掛けたような二大政党制は、55年体制が終わっても来ることはなかったです。

 でも、あの日あの時大きな夢を見て、政治思想の壁を越えた先生と岸先生のお姿は、私の生涯の宝となったのです。



          了

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