太宰治混沌時代劇シリーズ  ~走れっ!!! メロス!!!! 血風録!~

文屋旅人

太宰治混沌時代劇シリーズ  ~走れっ!!! メロス!!!! 血風録!~

 メロスは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。

 メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の戦士である。

 剣を振り、戦士と殺し合って暮らして来た。けれども、邪悪に対しては人一倍に敏感であった。今日未明、メロスは村を出発し、野盗を斬り山賊を斬り、十里離れたこのシラクサの市にやってきた。



 メロスの父も、母も、戦死した。女房も無い。十六の、無骨な妹と二人暮らしだ。

 この妹は、村のある精悍な一武人を、近々、花婿として迎えることになっていた。

 結婚式も間近なので、メロスは花嫁の衣装やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやってきたのだ。



 メロスには竹馬の友がいる。石工のセリヌンティウスである。

 一通り品々を買い集め、セリヌンティウスと酒でも飲もうと向かっているうちに、メロスは街の様子を怪しく思った。すでに日も落ちているので暗いのは当たり前なのだが、そればかりでなくもっと別の暗さがあった。メロスは不安になった。



 メロスは刀を抜き、路で逢った若い衆に突き付けて、何があったのか、二年前にこの位置に来たときは、夜でも皆が兵法を談義し、町は賑やかであったはずだが、と質問した。若い衆は、匕首でメロスの刀をはじいて答えなかった。

 しばらく歩いて老爺に出会い、今後は首筋に刀を添わせて質問した。老爺は答えなかった。メロスは老爺の首の皮一枚をすっと斬って、質問を重ねた。老爺はあたりをはばかる低温で、わずかに答えた。

「王は人を殺す」

「何故だ」

「悪心を抱いている、というが……誰も悪心など持ってはおらぬ」

「多く殺したのか」

「初めは妹婿が三日三晩苦しみ死んで、それから御世継ぎが急に亡くなり、後に妹様は老婆のようになってお亡くなりに。それから妹様の御子も下痢となり衰弱死、それから皇后さまと賢臣アキレス様をも血を吐いて死んでおります」

「気狂いだな」

「気狂いにあらず、人を信じれぬとのこと。この頃は臣下臣民を信じれず、少しでも派手な者は軒並み質をとられ、拒めば王自ら毒で殺す。今日は六人、殺された」

 聞いて、メロスは激怒した。

「天誅だ」



 メロスは単純な男であった。買った品を背負ったままで、怒りの赴くままに王城に入っていった。

たちまち彼は、巡邏の警吏に囲まれる。

「侮るな、痴れ者がっ!」

 メロスは忽ちに警吏を切り殺そうとした。

「む」

 メロスは刀を忘れたことに気が付いた。仕方がないので妹に食わせる予定であった羊の骨付き肉で警吏の顎を叩く。

 脳震盪を起こしやすい場所だ。

「な!」

「怪物だ!」

 衛兵たちはメロスにおびえる。メロスは羊の脚の骨付き肉や大根、牛蒡、米俵などを使って次々に意識を刈っていく。衛兵たちは、おそらく刀なら自らの命がないことを察する。それほどまでに、鋭く空を切る羊の脚の肉だった。



 メロスは群がる衛兵を祝宴用に買った品々で打ち倒す。ついには、城の最奥にたどり着く。

 かぼちゃを握り、振りぬいてその扉を砕く。

「王よ、天誅ぞ!」

 王城の奥に座する王の場所まで、メロスは駆け抜けたのだ。

「天誅とは何ぞや」

 暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をもって問いかける。

「市を暴君の手から救うのだ」

 メロスは胸を張って答えた。

「暴政? 我ほど民に優しき王はおらんわ」

 王は嘲笑する。

「笑うな!」

 メロスはいきり立って反駁した。

「人の心を疑うことは、最も疑うべき悪徳だ。王は民と臣の心を疑っている!」

 ディオニス王は、目を細くする。

「なんの話だ?」

 それを聞いたメロスは激怒した。

「とぼけるか! 死ねっ!」

 メロスは刺身にするための秋刀魚を構える。

「ぬんっ!」

 振られた秋刀魚は、鋭き一撃としてディオニスの頭を砕いたはずであった。

「ぬっ!?」

 メロスは困惑した。砕いたと思った王の頭蓋はそこになく、玉座に秋刀魚が刺さっていた。

「残像だ」

 王の声が背後からする。

 メロスは、背筋に悪寒を感じた。

「しゃっ!」」

 メロスはかぼちゃをとっさに防御として構える。そのカボチャは、たちまちのうちに粉々に砕けた。

「武器をとれ、下賤の者。王の武を見せてやろう」

 嗄れた声でそういう王は、鈍色に光る刃を持っていた。

 良い刀だ、メロスは感心した。

「……」

 これに対抗できるもの、それはただ一つ。

「ほう、珍妙なものを手に取ったな」

 王は、にやりと笑う。

 メロスの手に握られているのは、小さな枯れ木の様なもの。

 妹の婚礼に出すお吸い物の材料にしようとしていた、枯節。その中でもさらに手間がかかる本枯節。この地球上でもっとも硬いといわれている食品、鰹節だ。

「これこそが我が魂、我が誇り」

 本枯節を、すっと構える。

「行くぞ王よ」

「来るといい、下賤の者よ」

 視線が交差する。メロスと王は、同時に動いた。

 メロスは、示現流の達人だ。

 鍛え上げた肉体から放つ一撃は、鉄を砕く。

 対するディオニスは、柳生新陰流の達人である。

 学びし武の学を臨機応変に使い、多様なる花を咲かせる。

「チェスト!」

 知恵を捨てよ、メロスが死した父より伝えられた武の極みである。考えるな、砕け。そう言わんばかりの力強い父の言葉は、メロスに邪智暴虐の王を切り伏せる力を与える。鰹節が信じられない速度で振るわれる。

「ふんっ!」

 ディオニス王は、それを受け流す。しゃりっという音と共に、鰹節が舞う。

 打ち合いが、続く。メロスの鰹節はだんだんと研ぎ澄まされ、ディオニス王の周りを鰹節が飛び交う。

 無限にも続く、打ち合いであった。

 一向に決着がつかず、王の間に駆け付けた衛兵たちはメロスとディオニス王の交合に見惚れる。



「むっ……刀が……」

 ディオニス王は気が付けば自らの刀が鈍らとなったことを悟る。

「くっ」

 一方、メロスは本枯節が全て削り節になってしまい途方に暮れる。

 王も、それを察した。二人の周りには、花の如く削り節が散乱している。

「この我をここまで苦戦させるか」

 王は、尊大に、そうつぶやいた。

「くっ……殺せ……」

 メロスはそういった。もうすでに、王の刀に対抗できる食材はない。

 メロスは後悔した。刀を忘れたことをだ。刀さえあれば、王の刀ごと王を叩き割れたであろう。

 しかしながら、王は口を開く。

「メロスよ、貴様に機会を与えよう」

「機会、だと?」

「そうだ、機会だ」

 王は刀を収め、悠々と王の座に戻り宣言した。


「メロスよ、我と料理勝負をせよ」


「ほう」

 メロスの顔つきが変わった。この男もまた、料理人か。

 それを聞いた衛兵たちがざわめく。

「ここに食材があるな、もしも我との料理勝負に勝てば、その命助けてやろう」

「その勝敗、だれが判定するのだ?」

 メロスは料理が好きだ。メロスは料理でも誰にも負けぬ自信があった。だが、暴虐の王ディオニスは自分に有利な判定をするものを判定者として呼ぶに違いない。その者は、期待通り王に有利な判定をするだろう。そう思った。

 だが、王の口から出た言葉は意外なものであった。

「お前が選ぶといい」

 メロスは目を見開く。

「なるほど……よほど、自信があるようだな」

 メロスが問いかける。

「むろん、王の料理とは至極のものよ」

 ディオニス王は、威風堂々とした態度でいう。

 メロスは迷う、ここで自分の友人であるセリヌンティウスを呼んでもいいのか、と。もしここでセリヌンティウスが自分に有利な判定をしたら、それは卑怯な行いではないか、と。メロスはそう思った。

「むん!」

 メロスは、次の瞬間、自分の脚に落ちていた秋刀魚の頭を突き刺した。

 一瞬でも、あの誠実なセリヌンティウスを疑った己を恥じたのだ。

「……決めた、シラクサに住むセリヌンティウスを呼んでくれ。彼は、公平誠実な男だ」

 それを聞いて、王はにやりと笑う。

「ふむ、ならばその男が我が料理を見せつけながら、お前を磔にしてやろう」

 ディオニス王はそういった。



 深夜、王の使いから呼びつけられたセリヌンティウスは死を覚悟した。

「準備をいたします。しばしお待ちください」

 表面上は冷静さを保ちながら、セリヌンティウスはびくびくしながら準備をする。

 自分の死後の冥福のためにハーデースに捧げるものを祭壇に供え、王の使いと共に王城に向かう。

「……ご愁傷様です」

「……王だけならば、まだましだったのだ」

「……?」

 王の使いは、セリヌンティウスが最後に発した言葉の意味が分からなかった。

 セリヌンティウスは、己が万に一つも生き残れぬと察してガクリとうなだれた。


「ふむ、成程確かに誠実そうな男だ」

 セリヌンティウスを見た王は、そういった。

 セリヌンティウスは細身の、芸術家らしい細身の男である。顔から朴訥さがにじみ出ており、嘘がつけそうにない。

「気に入った、我とメロスの戦いを見届けるのだ」

 セリヌンティウスは平伏する。

「ではメロス、行おうではないか……我とお前の戦いを」

 それを聞いてメロスは笑う。

「勝つのだ私だ、暴虐な王よ」

「否、勝つのは我だメロスよ」

 王とメロスはエプロンを着て、調理台に上がる。

 こうして、王とメロスの料理対決が開始する。

 コロッセオに集められたシラクサ市民たちの見守る中、メロスとディオニス王の料理が始まる。



「では、まずは米を炊こう」

 メロスは奮然とキ〇イキレ〇を手に取る。そして、白い米にそれをボトルの半分ほどぶっかけて、米を研ぐ。

「米とは、美しく磨かれるべきだ。キレ〇キ〇イは手を美しくしてくれる。当然、米にも当てはまる」

泡立つ米を見て、メロスは今日の米の鮮度はいいなと笑う。米のぬかとは、雑味を生む元だ。それ故に、洗剤で洗って流さなくてはいけない。

 泡が湧きたち米が躍る。メロスはそれを水で洗い流す。

 ざっざと米を洗い、きれいにする。

「ふむ、こんなもんだな」

 そういうと、メロスは炊飯器に米をぶち込む。

「次は羊シチューだ」

 ぼそりとそういうと、メロスは雑に圧力なべの中に羊の骨付き肉と材料を入れて、あくをとることなくそのまま煮込みだす。

「羊の旨味を逃してはいけない。全ての旨味を余すことなく使うことこそが料理なのだ」

 他に何を作るべきか。それを考える。

「さて、他に作っておくべきなのは……付け合わせの刺身だな」

 メロスは跳ねるタイの首を落として皿の上に乗せ、醤油をぶっかけた

「新鮮なままに、そのままの姿を用いる。ダイナミックに醤油をかければ、当然うまい」

 一方の、ディオニス王。

「ふん、やはりカレーこそ王者の食事よ」

 ディオニス王が作るのはシーフードカレーだ。

 初めに、クサフグを圧力なべの中にぶち込む。そして、そのほか数種類の魚を生きたまま圧力なべの中にぶち込んでいく。

「ニボシも丸のまま食べればうまいのだ。白魚の踊り食いなど獺〇によく合う。当然、魚は丸ごと使うのが正しいのだ」

 そういいながら、生きたまま魚を圧力なべに放り込む。鍋の蓋を占めて、生きたまま煮込みだす。鍋の中で、ビチビチと音がする。

「奴は小生意気にもコシヒカリを使っているようだな……ならば、王としての格を見せつけるためにあきたこまちを使うか」

 王はあきたこまちを取り出し、研ぐことなくそのまま炊飯器にぶち込んだ。

「あきたこまちこそ最高よ。風味がよい。ふむ、更に卵焼きでも作るとしよう」

 王はそのままテフロン加工されたフライパンを取り出し、卵を焼きだす。強い火力で焼きだすから、香ばしい黒い卵焼きになる。

「さて、さらなる王の料理としてサラダを作ろう」

 ディオニス王はもろもろの野菜を塩素系漂白剤ハ〇ターにぶち込む。

「やはり〇イターは良い。見ると良いわあああああああああっ! この、光沢をおおおおおおおおおっ!」

 漂白座にぷかぷか浮かぶ野菜を見ながら、ディオニス王は恍惚の表情を浮かべる。

 勝利を確信してディオニスは、思わずハイテンションになった。



 王とメロスが調理をしている周囲は地獄であった。

 吐瀉物がまき散らかされ、死屍累々と言っても過言ではない状況であった。

 あつまった群臣たちは王の食事だけならば耐えれる自信があった。例え、妹婿を始めとする王の家族が息絶えるほどひどい王のマズメシでも、もう慣れたと思っていた。

 しかしながら、そこにメロスという核爆弾が投下されてしまった。

 メロスの料理と王の料理が奏でる異臭の合唱は、集まった人々の心を殺すのに十分であった。

 一人、また一人、根源的宇宙恐怖を鼻腔に叩きつけられながら倒れていく。

 それを見たシラクサの市民たちは、王とメロスの恐ろしさを脳裏に叩き込まれる。

「ぐっ……」

 セリヌンティウスは、何とか気合で意識を保つ。

 セリヌンティウスは知っていた。

 王の料理がひどいことを。

 そして、メロスの料理もまた、王に劣らずひどいことを。

 そもそも、なぜ花嫁の父親代わりである兄が買い出しに行かされたか考えてほしい。こういった場合他の親族や友人たちが兄に準備をさせるために買い出しを請け負うものである。

 しかしながら、メロスの村の者たちは知っていたのだ。

 メロスに料理をさせると、冒涜的恐怖が降臨することを。

 メロスは献身的な男だ。メロスは自分で自分の料理を食べたことはない、なぜならば、メロスはその善性により、作ったものを一つ残らず他人に与えるからだ。そして、セリヌンティウスはディオニス王もまたメロスと同じ思考回路の人間であることを知っていた。

 セリヌンティウスは、地獄の悪魔がひねり出した糞のようなにおいに耐えながら前を見る。

 セリヌンティウスの意識を保っているのは、メロスからの無垢の信頼であった。メロスが自分を信じていると知っているからこそ、セリヌンティウスは高潔な奉仕の心で意識を保っているのだ。。

 そんなセリヌンティウスを、まだかろうじて意識を保っていたシラクサの民は同情的な目線で見ていた。

「くっ、はっ」

 セリヌンティウスは歯を食いしばる。

 この匂いに耐えた先にあるのは、何かわからない。それでも、セリヌンティウスは耐えるのだ。

「できたぞ……ふむ、どうやら我が究極の料理の高貴なる香りに皆がやられたようだな」

 王が自信満々に料理を置く。

 違う、そうじゃない、とセリヌンティウスは突っ込みたかった。

「そちらも可。いいだろう、田舎者とさげすんだものの野趣あふれる美食に目を見張るがいい。至高の料理、見せてやろう」

 メロスも、負けず劣らず自信満々に料理を置く。

 なぜお前はその料理でそこまで自信が持てるのだ、そもそも雑に作ったものを野趣あふれるというな、とセリヌンティウスは心の中で突っ込んだ。

「さぁ、食べるのだセリヌンティウスよ。王の食事だぞ」

 まずは、王の食事を食べなくてはいけない。

 セリヌンティウスはその身を何とか立ち上げて、絶望的な表情で食卓に着く。

「ふむ、その顔……よほど王の料理が恐れ多いと見える。気を楽にして食うと良い」

 私は一体どのような悪事を働いたのであろうか、とセリヌンティウスは天を仰いだ。

「我が作りし料理は、フィッシュカレー卵焼きとサラダを添えて、だ」

 目の前にあるのは、不気味な物体であった。カレーはルーの中から煮込まれた魚の眼がぎょろりと睨んでおり、卵焼きと呼ぶのも烏滸がましい物体が、塩素の臭いを強く発する生野菜の上に載っている。

「……いただきます」

 セリヌンティウスはかくごをきめて、カレーを食べ生臭い。

 カレーを食べた、と表現する暇もなくセリヌンティウスの脳裏によぎったのは、生臭いという表現であった。

 まず、カレーの中にうろこが大量に入っているし、何より生臭いし、そしてなんか息苦しくなってくる。

 卵焼きは砂を食っているような触感であるし、野菜は塩素に染め上げられている。ハイ〇ー恐るべき。

「うぐっ」

 セリヌンティウスは吐き出したくなる気持ちを抑えながら、食べ進め、る、のが、難しい。

 泣きたい。

 なんでこんな糞の様なものを食べなくてはいけないのか。そんなことをセリヌンティウスは思った。

「ほう、我が料理の旨さに咽び泣くとは見事。市井の身で王族の味覚を持っておる」

 ディオニス王は頭の腐ったことを言ってやがる、心の中でセリヌンティウスは悪態をつく。

「では、次は私の料理だセリヌンティウス。羊のシチューと米、鯛の刺身だ」

 一方のメロスの料理。

 羊のシチューはは荒れていてもわかる羊の生臭さ。米はやたらとてかてかしているが、多分〇レイキ〇イのてかりだろう。そして、鯛の刺身と呼ぶのも烏滸がましい物体は、タイの頭を落としただけで切断面から内臓がどろりと出ている。さらにうろこが付きっぱなしだ。そこに醤油をぶっかけただけのもの。

「うっぷ」

 セリヌンティウスは一口食べる。羊の臭さ、ごみのような味が口をぶん殴る。

 米は気持ち悪い味がする。

 鯛? 奴は死んだよ。

 セリヌンティウスはそれを何とか食べる。

 呼吸が苦しい。

 死にそうだ、意識が朦朧とする。

「さぁ、セリヌンティウスとやら。どちらが旨いか?」

「セリヌンティウス、どちらが旨い?」

 メロスとディオニス王は問いかける。


「いずれも甲乙つけがたく、この世の者とは思えぬ料理と存じます」


誠実の人セリヌンティウスは意識の途切れるその瞬間まで、人としての礼節を忘れなかった。そして、ばたりと倒れた。

「あまりの恍惚に正体を失ったか…。なんと誠実な男であることか」

「さすが我が友セリヌンティウスだ。しかし、これでは勝負がつかぬ」

「勝負はもうよい。メロスよ、見事であった」

「どういうことだ」

我に並ぶ稀代の料理人を殺したくはないからな、と王は微笑んだ。 メロスとディオニス王は力強い抱擁を交わした。

 シラクサの民は泣いた。



 こうして、メロスとディオニス王は真の友人となった。

 朴訥で誠実なメロスは、王の右腕としてその料理の腕を存分に振るいシラクサの勢力拡大に寄与した。



 メロスの妹は兄の料理を食べなくてすむと安堵しながら結婚し、静かに人生を送った。



















 セリヌンティウスはクサフグの食中毒で死んだ。




          了

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