手首
本編もですが、こちらも今回は合う・合わないあると思いますので、「ちょっと……」と思われたら遠慮なくストップして閉じて下さい。個人的な話ですので(毎回ですけど💦)。
リストカット。今では皆が知っている言葉です。けれど「学校でリスカが見つかって先生に怒られた」という話を耳にすることもあって、本当に「知って」いるのだろうかと思うこともあります。
私自身も、知ってはいても本当に理解しているのかというと、言葉に詰まりますけれど。
リストカット。私が十代の頃は、誰もそんな言葉を知りませんでした。
高校生の頃。友人が、手首に包帯を巻いていました。
とても優しい人でした。そして、とても強い人でした。
その人は、私にとって大切な存在でした。
切ってしまうのだと打ち明けられた時、私は彼女に「死なないで」と訴えました。
彼女は泣きながら言いました。
「死のうとする弱い自分に負けたくない。それなのに、気付いたら切っている」
身体の痛みを使って、心の痛みや苦痛を逸らし、切り離す。無意識の、必死の生への試み。
けれど当時の私も彼女も、それは死を望む行為なのだと思っていました。生き延びるためにもがいている彼女に、気付くことができなかった。
真っ白な包帯、鮮やかな赤。
本編で出てくる「真っ白な世界」。呼びかけも耳に入らず、瞳には何も映らず、存在が遠のいていく彼女。
これは「解離」と呼ばれるものを描いたつもりです。
状況が人間の心にとって処理するにあまりある時、意識は何とか逃げ出そうとします。この「その場を離れる」「出来事から距離をおく」状態が解離です。解離によって耐え難い恐怖や苦痛から生き延びることができる一方、繰り返されることで自動的な反応となり、突然解離状態に陥り本人を危険に晒すこともあります。
私の友人の場合はこの解離状態に陥るようになり、リストカットを行っていたようです。
けれど、それを彼女に伝えてくれる人はいなかった。記憶が無いまま、気付いたら傷ついた手首がある。何が起きているか分からず、どんなに恐ろしかっただろうと思います。
私がリストカットという言葉を知ったのは、高校3年生の終わりでした。受験対策として目を通した新聞の社説に、その言葉は載っていました。その本当の意味も。
私は社説を読み返しました。泣いていた彼女と、白い包帯が甦りました。
もし、あの時このことを知っていたら。教えてくれる誰かがいたら。
そう思わずにいられませんでした。知っていても、彼女のリストカットは止まらなかったかもしれません。けれど、その苦しみの質は少し変わったのではないだろうか、と。
本編でやや唐突に、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが出てくるのは、当時の私の思いからです。
私が十代の頃はスクールカウンセラーなんていませんでしたが、今では当たり前に学校にいます。大半が非常勤で相談の枠がすぐ埋まる学校もあるみたいですが、生徒が気軽に相談できる存在であってほしいなぁと思います。
スクールソーシャルワーカーは、聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。学校のソーシャルワーカー。こどもや家庭の悩みに対し、学校・家庭・病院・地域などの環境に働きかけ、連携・調整していきます。春埜さんにスクールソーシャルワーカーが関わってる背景は本編で書けず、「?」だったことと思いますが、家庭の事情や医療に繋ぎたいという思いがあってのことです。たぶん。
スクールカウンセラーは心理面から、スクールソーシャルワーカーは環境面から、連携して支援しているケースもあります。
もちろん、学校には親身になって下さる教職員の先生がたくさんいらっしゃいますし、そんな先生に支えられている生徒も多いと思います。けれど、日常付き合う先生とは違った立場の人だから話せる、分かってもらえる、ということもあるように思うのです。学校の中に少し違う文化の人がいるって、大事なことのような気がします。
リストカットには「アピール」「リスカする人は死なない」という声もありますが、そうとは言えません。リストカットはその日その日を生き延びるための手段ではあっても、長期的には自死の危険因子です。人に助けを求められず、物(刃、過食、薬等)に頼ってしまう。自分を大切に思えないし、大切に扱えなくなっていく。軽く扱っていいことではありません。苦しい中で生き延びようとする、切ない叫びなのだと思います。
そんなこんなで、私にとって「十代」と「リストカット」というのは切り離せないことでした。この物語のどこかでこのことを書きたい、と思い……しかし想像以上に難しくて、中途半端な拙いメッセージになりましたが……。
前回に引き続き読後感が微妙だろうなと申し訳ないのですが、次回は違うテイストになるはず(^-^;
最後に。
このお話を書くにあたり、参考にした本があります。リストカットが当事者にとってどんな体験なのか、そこにどう向き合っていくのかが丁寧に描かれています。
「自傷する少女」 スティーブン・レベンクロン 集英社文庫
十代の頃、同じ作者の「鏡の中の少女」という摂食障害を扱った本は読んだのですが、この本の存在は知りませんでした。あの頃、読みたかったとつくづく思います。
いくら片隅とはいえご本人の了承も得ず、こんなことを言うのはどうかと思うのですけれど……。
この本を教えて下さったのは、カクヨム作家の宵澤ひいな様です。
真摯に「あの頃」に向き合われるひいなさんの作品を拝読して、いつか胸の内にあるこのお話を書きたい、と思いました。あまりに拙くて、お恥ずかしいんですけど。
R4.3現在、カクヨムお休み中のひいなさん。いつの日か、あなたの儚く美しい世界の扉が開く日を楽しみにしています。
勝手ながら、私のおすすめ作品をご紹介。
「アノレキシアの百合」 宵澤ひいな様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054928690094
ひいなさん、どうもありがとう。
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