陶器

 前もちょこっと書いた、私が中学生の頃に出会った吹奏楽部の先輩のこと。

 先輩は厳しくて冷ややかで、私はいつも「なんで出来ないの?」と責められた。皆、先輩の前では機嫌を損ねないようにしていたけれど、陰では嫌っていた。私は先輩が怖かったくせに、一変して悪口を言う皆にモヤモヤして、でも皆と一緒に笑っていて、だから同じ穴の狢だった。


 卒業後、「あの先輩怖かった」と何気なく話した私に、母がポツリと言った。

 「あそこは、家が厳しくてね。昔から躾としてすごく怒ってあったから」

 

 淡々とした先輩の声。冷ややかな眼差し。

 詰ることを楽しんでいる様子は無かった。先輩にとってはそれは正しいことで、そこから逸れることは許されなかった。

 母の言葉を聞いて、私は初めて気付いた。

 あれは、先輩自身が経験してきたことだったんだ。


 私は部活が終われば、逃げられた。

 でも、先輩はずっと逃げられず、許されなかった。そして、それが先輩の世界になってしまった。自分も周りも苦しいまま。


 だからといって、それを周りに押し付けていいわけじゃない、と思いますが。

 大人になってからも、頑なで冷ややかな眼差しに出会うことがあり、「あぁ、この人はずっとこういう世界で生きてきたんだろうな」と感じることがあります。

 

 みんな、どこかで何かしら引きずっているものがあったり、偏っていることがあったりするんだろうと思います。

 何を大事にして、どう生きていくのか。

 他人をどうこうすることはできなくて、結局のところ、まっすぐでもまん丸でも無い自分自身のデコボコを見つめて生きていくことだけだな、と思ったりします。せめて、自分の「正しい」を誰かに押し付けてしまわないように。


 時々、あの先輩は今どんな風に生きてるんだろうな、と思います。

 もしも、あの頃の私が先輩に抗っていたら、その正しい世界に亀裂を入れることができたのでしょうか。

 今も昔も、私は黙ってしまうのですけれど。

 


 

 

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