第一章 底辺の底辺
「よくさあ、俺は派遣だからとかあ、正社員じゃないからとかあ、言う奴がいるのよ。でもさあ、正社員だろうと、非正規だろうとね、一生懸命働いてぇ、お金稼いでぇ、食ってかなきゃいけないのはさぁ、みんな同じなんだよねえ」
朴訥かつ陰惨な東北訛り。
これは後で知ったことだが、この面接担当者の加藤さんは、成見と同じ岩手県の出身らしい。上司にして現場担当者のキーパーソンが同郷の出だったということは、成見にとって幸運なことだったに違いない。同一化もより容易だったはずだ。尤も彼の場合、自分より立場が上の人間に対しては、仕事が人並みに出来る限りにおいて、誰彼構わず擦り寄っていたように思えるが。
発言内容には一%も共感出来なかった。
果たして本心だろうかと訝った。敢えてこのような言い方をするということは、本気で言っている訳ではないのかもしれない。自身の発言を心から信じているほど素朴で単純な人間には見えなかった。本心半分、ビジネス半分といったところではないか。面接の最中だったので、それ以上考えるのをやめた。そのうちわかるに違いなかった。
この時に私がどう答えたのか、今では明確に覚えていない。恐らく曖昧な笑顔で適当に同意したのであろう。そうですね……。
面接は続いた。
「派遣とぉ、契約社員でぇ、どっちが嫌だとかぁ、そういうのある。契約じゃないと嫌だとか」
求人広告では確かに、派遣と契約と両方の条件で募集が行われていた。契約だと夜勤があったため派遣を選んだ。しかし時給その他の条件は全く同じだった。
今だったらピンハネ派遣は避けたいところだが、当時はあまり気にしていなかった。それにどうせ同じ会社の同じような仕事なので、そんなことを気にしても仕方なかった。
「いや、特にどちらでも構わないです」
私がそう言うと、加藤さんは微かに安堵したように見えた。
「土曜日にぃ、出勤があるんだけどぉ、毎週はキツイ」
こちらも求人広告にそのような記載があった。但し毎週とは書いていなかった。
「そうですね、毎週はちょっとキツイですね」
極めて常識的な返答をした。
その後何を言われたのかは覚えていない。確か何も言われなかったような気がする。しかし何を考えたかは覚えている。まさか土曜日が一日残らず休日出勤で潰れるなんてことは有り得ないだろう、と。しかし後にそれが現実となった。
型通りの面接が終わると、早速現場へと案内された。
だだっ広い工場の中央通路を延々と歩いてやっと辿り着いたのは、倉庫のような小さな建物だった。後でよく見ると、壁はコンクリート・ブロックを積み上げただけの代物で、耐震化が義務付けられる前の古い建屋だった。よく三一一の震災でぶっ倒れなかったものだと、皆でよく冗談を言い合ったものだ。正式名称は『実験Z棟』だったらしいが、私が就業した当時は『梱包ヤード』と呼ばれていた。
最初は入り口にシャッターもなく、冬はフリーザーで、夏はサウナ同様だった。おまけに雨漏りがあるため、仕事の最後には養生することが必要だった。夜に雨が降ると、朝一でビニールカバーを剥がそうとした時に、水滴が見つかることがあった。
入り口から入ると、正面にプレハブの事務所があり、右側に作業スペースが広がっていた。数人が何やら作業をしていた。機械の音がうるさくて自分の声も碌に聞こえなかったが、何をやっているのか詳細はよくわからなかった。どうせ後で、嫌というほど毎日やる羽目になる作業だった。
そこで現場の責任者だという長田さんに紹介された。
六十代くらいで、銀縁の眼鏡をかけている。小柄だがよく通る声で、威勢のいい喋り方をした。屈託のない笑顔で、加藤さんと冗談を言い合っていたが、有無を言わさぬ凄まじい威圧感を感じた。加藤さんも、自身の立場以上に気を遣って愛嬌を振りまいているように見えた。
挨拶が済んでヤードを出ると、加藤さんが言った。
「長田さんの方も、朝木さんが気に入ったって言ってたよ」
正直言ってあまり気に入られても困ると思った。仕事に対する負荷は最小限に抑えたかった。嫌われて嫌がらせをされたりしない程度に、仕事はそつなくこなして、後はなるべく透明な存在でいたかった。
ついでに言うと、その言い回しも少々気になった。今時『気に入った』とか、昔のドラマみたいで少々芝居じみている。悪い人間ではないのだろうが、熱血漢というか、気合い入れろオラオラ的な、あまり洒落が通じるタイプではないような気がした。ああいったタイプに気に入られるということはつまり、『一緒にぶっ倒れるまで仕事を頑張ろう』という意味になるのではないだろうか、と一抹の不安がよぎった。
しかしその役目は成見が一身に引き受けてくれることになった。この点は彼に感謝するべきかもしれない。
ともかくこうして私は採用され、翌週から出勤することになった。初出勤は九月三十日だった。何故十月からにしなかったのかは、未だによくわからない。
本題に入る前に、背景を説明しておく必要がある。工場とは何か、そこでどんな仕事をしているのか、私は何者か、成見とはどんな人物なのか、真実の愛とは何か、男女間に友情は成立するのか。プロローグに辿り着くまですら、まだ一年半の時間がある。少々長くなるが必要な部分なので、我慢してお付き合い願いたい。なるべく簡潔に済ます努力はするつもりだ。
まず工場とは何か。
工場と言ってもいろいろある。家電、半導体、化学製品、ねじ、パルプやらボールペンやらミニオンの指抜き人形からお線香まで。或いはいちごパイナップルメロンパンや黒糖おはぎなどの食品を製造する工場も一般的に『工場』と呼ばれる。
しかし私がその時就業したのは自動車部品の製造工場であった。本社は関西にあり、東証一部上場、一次請けで国内に巨大な工場が三か所、海外にも事業所と組み立て工場が数十か所あり、面接でも加藤さんに言われたとおり、その部品では世界シェアナンバーワンの、超優良グローバル企業であった。各工場建屋の玄関には『世界シェアナンバーワン』の横断幕がかかり、地図には世界中の自動車メーカーと自社海外工場の位置がプロットされ、恐らくタミヤかアオシマの自動車のプラモデル(いや、完成品かもしれない)がディスプレイされていた。
私が大学をきちんと卒業して、きちんと就職活動をしていれば、もしかしたら、この会社のホワイトカラー部門に新卒で入社して、今頃は結婚して子供を作って3LDKの家のローンに追われ、単身赴任で海外の事業所でバリバリと仕事をこなし、現地の中国か韓国か或いはメキシコあたりの若くて可愛い愛人でもつくって勝ち組人生を満喫していたかもしれない。
ところが現実はそう甘くはなかった。大学に入ったところまでは良かった。いや、実際はその前から既に崩壊は始まっていたのだが、表面上、軌道を外れたのは大学を中退した時点からだろう。そこから長い長い迷走が始まり、それが今に至るまで続いているという訳だ。
その原因はもちろん私自身にある。怠惰、怠慢、コミュニケーション能力の欠如、経験と自信の欠如、主体性の欠如。決して自己中心的ではないが、他人に優しいという訳でもない。以前はそう思っていたが、それは優しさではなく単なる弱さだということがこの年になってわかってきた。体調不良からはようやく脱しつつあった。以前は朝起きて出勤して夕方帰宅して夜寝るという、ごく普通のサイクルの生活を送ることすら困難な状態だった。あの状態から、よく工場の肉体労働に耐えられるまでに快復したものだと、我ながら感心する。
機能不全家庭と貧困とカフェインの危険性については、そのうち書く機会があるかもしれない。
かくして、四十前にして、底辺である派遣の、更にその派遣でも底辺である工場などに、仕事を求める羽目になったという訳だ。
就業当初、私は派遣社員であった。当時他の部署では既に請負化が進行中で、ワークネードの契約社員が工場の作業を行い、ワークネードの正社員が、工場の社員の指示を受けて作業を監督していた。従って同じワークネードの非正規でも、契約と派遣が混在していたことになる。しかし私が配属された梱包セクションは、まだ請負化されておらず、工場の社員の直接の指示で、我々派遣社員が作業をしていた。面接で加藤さんに聞かれたのもこの点を踏まえてのことであった。
梱包セクションの正式名称は、実はよく知らない。工場ではKDと呼ばれていた。KDとはKnock Downの略で、輸出向けの梱包を指す用語である。工場には複数の部品のラインがあり、KD梱包セクションの所属は、UC部品の『部品管理課』となっていた。部品の製造工程としては、成形、熱処理、磨き、画選、中組、組み立てなどがあり、その各工程を管理する部署だったようだ。ところが、仕事に興味のない私は、結局詳細を知らないまま退職してしまった。
しかし自分がやっていた仕事に関してはよく覚えている。何せ四年以上、毎日のように同じような作業をやっていた。工場と聞いて、最初はてっきりライン作業だと思っていたが、実際は全く違っていた。
『梱包セクション』の名の通り、業務内容は部品の梱包だった。国内にある自動車工場向けの部品は、工場内で組み立てて出荷されていたが、海外にある国内メーカーの自動車工場および海外メーカー向けは、部品のままで現地の自社工場に送って、そこで組み立てていたらしい。そのための梱包作業が我々の業務だった。
作業には幾つかの種類があるが、入社二日目からやることになったのは、分配機による梱包作業だった。
当時、サブリーダーだった坂上君が解説してくれた。
「まず、梱包の前に段取りがあるんですよ」
彼はまだ当時二十代の若者で、風貌はややサイタマノラッパー的な感じだったが、妙にはきはきと優しい声で丁寧に解説してくれた。
「まず管理票を確認して下さい。もし管理票がなかったらすぐに言って下さい」
コンテナに入った部品は、台車に載っている。しかも普通の台車に三チャージ分、十二個のコンテナが積まれている。分配機の前に持ってくるまでに、何だかフラフラしていた。
「部品は絶対に素手で触らないで下さい」
グリップ付きの軍手は、既に支給されていた。
ついでに言うと、ヘルメットとゴーグルも装着している。ヘルメットの色が社員とワークネードでは違っている。社員はブルーで請負はグリーンとなっている。ゴーグルはメガネで代替出来る。坂上君も成見も長田さんも、皆自前のメガネを使っている。支給品のゴーグルを使っている方が少ないとさえ思える。
「まず、錆のチェックをするんですね。部品を一掴み取って、こうやってよく見て、錆とかないかチェックして下さい。もし何か異常があったら、すぐに報告して下さい」
部品は何種類かあるが、分配機を使用するのは、プレートのみだった。プレート類は、コインほどの大きさで角丸楕円形の金属部品である。材質はよくわからないが、色は光沢のあるシルバーで穴が二つ空いている。
しかしそう簡単に錆びるものなのか。
「雨とかで濡れたりすると、すぐ錆びちゃうんですよ。錆びてると、表面が茶色くなってるんで、すぐわかりますよ」
なるほど。
どの部品をやるかはリーダーか社員の指示による。しかしここで一応、部品構成表で番号をチェックする。部品は、数種類を組み合わせてセットにするため、どのセットでどのチャージをやるのか、全て決まっている。別に同じ部品ならどれでもいいような気もするが、もちろんそういう訳にはいかないのであろう。
チェックして問題がなければ、専用端末で管理票のバーコードを読み取る。三チャージ分。
ヤードの一角に事務作業用のテーブルがある。そこに着席。正しい姿勢で。
作業表に日付、名前、仕向け地、部品名などを記入。仮組表にチャージナンバーを記入。ここで改めて、セット部品の構成を表にする。
私がチャージナンバーを記入すると、坂上君が言った。
「これじゃあ薄いですね。大きさも、このくらい枠一杯に大きく書いて下さい」
消しゴムで消して、書き直した。
「シャープペンの芯は、濃さ何ですか?」
「ああ、多分HBですけど」
「一応、Bって決まってるんで、ここにあるんで、これ使って下さい」
新しい芯をシャープペンに突っ込んだ。しかし、カチカチと芯を出すと、新しいのか古いのか判別出来なかった。
この時点で少々うんざりしたが、まあ必要性は理解出来る。判読出来ないと意味がない。
次にサンプル用の紙片に仕向け地、部品名などを記入。紙片はいらない紙を誰かが切っているようだった。
ここで作業ヤードに移動し、サンプルを採取する。
部品をチャック付きの小袋に五枚入れ、さきほど書いた紙片を入れる。それをサンプル用の小箱に入れる。仕向け地、部品ごとにそれぞれ決まっている。
「場所が決まってるんで、間違えないようにして下さい。後で行方不明になって困るんで」
再びテーブルでの事務作業に戻る。
次は副票と製品ラベルの記入だ。
副票とは梱包した箱の中に入れるもので、チャージナンバーを記入する。製品ラベルとは、梱包した箱に貼るもので、やはりチャージナンバーを記入する。部品名は既にプリントされている。
「はい、じゃあラベルと副票を出して下さい」
副票と製品ラベルはキャビネットの引き出しに、一緒に入っている。似たような部品名が並んでいるので、最初はどれがどれやらわからない。引き出しを選ぶ段階からラベル記入の仕事は始まっている。
「これか」
無事に引き出しを選んで、副票と製品ラベルを取り出した。生きている喜びを噛み締めた。
「で、ラベルは三チャージ分で二十四枚なんですけど、副票は、管理表が一枚あるんで、ワンチャージ七枚なんですね」
ということは、三チャージ分で二十一枚ということになる。
製品ラベルはA4の既製品だが、副票は小さなカード状のプリント用紙で、恐らくカッターで切っているのであろう。二十一枚数えた。何だかポーカーでもやっているような気分になった。コール、プット、オープン、ツーペア、負け、破産。
「さっきも言いましたけど、数字は大きく書いて下さいね。丁寧な字で」
さっきはボールペンだったが、今度はマジックを使う。机に並べた副票に一枚ずつナンバーを記入していく。
ラベルは一枚で十分割のタイプなので、八枚ずつ記入すると、開始がずれていく。同じような数字を記入していくと、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになった。『8104』『8104』『8104』『8104』『8104』『8104』『8104』『81O4』『8105』『8105』……。
「はい、これで段取りは終了です」
続いて、袋状の防錆フィルムを段ボール箱に突っ込んでセットする。
段ボール箱は二種類あるが、ここで使用するのはトールと呼ばれるタイプだ。大きさはトースターくらい。底だけテープで封をされた状態で、通路脇に積んであった。
「お菓子とかの袋あるじゃないですか。それと同じで、こうやって三角形を作るんですよ」
坂上君が言った。
「それで箱にそのまま入れて、縁を折り返すんですよ」
台車の上で作業をする。折り返すと、蓋の角で袋が破けて穴が開いた。
「穴が開いちゃうんで、始めはそーっとやってください。穴開いちゃうと、防錆の意味がないんで」
テープで塞ぐ、という訳には勿論いかないのだろう。
二十四個の箱を作り終わって、壁際に積み上げた。
「ちゃんときれいに積んでますね。たまに箱積めない人がいるんですよ」
「え、積めない」
「そう、何か真ん中に広げて、滅茶苦茶になってるんですよ。邪魔だってわかんないのかなって思うんですけどね」
まあ世の中いろんな奴がいるんだろう。この後、嫌と言うほど思い知らされる羽目になった。
ここでやっと分配機に辿り着く。
分配機というのは、巨大な乾燥機をもう少し大きくしたような機械である。
ごく簡単にいうと、掃除機のようなもので部品を吸い取り、上部のタンクに溜めて落とすと、下の段ボール箱に収まる、という作業をする機械だ。
まず点検をしなくてはならない。
表に日付、部品名などを記入。バキュームを作動させて、ホースをぶんぶんとぶん回す。部品が中に引っかかっていることがあるからだ。そして上部のタンク内をバンバンと叩いて、下のプール部をガンガンと叩いて、プールの扉をガシガシと開け閉めして、非常停止ボタンを押して、グリグリと戻すと点検は終了。
おもむろに作業に入る。まず、段ボール箱を下の台車にセットする。
「前、成見さんが箱セットするの忘れて、部品ぶちまけたんで、やる前に必ず、確認して下さいね」
それは考えるだに恐ろしい。この後、センサーが取り付けられることになる。
「順番なんですけど、一、二、三か、一、二、三でやって下さい」
台車には三チャージ分の部品が積まれている。部品を入れた黄色いコンテナが四段に積まれ、縦向きに二列、その前にワンチャージが横向きに並んでいる。最後に前のワンチャージを残すと、台車がひっくり返るという。それ以前に、普通の状態で既にひっくり返りそうなくらい不安定に思える。実は台車をここに持ってくるのもおっかなびっくりだった。
部品の吸出しを始めると、物凄い轟音が頭を直撃した。掃除機の轟音に加えて、金属部品がガリガリガチャガチャと触れ合う音で、自分の声さえ聞こえなさそうだった。
コンテナ四ケースを空にして、吸出しは終了。上部タンクを傾けるとドアが開き部品が落下する。これまたうるさい。部品は下のプール部に溜まる。プール部は箱の数と同じ八つに区切られている。部品を均等に均す。更に下のハッチを開くと部品が落下し、段ボール箱に綺麗に収まった。一体誰がこんな代物を考え出したのか、純粋に感心した。
厳密に言えば、ここからがやっと『梱包』の作業となる。
台車を引っ張り出して、ガムテープを用意する。位置が低いので、片膝をついて作業することにした。部品を袋の中で均した。
梱包にも細かい手順がある。坂上君が言った。
「まず、真ん中をこうこうやって畳んで、両端を真ん中に折るんですね。それで三角形ができるじゃないですか。その先を、こうやって中に折り込むんですね」
その状態でガムテープを貼る。縦に一本。
「なるべく長くした方がいいです。結構剥がれちゃうんで」
八個分の作業を終えると、管理票と副票を入れる。というのはつまり、管理票一枚と副票が七枚だ。
その上から梱包材を入れる。梱包材というのは、スポンジのようなもので袋に入っている。
この箱の場合は、隙間ができるので埋める必要があるのだ。
箱を閉じる時もガムテープは長く。側面の下の方まで伸ばして張り付ける。
最後に製品ラベルを箱の左上に貼って完成する。
しかし梱包は終わっても、これで終わりではない。こいつらをパレットに積むという作業が残っている。
この分配機の特殊な台車をそのままパレットのところまで押していく。ガンダムからコアファイターが分離するような気分だ。そして箱をパレットに積み上げる。パレットの位置はリーダーに指定される。他の部品と組み合わせてセットにするので、積み方も決まっている。このプレートはパレット前部の奥側に二列四段で積み上げる。これがまた重い。揃えて積むだけで重労働だ。
「どうですか、分配機」
坂上君が言った。
どうですかも何も、クソうるさいし、クソ重いし、立っているのも辛いし、座って作業するのも辛い。無職でしばらく引きこもっていたせいか、一回やっただけでへとへとでうんざりだったが、さすがの私でも、そんなことを言うほど非常識でも勇気がある訳でもなかった。
「そのうち、ブチ撒けそうで怖いんですけど」
適当に会話を繋ぐことにした。
「そうですね。とにかく吸う前に確認するようにして下さい。掃除すんの大変なんですよ」
そりゃそうだろうな、と思った。
午後の休憩は三時からだった。しかし三時になると体操の音楽が流れ、それで五分間は潰れる。更に実験Z棟は離れのため、トイレがない。そのため隣のクローザー工場まで行かなければならなかった。往復するとそれだけで三分は消費する。残りの休憩は二分だけということになる。
トイレから実験Z棟に戻ってくると、成見がテーブルで携帯を見ていた。
「お疲れ様です」
成見が言った。
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