第39話 殴り合う邪神と神獣
「試しに一撃っ!」
荒れ狂う炎の翼を誇るように、あるいは苦痛に耐えるように広げるオオフクロウに邪気を衝撃波として叩きつける。
「だめか……」
まるで熱に散らされるように減衰して目標に届くことなく消失した衝撃波に、息を吐いた。炎という形で目に見えている太陽神の力が、魔法だけでなく邪法まで無効化するようになっているようだった。
とはいえこちらの力も未熟とはいえ邪神の力だ。近づいて邪気を直接ぶつければ十分に通用するという手ごたえも感じている。
そうするためには邪気を飛ばすのではなくて、殴りやすく……
「こう、かな?」
先ほど焼失したゴルベットを頭の片隅に思い浮かべながらも、邪気をグローブの様にして両手を覆った。カッコいいデザインのガントレットなんてイメージできないから、ただの黒くて薄い皮のグローブを手にはめただけといった見た目になっている。
そして具合を確かめていると、手の甲部分に一本の線が入った。
「ん? 何だこれ?」
疑問に思った瞬間、その線が開き、中から銀色の瞳をした目が現れてこちらを凝視する。
「銀……、それにこの感じ、シンか!?」
首だけ捻って後ろを見ると、額に汗を浮かべて唸っているシンが、こちらへと親指を立ててくる。やけにすんなりと思い通りにいったと思ったら、シンがサポートしてくれていたらしい。
それにしてもこの両手甲に開いた目、俺が手をどこにやってもきっちりとこっちを視線が追ってくるな……。
「まぁとにかく、これならいけそうだな」
拳を打ち付けて気合いを入れると、焦れたのかオオフクロウの方が開いた嘴から鳴き声に代わって炎の塊を飛ばしてくる。
「関係ないっ、な!」
「ホゥゥギィ!」
いくら本体のエネルギーが強くても、遠くに飛ばすような攻撃なら効かないのはこちらも同じだ。飛ばされた炎塊を突っ切って突撃した俺の姿に、オオフクロウは面食らった様な鳴き声を上げた。
「そらっ!」
「ギッ」
飛び掛かりながら振りかぶっていた右腕を、そのままの勢いでオオフクロウへと振り抜いた。とっさに開いていた翼を閉じたオオフクロウは、燃える翼で俺の拳を受けると、苦しそうに鳴きながらも少し下がった位置ですぐに静止する。
「ホゥゥッ!」
「うがっ」
効いたかと様子を窺っていると、これまでとは段違いのスピードでオオフクロウが突っ込んできて、俺の頬へと体当たりをされる。元の位置へと既に戻ったオオフクロウを睨みつけるものの、打たれた頬はじんじんと熱くなり、いつ振りかも分からない痛みに内心では驚いている。
「おらっ! ぐっ、このっ! あがっ」
「ホギ。ギィ! ホゥゥ。ギィァ!」
そのまま空中で互いに示した合わせでもしたかのように交互に殴り合っていく。想定以上に強く、そして想像以上に男気のある戦い方で挑んでくるオオフクロウに驚きつつも、一撃ごとに拳に込める邪気を強めて叩き込んでいく。――そしていつの間にか当たり前のように宙に浮いて戦う自分にもちょっと驚いている。必死になって戦うことが殊の外成長の促進剤になっているらしい。
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