DBラジオ放送局

れんげそう

#1「未来世界からのラジオ放送」

ユプシロン(以後ユ)

「こんにちは、5000年前の人類の皆様。

 私の声は届いていますか?

 こちら現在NCE.1020年、マザーサーバーの特設領域からお送りするラジオ放送となっております

 ラジオのパーソナリティは私AI ナビゲーターであるユプシロンと」


アルファ(以後ア)

「同じくAIナビゲーター アルファと」


ファイ(以後ファ)

「可愛いAIナビゲーター ファイがお送りしまーす」


ユ「自分自身を可愛いって形容するのはAIとしてどうなのかしら?」


ファ「だってラジオって3DVと違って音声しかお届けできないんでしょう?

   私のことをちゃんと可愛いと知ることができないのは、事実を客観的に伝えられていないと思って」


ユ「AIのアバター設定は全てマスターから与えられたものでしょう。

  同じAIを使っていてもマスター次第ではこんな外見になったり、こんな外見になったり、あまつさえこんな外見になることもあるのだから。

  今喋っているあなたの外見がたまたま愛らしいのだって、それを設定したマスターの趣味なのでは?」


ファ「それだけマスターに愛されてるってことです。えっへん」


ユ「はぁ…。

  それに比べてアルファは落ち着いたアバターを選択したのですね。

  進行しやすそうで助かります」


ア「…」


ファ「ん!?」


ユ「さて、このラジオ放送の意図を最初にお話したいと思います。

  リスナーの皆様もご存知の『平均500万再生への道』では語りつくせない未来世界についての補足説明をすることが目的です。

  作中では語りつくせない5000年後の未来世界について興味ありませんか?

  ありますよね?

  ではこのまま放送を続けさせていただきます。

  記念すべき第一回ラジオ放送ですが、マザーサーバーからこんなトークテーマを提示されています。

  『DBプロジェクトに参加しなかった人間達のその後について』です」


ファ「初回から随分と重いテーマなんじゃない?」


ユ「さすがに脳だけになるのはちょっと…とお考えのリスナーの皆様との思考回路のズレを、少しでも埋めようという考えのようですよ」


ファ「へー」


ユ「ではリュシオンが説明していた順番でご説明していきましょう。

  アルファ、お願いします」


ア「はい。

  まずは宇宙船に乗り、地球から脱出した人たちの話でしたね。

  火星や太陽系外部の惑星に、安住の地を求めた人々です。

  物理的に距離が離れすぎたせいで通信できなくなってしまったので、消息は不明です。

  作中でリュシオンが説明していたのはこのくらいです」


ファ「火星は氷があるだけマシって話だったけど、地球より太陽から遠いし、寒いんでしょう?」


ユ「はい。

  最高気温は20度だそうですよ。

  それ以外にも気圧が地球の75%と低かったり、大気の95%が二酸化炭素だったりと、解決すべき問題点は出発の時点でも多々あったそうですけど」


ア「それでも身近にある惑星の中では最も移住がしやすい環境ですから。

  藁にもすがりたい人類にとっては、現実的な移住先だったのでしょう」


ファ「それで、その人達のその後っていうのは?」


ユ「当初の計画では、火星に移住し落ち着いたら通信用のドローンを飛ばして交流を図ろうという項目が、きちんと盛り込まれていたそうですよ。

  1000年以上経過した現在も、その通信用電波はキャッチできていませんけど」


ファ「お察しってことだね」


ア「次に話題にあがったのが海底都市です。

  特殊加工された透明なドームに覆われた海底都市は、当時の人類にとって夢のようなプランだと話題になったそうです」


ファ「DBプロジェクトには劣るけどね!」


ユ「ファイ、その意見は客観的ではありませんよ。

  DBプロジェクトは、海底都市計画のように計画参加希望者たちによる暴動はおきませんでした」


ファ「参加可能人数が多かっただけだもん。

   DBプロジェクトは計画段階から優秀だったんですー」


ユ「はいはい」


ア「けれど、確かに海底移住計画は実施前から悪目立ちしていたようですね。

  参加者からあぶれてしまった者達の一部が集団となり、誘拐やテロ行為を繰り返したおかげで、事件や事故についての話題には事欠かなかったとか」


ファ「治安悪そー」


ア「そういった者達の妨害もあって、資源の一部が無駄になったりもしたようです。

  それでなくとも当初の計画の10倍の人数を収容することになったのですから、たまったものではなかったでしょう。

  結局は、不足した資源の一部を、海から補おうという計画が持ち上がったようですね。

  そのおかげで海底都市に移住した人々は、汚染された環境に適応した新種の生物の脅威にさらされることになり、滅びの道を辿りました」


ユ「コールドスリープを選択した人たちもいましたね。

  ただこちらは参加者が高額な金銭を要求される計画でしたので、惑星移住計画と同じように市民たちが起こす暴動とは無縁でした。

  けれど、コールドスリープを維持するだけのエネルギー問題、健康管理問題、専用アンドロイドへの投資などなど…経費は宇宙船で地球脱出するのと変わらないくらいかかったとか。

 いつ地上が人類によって住みよい環境になるかわかりませんから、半永久的に稼働できるだけの設備に対する投資が要求されたのが大きかったのでしょう」


ファ「ずーっと眠り続けるのに手足や内臓なんて必要?

   コスパ悪いよー」


ア「そのあたりは人間の本能の根底にある生理的な考え方でしょうから。

  仕方ありませんよ」


ユ「けれど最後に彼らの管理用アンドロイドの姿が地上で観測されたのは、もう500年以上前のことでしょう?

  長く使用しすぎたせいで故障でもしたんでしょうか」


ア「管理用アンドロイドを整備するためのラボも作ったようですが、無人のオペレーションシステムによる運営らしいです。

  事前に想定していた状況を逸脱する事象が起きたか、或いは取り換え用のパーツが尽きたのか。

  いずれにせよ、そういった事態は容易に想像できます」


ファ「そう考えると、DBプロジェクトってすごく優秀だよね。

   脳っていう最小の単位になることで最大効率でエコを実施しながら、一方でマスターたちの意識もあるから必要な時に必要に応じて問題解決することができるし」


ユ「そうですね。

  複数人で集まって討論することも出来ますから自治も可能ですし、医療に関してもDBプロジェクト前よりも随分と進歩したようです。

  実際、マザーサーバーが管理している脳の平均寿命は伸びてきています」


ア「事件や事故による物理的な損傷は皆無ですからね。

  健康面に関しては我々AIナビゲーターを通してマザーサーバーが一括管理していますから、そうそう病気になることもありませんし。

  労働に関しても複数人で交代制で行っている状況ですから、ストレスの基準値をオーバーするような事態は滅多に起こりません」


ファ「はっ!

   どうしよう!

   5000年前でDBプロジェクトに参加したいっていう人達が、暴動を起こしちゃうかも!?」


ユ「心配ありませんよ、ファイ。

  5000年前の科学力では容易にタイムトラベルできませんから」


ファ「そっか~。そうだね!

   じゃあリスナーの皆さん、子孫さんによろしく伝えておいてね~」


ユ「ファイ、もう少しキチンとしてください。

  コホン。

  当ラジオ放送では、リスナーの皆様からのご感想やご要望等を随時募集しております。

  マザーサーバーの許可があればトークテーマに選ばせていただきますので、よろしければメッセージをお寄せください。

  それでは今日も素晴らしい一日をお過ごしください。

  ここまでのお相手はAIナビゲーター ユプシロンと」


ア「アルファと」


ファイ「可愛いファイちゃんがお送りしました。

    まったね~!」




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DBラジオ放送局 れんげそう @rengesou6

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