第一界 第一章 第三話 ~黒箱兵器~



界暦2091年 5月30日 水曜日 午前11時頃


~裏牙 天涙~

「火闇、帰ってこねぇなぁ」

一人ゲームをプレイしていた天涙は時計を見てそう呟いた。それからしばらくすると

テレビ画面が一瞬で消えた。

「?」

ブレーカーでも落ちたのかと思った天涙は

それを確認しに見に行くが、違っていた。

「停電か・・・?」

そう考え、携帯で調べてみたが、特に何かがあったわけでもない。

「おかしいな・・・」

そう思ったとき、玄関の扉をノックする音がした。

「郵便でーす」

天涙は玄関に出た。

赤と白を基調としたジャージと帽子をかぶった18才くらいの青年だった。

「ハンコ頂けますか?」

「ちょっと待ってて下さい」

天涙は自分の印鑑を使った。

「あざしたー」

配達員が無礼な挨拶を残して去っていく。

「何が入ってんだ?」

天涙には郵便を頼んだ覚えがないが、火闇が何か買ったのかと思い、一応中身を確認した。

「なんだこれ」

そこには10㎝四方の黒い箱が入っていた。

天涙はとりあえずその箱をテーブルの上に置いた。そしてゲームを再開しようとテレビの前に座るが、停電している事を思いだした。

昼食をまだ摂っていない天涙は、仕方なく自分で料理を始める。

冷蔵庫にあるもので適当に。

少し焦げた玉子焼きと、まだ冷たいウインナーをおかずに、昼食を摂った。

「不味い…」

天涙は身支度を整えて、とりあえず外に出る。黒い箱は置いたままだ。


街に出ると、少し賑わっていた。

天涙はフードを被り、影に隠れるように歩いていた。

すると、天涙は後ろから肩をたたかれた。

「よぅ」

天涙はその男に見覚えがなかった。

「・・・誰ですか?」

「あんた、こっち側の人間だろ」

男は右腕を垂直にたて、右掌を自分に向けて、人差し指だけを内にたたんだ。

天涙はそれが何だか知っていた。

アンダーグラウンドの住人だけが知っている合図だ。

「それが何か」

「とぼけるな‼ 時間がない、例のブツを」

天涙には何を意味しているかわからなかったが、おおむね見当はついていた。

「あの黒い箱のことか?」

「シーっ‼バカかお前、鉄則守れよ‼」

男は声をひそめて言った。

「鉄則?」

「いいから、はやくブツをよこせ‼」

天涙に手を差し出すが、

「今は持ってない」

天涙のその言葉を聞いた男は差し出したた右手をおろし、肩をおとして、こう呟いた。

「最悪だ・・・」

「?」

「あの箱、いまどこにある」

「寮だけど」

「今すぐ案内しろ」

「・・・わかった」

天涙はその男を寮に連れていく。

「お前、名は何だ」

「裏牙 天涙」

「変な名前だな」

「じゃああんたは」

「俺は久藤 己(クドウ オノレ)」

「チッ…」

あまりにもまともな名前に舌打ちをする天涙。それが気に入らないのか

「オイ‼」

「なんだよ」

「今舌打っただろ‼」

「それが?」

「イラッとすんだよ‼」

「それで?」

「面貸せよ」

「フッ」

天涙は久遠の前に立った。

すると、久遠が右手を握りしめ天涙に殴りかかる。天涙はその拳を左手で受け止める

「離せよ‼」

「黒い箱が目的なんだろ?余計な事はよそうぜ」

「うるせぇ‼、一発殴らせろ‼」

久遠はふさがれていない左手で殴りかかるが、天涙はくるりと回りながら少ししゃがんでそれを避け、背を向けた状態で久遠の左腕を掴み、背負い投げをきめた。

「ぐはっ‼」

思いきり地面に叩きつけられた久遠。それに構わず天涙が

「行くぞ…」

と呟くように言った。

久遠は立ち上がって

「ぃってぇ~」

とため息がちに言った。そんな間に天涙とは大分離れていた。

久遠は走って天涙についていく。

そして、天涙達が住んでいる寮、茅苳荘(カヤブキソウ)に着いた。そしてそこには、神龍がいた。

天涙「あんた・・・」神龍をにらむ

神龍「・・・天涙君」天涙を悲しそうに見下す

久遠「おい、お前が持ってるそれ」神龍を指差し前傾姿勢になって走っていく。

久遠がいつの間にか神龍に殴りかかろうとしていた。が、神龍は天涙を見つめながらそれを弾き飛ばした

「火闇は、いないのか?」

「・・・…」

神龍は階段を降りて去っていく。

一方の弾き飛ばされた久遠が立ち上がって神龍を追ったが、天涙は見届けるだけだった。

その後天涙は近くのコンビニで焼鳥弁当と冷凍餃子や冷凍ハンバーグ、シーフードサラダ等のおかず類を買って帰った。




~榊嶋 維鍔~

5月30日 正午過ぎ

維鍔はファミレスで李滝ミオと食事をとっていた。

「でさぁ、あの天涙君ホントに使える?」

ミオがそう言うと、維鍔は手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置いて答える

「奴は、できる」

「ふーん。確信してるみたいだね」

「絶対に強くなる」

「他人に期待するなんて珍しいね」

「アイツは天才だ。俺をてこずらせたからな」

「て言っても、維鍔もそんなに強くないよね(笑)」

「言ってろ」

二人はレストランをあとにした。

繁華街を歩く二人。

「そういえばさ、出るんだよね?トーナメント」

「あぁ」

「あまり期待しないけど、頑張ってね」

「そこは期待しとけよ」

「だって弱いじゃん」

「ちっ」

維鍔が参加するトーナメントは7月1日に開催される。




~神 龍~

5月30日 午後1時頃

「おい‼、待てコラァ‼」

久遠が神龍に追い付き、神龍は脚を止めた。

「なんだい?」

「はぁ…はぁ…お前の…手に握ってるやつ、ブラックボックスだろ!?」

神龍はその男に見覚えはないが、嫌な雰囲気を感じ取っていた。

「そうだが、それがどうかしたか?」

「その箱、俺らの物だからさぁ、返してくんね?」

この時神龍は確信した。間違いなく良からぬ人間だと。

「嫌だね、君、この箱が何だかわかっているのか?」

「そいつはこっちの台詞だ。テメェ、なんの目的でその箱を、つかどこで知った!?」

「君がそれを知ったところでどうしようもないだろう」

「んだとぉ‼」

「やる気か?」

「だったらどうよ!?」

「やられる気があるなら、構わないけど」

「上等だ‼ゴラァ!!!!」

久遠は早速右手で神龍の顔面めがけて殴りかかる。

神龍はそれをかわす。

久遠がもう一発左手でかかってくるがそれも避け、ついで回し蹴りも連続でかわす。

「おいおい‼避けるだけかよ、テメェこそやられる気か?」

「(この男、思ったより甘いな)」

久遠がまた神龍の首をめがけて回し蹴りを繰り出すが、神龍はしゃがんで回避し、久遠を支えている左足を蹴った。久遠はバランスを崩し、

「うわっ‼」

倒れた久遠を見下す神龍。

「さて、これで僕の勝ちだよね」

久遠は立ち上がり、

「ふざけるな‼こうなりゃ容赦しねぇ‼」

少し距離を置いた。そして、

「火炎送(カエンソウ)!!!!」

そう言うと、指先を少しに曲げた右手を一度後ろに引いてから、玉を打ち出すように勢いよく前に押し出す。

すると、その手のひらから、炎の渦が蛇の如く伸び、神龍に襲いかかる。

が、神龍の目の前でその炎は消えてしまった。その際、青く光る粉のようなものが舞い、消えていった。

「ぁ?…嘘だろ…?」

「君さぁ、弱いよねぇ。だからって言うのもなんだけど、僕の"邪魔"しないでくれるかな」

「くっ、まだだ‼」

「往生際が悪いと格好もつかないよ」

久遠は左手を前につきだし、

「雷電放(ライデンホウ)!!!!」

と唱えた。すると、つきだした手のひらから、電撃が放たれた。それもまた、神龍をめがけて翔ぶ。

神龍に直撃するかと思われた瞬間、その電撃は神龍の右手でボールを取るように受け止められ、その手中で渦を巻き、電撃の玉になった。

「おいおいおい・・・マジかよ・・・」

「話にならないね」

神龍はその電撃を久遠に向けて投げる。

「うわっ!!!!」

その電撃はものすごいスピードで放たれ、

瞬く間に久遠の頬をかすめていった。

「な、なんなんだお前」

「僕は神 龍。あまり君とは関わりたくないんだけど、まだ邪魔をするなら容赦しないよ」

「一つ聞きたい、その箱を何に使うつもりだ?」

「・・・裏牙 天涙君は知ってるね?」

「あぁ」

「彼の友人が、これを必要としている」

「そうか、なら仕方ねぇ。その友人の名は?」

「火闇 留師」

「そいつに伝えといてくれ。テメェのせいで天涙が死ぬかもしれねぇって」

神龍は呆れたように言った。

「負け惜しみにしてはおいたが過ぎるんじゃないか?」

「ちげーよ‼コイツは決まり事なんだよ。裏切り者は排除するってなぁ」

久遠がそう言った瞬間、神龍の右手には既に一本の剣が握られていた。

そして神龍は久遠に近づき、その剣を久遠の首に突き立て、

「僕が君を排除するっていうのは?」

久遠は彼の勇ましさに臆した。

「こ、降参だ…降参するから…」

神龍はそんな久遠を嘲笑いこう言った。

「フハハハハ、浅はかだな君は。その程度じゃあ君、明日には死ぬよ。じゃあね」

そう言って神龍は久遠のもとからさる。




~久遠 己~

午後2時を指す頃

神龍が去った後、仕方なく家に帰る。その道中、

「おい」

ものすごく厳つい体をした男に声をかけられる。

「あ・・・」

久遠は事の重大さを思い出した。

「ブツはどこだ」

久遠は戸惑う。ブツ=ブラックボックスは神龍に奪われたままだ。

「・・・」

「おい!」

「・・・」

「どうした!?」

「…ばわれた…」

「!?」

「奪われた…」

「誰に!?」

「神…龍…」

久遠は殴られることを覚悟で言った。

「そうか・・・」

「すみませんでした…」

久遠は頭を下げる。

するとその厳つい男は優しい口調で

「しゃーねぇなぁ」

と言った。

久遠はそれに違和感をもった。殴る前に気を和らげようとしているのかそれとも…

「手伝ってやらぁ。神龍とか言う野郎、俺らで殺っちまおうぜ」

「え?」

重いもよらぬ言葉に久遠は動揺する。

「さて、神龍って奴たぁどこいらで別れたんだ?」

「・・・茅苳荘の少し先の所だ」

「うっし、じゃあ早速行くか。

俺は力道 肋(リキドウ アバラ)だ。よろしくな」

力道が右手を差し出した。

「あ、あぁ」

久遠は警戒しながら力道と握手を交わした

そして二人は、神龍と別れた辺りのところに来た。

「ここら辺で、神龍と殴りあってた」

久遠が言った。

「うし‼じゃあ探すか」

力道は自身に渇を入れて、適当に探し始める。

それをみた久遠も、神龍が去っていった方向に歩いていく。

力道もそれに気付き、久遠を追った。

そうして二人で神龍を探していると、

「しつこいな」

神龍が二人を待ち受けていた。

「あっ‼」

久遠は神龍を見た瞬間、怖じ気づいた。

「よぅ、テメェかぁ!?ブツを持ってったんは!?」

力道が神龍に強くたずねた。

「あぁ、黒い箱の事だろ?」

「そうだ‼そいつを返してもらうぜ‼」

「さもなくば?」

「殺す‼」

「お前らの目的は」

「お前を殺す‼」

「じゃあ僕の目的も君たちを倒すことだ。目的が交差したところで、早速始めようか・・・殺し合いを」

「上等ォ‼行くぞ久遠っ‼」

「あぁ」

二人は神龍に殴りかかる。

神龍はそれを華麗に避ける。

「火炎送」

炎が神龍を襲う。

神龍は手のひらを前にかざし、その炎を制し、火の玉にした。

それを力道に向けて放つ。

力道はそれをあえて正面からくらい、神龍に向かって突進する。

そして殴りかかり、道路がバキバキに割れた

「ッハハ、ものすごい破壊力だな」

神龍はいとも容易く避けていた。

「んぬぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

おちょくられたように感じた力道は、怒り狂い。

力を込めて神龍にまた殴りかかる。

同時に久遠も力道に意識が向いている神龍を後ろからナイフで刺し殺そうとしていた

神龍は力道の拳を避け、その拳が久遠の顔に、久遠のナイフが力道の腹部に刺さるように仕向け、二人は相討ち倒れた。

「・・・」

神龍はその二人を見下し、なにも言わずに去っていった

そして、神龍は家に帰る。

久遠と力道は、その連携力の無さにいがみ合ったが、二人は神龍を尾行することにした。(お互い死ななかったのは奇跡だろう)

長らく神龍を尾行していると、摩天楼に着いた。

神龍はそのうちの最も高いビルの中に入っていった。

久遠と力道も中に入ろうとするが、証明書がないと入れないだのなんだのと言われ、入ることが出来ず、二人は諦めざるを得なかった。




~広野 文博~

6月30日(水) 午後6時頃

吉田 章眞(ヨシダアキマサ)の葬式が営まれていた

だが、その場において、最も重要なはずの

吉田 章眞本人の遺体がないという非常な中での葬儀となった。

誰もが疑問に思ったが、それを口にするものはいなかった。

しかし、葬儀が終わったあと、無知な民衆の間で、ある噂がたった。

吉田 章眞を殺したのは文博ではないかと。

実際そんなことはないが、それでも周りの人間が文博を見る目が変わっていた。

そのせいで、後に文博は人間不信になり、塞ぎ混むようになってしまった。




~神 龍~

5月30日 水曜日 午後8時

高級マンションの最上階(F88)にある自分の部屋に入る。

自動的に明かりが灯り、白を基調とした広い部屋が視界に広がる。

7LDKある部屋のうちの一室、寝室に神龍は向かう。

そこには火闇が寝ていた。

いや正しくは、火闇の死体が寝かされてあった。

「待たせたね、火闇君」

神龍はそう言って、ジーンズの右ポケットから、黒い箱=ブラックボックスを取り出した。

そしてそれを近くのテーブルに置き、それに向かって口ずさみ始める。

「幾億もの能を以て為す理よ、不可を解き拓く未来を導き賜ん。我が望みを申す、此処に在りし屍に、授けられし命の再生を!」

…『アクセプト』…

神龍の頭に直接声を聞かせるように、ブラックボックスから女性らしい声が聞こえた。

しかし、黒い箱には何の変化もない。

すると急に

…『コンプリート』…

と、先程と同じ女性らしい声が、神龍の頭に直接聞こえた。

すると、青ざめていた火闇の屍は、徐々に赤みをおびていく。

血の気の退いていた体に、血が通い始めたのだ。

「すごい…」

神龍は思わずそう口にした。

火闇はそのまま、静かにねむっている。

「さてと、コンビニでも行くか」

神龍はブラックボックスをポケットに入れて、部屋を出る。

エレベーターで1階に降り、外へ出る。

急に雨が降り始める。傘をさす人々の姿が目に写る。

神龍はふところにある折り畳み傘をさしてコンビニに向かう。

その道中、いつのまにか回りに人がいないことに気がついた神龍は、異様な雰囲気を感じていた。

すると突然、左胸に鋭い異様な痛みが稲妻の如く走り出した。

恐らく、スナイパーに狙撃されたのだろう

神龍は傘を落とし、その場に倒れこんだ。

二秒後、神龍は黄色に輝く光に包まれ、消えた。

そこには傘と黒い箱だけが残されていた。



~久遠 己~

俺は諦めなかった。

神龍という男からブツを取り返すため、殺し屋に暗殺を依頼した。

そして今、神龍の暗殺に成功した。

俺はそいつに近寄ろうと走り出した。

しかし、近付いた頃には彼は光に包まれて消えた。

俺はそれに驚き、我が目を疑った。

だが、そこには目的のブツが残っていた。

俺はそれを持ってその場を離れようとした

その瞬間に…

「君もしつこいね」

金属音が耳に入る。後ろから頭に銃口を向けられた。

「どうやら、明日すら無かったみたいだね」

神龍がこう言うと、久遠はいい加減神龍に屈伏した。そしてこう訪ねる。

「・・・なぁ、1つ聞いていいか?」

「何だい?」

「どうすれば、そんなに強くなれるんだ?」

「・・・どうしたって強くはなれないよ。君自信を強くするのは君じゃないからね」

「どういう意味だ!?」

「そのまんまだよ。それじゃ、ボックスは返してもらうよ」

「神龍‼」

「!?」

「俺を弟子にしてくれ」

「いやだね」

「頼む‼」

「どうして?」

「あんたの強さの理由を、俺の眼で確かめたいんだ‼」

「わかった」

「えっ?」

「明日、僕の家に来るといい。それじゃ」

神龍はその場から去っていく。

久遠は携帯を取り出した。

『…はい』

「あぁ、先程はご苦労だった。しかし、思うような成果は得られなかった。だから報酬は無しだ」

『…貴様』

「だが代わりに別のを依頼する。」

『…了解』

久遠はその場をあとにした。



~火闇 留師~

ある日

「留師、本当に良いんだな?」

鉄臭い部屋の、鉄臭い台の上で仰向けになっている火闇を見下ろす男が言った。

「利害は一致してんだ。今更躊躇する理由があるか?」

「フッ、それもそうだな。じゃ、始めるぞ」

「あぁ」

男はメスを手に取り、その刃先を火闇の腹部にやる。

火闇の視界がぼやけていき、何も見えなくなっていった。

5月31日 木曜日 午後9時半頃

「ん、んがぁ~…?」

目を覚ますと、真っ暗な部屋のすみにあるベッドの上で寝ていた。

上半身を起こして

「どこだ?ここ」

と吐いて周りを見渡すと、そこはとあるマンションの一室だった。

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World After DEATH@RELIFE 岸神 黎羅 @Realpha_ENDLESS

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