第2話 体操着 1/2
不思議な夢と平凡な日常が繰り返されていた高校二年生の夏、僕は初めての事に衝撃を隠せなかいでいた。
「な、ない―――だと⁉」
「どうした千草、そんな迫真の演技して、恋心でも無くしたか?」
「もとから恋心なんてもってないわ!それより僕の体育着どこか知ってる?」
体育の水泳の授業が終わり男子更衣室に戻り自分のロッカーを開けてみると中に入っている筈の体育着が一式盗まれており、少しの躊躇いと気遣いなのか僕のパンツだけがポツリと寂しげにロッカーの中を独占していた。
「ありゃりゃ、こりゃあ運が無いな、お前の事を好きな子がやったんじゃねえか?」
「いやいや、あり得ないだろ、だって僕を好きとかどんなもの好きだよ、それにこのクラス内の女子とそんなに話したことないぞ」
「そうだよなぁ~~、お前を好きとか精神科に行って脳を見てもらわないといけない程の重病だよな」
「おい、そこまでは言ってないだろ」
冗談交じりの会話を和也と交わしながら僕はこれからどうするか考えていた。
「幸いなことにこれから昼休みに入るわけだし、なあ和也、僕の制服取って来てくれないか?」
「えぇ~なんでさ、自分で取りに行けよ」
「パンツ姿の男性が校舎内を徘徊してたらお前はどうする?」
「通報するね」
「分かってるなら早くとって来てくれ!そしたら雛形さんに休みの日を聞いてやるからよ」
「マジで?!行ってくるからそこで待ってろ親友!」
女性の休日を聞くだけで親友になれるならこの世の中の皆と和也は親友になれるだろうよ。
「持って来たぜ!」
五分も経たないうちに和也は片手に僕の制服を持って現れた。
「ありがとう、これで一応は安心だ」
和也から服をもらって着替えた僕はまず先に
「一応紗奈達待ってるだろうから食堂行くぞ」
「体育着どうするんだよ!」
「それは後でも大丈夫だろ」
先ずは待っているであろう紗奈達に会っておかないと。
僕と和也は急いで食堂に向かい、中に入ると食券も買わずに紗奈たちの席へ向かった。
「ごめんごめん遅れた」
息を切らせながら僕と和也は席に着くと雛形さんがあわあわとしながら
「大丈夫ですか?!何かあったんですか?」
「千草、体育の時間中に体育着盗まれたみたいなんですよ、怖いですよね~雛形さん」
僕の代わりに和也が雛形さんにそう伝えると
「そうなんですか……それは大変じゃないですか?!私達にも何か手伝えることはありますか?」
流して聞いてたのか驚きが後から時差ボケの様にやってきて雛形さんは驚きながら言ってきた。
「今は無いかな、そういうことで僕はこれから制服を探す旅に出るから紗奈と先に食べていて、和也はどうする?」
僕が尋ねると二つ返事で
「勿論一緒に探しに行くぜ、親友のピンチなんだからな」
「ありがとう」
話が終わると僕と和也はすぐさま席を立って食堂を後にした。
「まず虱潰しに探すか」
「おうよ」
自分のクラスにつくとすぐさま僕の体育着捜索を開始した。
前列の席から机の中、袋の中と隠してありそうなところを片っ端から探していった。
クラスで弁当を食べているグループからは痛い目で見られていたが今はそんなの関係なかった。一刻も早く僕の体育着を見つけ出さなければ犯人がナニに使うか分かったもんじゃないからな。
すべての列、全ての隠せる場所を探した結果。
「「無いな」」
どこにもなかった。一体僕の体育着はどこへ消えてしまったのだろうか、謎は深まるばかりで一向に解決する様子はなかった。
もしかしたら小人さんが隠したんじゃ・・・・・・ありえない、馬鹿か僕は。
昼休みが終わることを告げるチャイム音が教室内に響き渡った。
「昼休みが終わっちまった。どうするよ千草」
唸る様にして悩んだ末に僕は
「諦めるしかないかな―――、仕方ないよ、これだけ探しても無いんだから」
そうなると出費は痛いが見つからないのだからしょうがない、管理を徹底してなかった僕にも非はあるんだ。今回は諦めよう。
「そうか、千草がそれでいいなら俺は何も言わないけどよ―――」
僕らは話がまとまると各々の席について授業の準備をした。
放課後はバイトだから探す時間無いし今日中に見つけなかったら犯人に持ち逃げされてしまうだろうしこれで良かったんだろう。鬱気なため息を漏らしながらも切り替えて授業に集中した。
「それじゃあ俺は部活あるから、気張れよ千草、お前を好きだと思う人が一人は居たって事だ。こうポジティブにさ、今からでも華のリア充生活がお前を待ってるかもしれないと思っておけよな」
「お気遣いどうも、けど体育着盗む奴と付き合うなんて御免だよ、それにリア充生活なんて求めてないし」
和也の冗談交じりのフォローにそう返すとにこりと笑ってから和也は「また明日な」と言って僕と別れた。
駐輪所に置いた自転車の前に行くと紗奈が何故か自転車のキャリアに腰を掛けて待っていた。
「よ、こんな所でどうした紗奈」
声を掛けるとすぐにスマホから目をこちらに向け、キャリアから腰を上げて近づいてきて右手に持っていた袋をこちらに向けて差し出してきた。
「これ、あったから、持って来た」
不器用にそう言って僕に渡し終えるとすぐさまどこかに行ってしまった。
「なんだろうか―――あ!これって」
袋を開けて中を見てみるとそこには胸に千草と刺繡された僕の体育着だった。
「紗奈見つけてくれたのか、良かった~~」
でもどこにあったのだろうか?僕がいくら探してもなかったのによく見つけられたな、けど待てよ、普通科の棟による様なんて特進クラスには無いような―――
思考を遮るようにして鳴り響く高音、ジリジリと携帯のアラームがポケットの中からなり始めて止めようとスマホを取り出して気が付く
「やっべ、バイト!」
もしもの時の為にいつも掛けておいたバイトに間に合うギリギリの時間をアラームで設定しておいた甲斐があった。
考えるのは後にしよう、今はバイトに向かわないと怒られる!
自転車の鍵を開けて正門まで押し出してからすぐに自転車に乗って猛スピードで僕はバイト先向かって行った。
林檎を手にして何を思う 柊木 渚 @mamiyaeiji
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