小学六年生 お誘い


大袈裟な身振り手振りが加わる。多分彼女なりの、別にいじめてるわけじゃないんだけど、仕方ないんだ、というアピールなのだろう。

そう受けとった僕は彼女の言葉に対し、そこまでの衝撃は受けなかった。

ということは一切なく、しっかり傷ついた。分かっていても、割り切れないことがあるのは当たり前のことだろう?

今もし僕以外がこの日記を読んでいたとして、あなたにだってそんな経験はきっとあるはずだ。恋愛に限らず、ね。


そりゃあ辛かった。だって目の前で好きな人と恋敵(仮)が仲良くしていて、でも好きな人自身から僕はその中には入るんじゃないと、そう宣言されたのだ。しかしここで動揺してオロオロする程小学六年生の僕は未熟者じゃなかった。


「な、なんだよそれー。なんの話?」

うん。まあ、多少噛んでしまうのは見逃して欲しい。なんてったってこの頃の僕は小学六年生で未熟者なんだから。


そこへクラスで色んな意味で目立ってる女子が加わり話を聞いた。どうやらここに居る僕を除いた3人に何人かを加え、卒業後に某ランドに行こうという話らしい。

僕にとってこの話は非常に衝撃的なものだった。


卒業したら某ランドに行こうという話は実はこのグループだけでなく、多くの人が同じことを計画していたのである。僕はこういった陽キャ的な計画の発足場にいるようなキャラではなかったため、周りがそのような計画にどんどんと加入していくことに焦っていたのである。


僕は人よりも遅れをとることを激しく嫌うきらいがある。


そして焦ってからの僕の行動は割と早い方だ。

1年生の頃から仲良くしている(まあ若気の至りで色々あったが)同じマンションに住んでいた彼に頼み込み、彼のグループに入れてもらった。


ただ一言入れてもらったと言うと簡単に聞こえてしまうので補足説明を。

《同じマンションの彼》のグループのメンバーは、正直僕が普段から仲良くしているとは言えない人達だった。たまに話す友達の友達、的な。

そんな人達とでもいいからこの流れに乗り遅れたくない、そう思ってしまったのだ。

彼らの中に入れてもらうのはそれは大変だった。まず彼ら全員に許可をとり、彼らの親の許可を取ってもらい、そして自分の親の許可を取った。


最初のは精神的にキツかった。


仲良くない子に頼み込むことの難しさは、高校の文化祭を経験していれば分かるのではないだろうか。個人的に1番その状況に陥りやすい場であるような気がする。


最後のが単純に1番の難関だった。うちの親はこういった遠出に関して非常にお堅い考えの持ち主だ。わざわざ行かなくてもいいではないか。お金はどうするんだ。などまあ色々言われた。

小学生という身分ではどうしようもなく、代案を出せるわけでもなく、ただひたすらに頼み込むことしか出来なかった。


それでもなんとか許可を取ったのだ。そしてようやく僕は彼らの中に入ることができた。


こんな経緯をもって僕は流行に乗ることが出来た。なのに、なのにである。乗り遅れたくないとおもってした行動が、まさかせっかち過ぎたというオチになるとは思いもよらなかった。

彼女たちのグループに入りたい。話を聞いて即座にそう思った。そして何も言えなくなった。今更、僕を受け入れてくれた彼らを裏切れない。誰と行くかまで報告した親に相手を丸ごと変更したなど言えない。


目の前で計画について楽しそうに語る彼女たちが、なんだか遠くに見えた。


そのまま彼女たちの話を聞いているだけで休み時間が終わったならきっと平和だったのだろう。しかし、その平和は《クラスで目立ってる彼女》によって破壊された。いや、破壊してくれた、と言わなければ失礼だろう。


「《僕》も一緒にいく?」


「え?......あ、あーっと...」


僕を誘ってくれるとは思わなかった。こんなにもあっさりと人を受け入れることができるのかと、たたでさえ《同じマンションの彼》のグループに入るのに苦労した僕は驚きを隠せなかった。

それも《クラスで目立ってる彼女》だけではない。その場にいる全員が僕を受け入れるよ、という目で見てくるのだ。


もちろん!と即答出来ればなんて嬉しかっただろう。でも僕は過去のくだらない見栄と自らの苦労が猿ぐつわとなり、本心を口に出すことは出来なかった。口に出たのは本心とも嘘とも言いきれない曖昧なもの。


「ど、どうだろう。行けたら行くね」

と、世界で3番目くらいに信用ならないセリフを吐いてその場を脱した。


もう約束してるから行けないや。ごめんね。とは言えなかった。目の前の居心地の良さそうな場所を手放したくはなかったし、彼女と出かける機会を失いたくはなかった。


思えば変わらない。僕はこの頃から卑怯な人間だった。


迷いに迷った。しばらくの間。今までの努力と信頼を捨てるか、やはりすっぱり諦めてしまうのか。どちらを選んでも失うものは大きく感じた。

なんとか失うものを減らせないものか。そればかり考えた。でもどうしたってそんなことは不可能だった。両方と行くという選択肢は早々に消した。僕にそんなお金はない。


悩んで、悩んで、そして考え方を変えた。


失うものを減らすのではなく、得るものが多いのはどちらだ。


決まっている。彼女と過ごす権利以上に尊いものは無い。


今の僕ならば即答できるが、彼女を好きになり始めたこの頃の僕では難しい選択だった。だから目を背けてきたのだ。この選択をとることから、失うものではなく得るものを数えることから。

しかし正しい選択をしたと思う。


「行けるようにするから。僕もメンバーのつもりでいてよ」


そう宣言し、また努力した。積み重ねたものを壊す努力を。より大きなものを得る努力を。


両親の説得は前回よりも楽だった。どうも母親が前回のメンバーが僕とあまり交流がないことを、気にしていたようで、グループを変えることにさして疑問を抱かれなかったのである。


やっぱり抜けさせてくれ。この言葉を口にするのに3日かかった覚えがある。穏便に済ませようとじっくり頼み込むのに一週間以上かかったと思う。しかしやり遂げた。


そしてようやく、僕は手に入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

L o l ろいこ @mashiro_pancake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る