小学六年生 内緒バナシ

小学六年生の時、僕は彼女と出会った。出会ったこと、つまり転入してきたのはもっと前だったららしいのだが、僕はこんな女の子は知らなかった。

彼女の初印象は、覚えてない。しかし印象的なのは彼女の長い髪だった。学年の他の子と比べてもやはり1番長かったと思う。長く、たいてい2つに分けた髪、赤茶だったきがする眼鏡、白く綺麗に並んだ歯を見せながら笑う顔、そしてどこまでも明るいその声が、今の僕にも、霧の中にいながら確かにそこにいて、手を伸ばせばつかめそうな存在として浮かんでいる。

僕は彼女のことを好きになった確かなきっかけというものを覚えていない。気づいたら好きになっていたのだ。

しかし今これを書きながら、あるいは彼女のそんな所に無意識に惹かれていたのかな、なんて思ったりする。


彼女を好きになったきっかけは分からない。がそれに関係する気がしないでもない話として、1つここに書いておきたいと思う。

僕は六年生の頃、その年に転入してきた男子生徒ととても仲良くなった。休日は朝から学校でサッカーをしたり、2人で学校の周りを少し遠目に散歩したり、僕の家でゲームをしたり、素敵な日々だったと思う。

彼とは話もよく合った。それこそスポーツやゲームの話をして盛り上がった。自分の記憶を美化しすぎているだけかもしれないが、僕達は周りの小学生たちより少し大人な目線でものを語ることが出来ていた気がする。だからこそなのか、僕達は小学生にしては落ち着いた雰囲気で恋愛の話をすることが出来ていた。

だれそれがどのように可愛いとか、クラスの彼はどうやらあの子が好きらしいなど、ありきたりな話から、互いの好きな人を言い合ったりもした(僕は彼の恋を応援するあまり出すぎたことをしてあるひとつの黒歴史を作るのだが、まあそれは別の話だ)。

初めて好きな人を語り合った時、僕はまだ彼女とは別の女の子(実は2つ上の先輩)を好きだったのだが、いつしかその思いは冷めていってしまった。そして幾度目かの好きな人談義の時、僕は困ってしまったのだ。好きな子がいないと、彼とは話ができないのではないか。そんな、今考えれば意味のわからない理論を本気で信じて、彼にこういったのだ。

「先輩のことはもう好きじゃないんだ。今は、その、好きというほどでもないけど、気になっている女子はいるよ」

この時名前を出したのが、彼女だった。

意味のわからない理論を盲信した上で口に出したその言葉は、バカな僕をさらに縛り付ける。僕は口に出してしまったからには本当に彼女を好きにならなければいけないと考えたのだ。僕が強く、確かに彼女を意識するようになったのはこの時からだったと思う。

まるで自分をだまして彼女を好きになったように聞こえるかもしれない。事実そんな節があるのは認めないわけにはいかない。でもそれだけじゃないこともはっきりと自信を持っていいきれる。

だって、じゃあなんで僕はあの時彼女の名前を出したのだ。誰だってよかったはずだ。名前だけで彼を納得させられるほど学年でモテると噂される子だっていたのだから。でもあの時口に出したのは彼女の名前だった。それは、それよりも前から少なからず彼女を意識していたから、なのではないか。

それに、自慢じゃないけど僕は意思が弱い方だと思う。何かをやり切ったことは17年生きてきた今もあまりない(名誉のため書いておくがないことは無い)。そんな僕が、5年間も、自分をだまして好きになった人を好きでい続けられるのか。

まあとにかく、この頃から僕は彼女を意識し始めた。


僕は割と自己暗示能力が高い方なのか、気づいた時には彼女をかなり強く好きになっていた。

嫉妬を覚えたのもこの頃からだったと思う。ある日、いつもの通り仲のいいあの子と遊び、いつもの通り恋バナをしていた時のことだ。彼も好きな子が変わったと聞いたので、今1番気になる子はだれなんだと聞いた。その口から発せられたのは彼女の名前であった。

僕は小学校の頃とても太っており、卒アルを見直してもなかなか恥ずかしい見た目をしていた。そのことでいじられこっそり泣いたことや普通にぶちギレたこともあったのだが、まあそれはおいておこう。

それに対し、彼の見た目はなかなか整っていると言えた。少なくとも僕はそう思っていたし実際転入して間もないにも関わらずなかなかの人気があった覚えがある。

「お前に勝てる気はしねーなー」

と笑って話していたが、内心は焦りと、それまで知らなかったもやもやした気持ちでいっぱいだった。それが嫉妬だと気づくようになるのはもっと後の話である。


とある日の習字の授業のあとの事だった。彼と彼女が仲良さげに話しているのを見て、少しためらったが思い切って話しかけた。

「なんのはなしー?」

彼女は振り向いて僕を見ると少し申し訳ないような顔で、しかし明るくふざけた感じで言った。


「ごめん《僕》くん!君は仲間には入れてあげられないんだ...!」

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