「幽玄」という言葉はまさしくこの作品のためにある、光と水と少女たちの旋律が織りなすジャパネスクファンタジー。
この手のジャンルは数が少ないがその分少数精鋭で、一級品と言える作品も多い(余談ですがわたしゃ空色勾玉がすげー好きでした)。
本作もまごうことなき良作です。
遠い遠い昔、遥かな過去。だが記憶のどこかに存在する、人々が森と寄り添っていた古の時代。思い出すことも困難なほど彼方にあるそこに、たしかに我々がいたことを思い起こさせる幻想小説。
夜の闇のなかを幻のように舞い、さざめく蟲たちを想起させる光と音の描写は見事の一言。
そしてもってもっとも重要な部分、百合。
そうです百合です。
本作を語るうえでヒロインふたりに触れないわけにはいかんのです。
短命に終わる一族の血を引きながら歴代最高の奏者である千歳と、悠久を生きる存在であり千歳と心と旋律を重ね合う久遠。
百合というのはかくも純粋で精神的で時間を超越した美しさを感じさせるものだというのが、楚々とした筆致で美麗に描かれている。
ともに旋律を響き合わせあう、という行為は肉体的な接触よりもなんだか崇高な次元にある関係性に思えて、とても尊いですよ百合の神。