第60話「料理対決を、しよう」
「ということで、晩御飯の時間だよ」
なにが「ということ」なのかは分からなかったが、時刻は19時を回ったところ。
中野の言う通り、晩御飯時だ。
「で、ご飯はどうするんだ? ホテルとかと違って、自分たちで準備しなきゃだよな?」
「うん、その通り。……ということで、涼奈ちゃん」
涼奈の方へジッと目をやり、ビシッと指差し。
「勝負だよ。どっちが涼太郎をより『喜ばせられるか』……料理勝負だ!」
「え? 私と、杏子さんがですか……!?」
まさかの、料理対決。
そういえば涼奈も、それから中野も、料理は得意だったな。
前に、うちに来てから揚げを作ってくれたこともあったっけ。
……しかし。審査員は俺か。
「……わかりました。その勝負、受けます」
当の涼奈は、一瞬、驚いた表情を浮かべていたが、すぐに真剣な表情に変わり、中野からの宣戦布告を受け取った。
やる気十分らしい。
「ありがとう。それじゃ、食材は冷蔵庫に入ってるから、好きに使っていいよ」
「はい。よろしくお願いします、杏子さん」
こうして、中野VS涼奈の料理対決の幕が切って落とされた。
■
「「完成っ!」」
キッチンから、二人の声が聞こえてくる。
どうやら無事、晩御飯が完成したようだ。
「お待たせ、涼太郎。さ、座って」
そう促す中野。テーブルには、所狭しと料理が並べられていた。
うーん、どれもおいしそうだ。
「それじゃ、ルールの説明をするね。まず、僕の料理を食べてもらう。その次に、涼奈ちゃんの料理。そして最後は、どっちが美味しかったかを判定する」
「わかった。……ちなみに、どっちも美味しかった的な、そういう引き分けジャッジは……」
「「駄目だよ」」
声を揃える二人。どうやら、きちんと判定しないと許してもらえないようだ。
……仕方ない。こうなったら、しっかりジャッジするか。
「じゃあ、まずは僕の料理から。──どうぞ、召し上がれ」
そういって、俺の前に料理が置かれる。
気になるメニューは……。
「煮物か」
「うん。結構得意なんだ。ちょうど圧力鍋もあったし、しっかり味もしみてると思うよ」
なるほど、たしかにおいしそうだ。
早速、箸をつける。まずは大根から。
「……ん、うまっ」
思わず感想が漏れてしまった。
ちょうどいい濃さの味付け。食べやすいサイズにカットされた具材。
得意というだけあるな。
家庭料理の域を超えているような気もする。店で出されてもそん色ないぞ……。
「ふふっ、ありがとう。小さい頃から、花嫁修業ってことで、料理の練習もさせられてたからね」
「それで煮物か……。なんというか、日本人らしい考え方だな」
いかん、手が止まらない。
何度か食べた中野の料理の中でも、間違いなく一番美味しい。
「ここぞって時の切り札としてとっておいたんだ。涼太郎に喜んでもらえてよかったよ」
「そうだったのか。……んんっ、ご馳走様」
あっという間に完食してしまう。
一口だけ食べて、すぐ次の審査に行く予定だったんだが……美味しいから仕方ないね。
「……それじゃ、次は涼奈だな」
皿を片付け、次は涼奈の番。
ふぅ、と一つ息をついた涼奈は、キッチンからお皿を持って登場する。
「どうぞ、お兄ちゃん。……美味しく食べてね」
そういって、俺の前に置かれた料理は──。
「ハンバーグか」
「うん。ハンバーグ」
少し、意外だなと思った。
てっきり、もっと手の込んだ料理で攻めてくるのかと思っていたから。
いや、ハンバーグも十分大変なのは知ってるけど……。
それじゃ、早速食べてみよう。
「……あ、これ」
一口サイズに切り、口の中へ運ぶ。
すると、なんだか少しだけ、懐かしい気持ちになった。
「ふふ、お兄ちゃん、覚えてる? 私が初めて作った料理のこと」
「……ああ、それだ。思い出した。この焦げた感じ、なんか懐かしいなと思ったら……」
あれは、もうずいぶん前のこと。
初めて涼奈が作ってくれた料理が、ハンバーグだった。
当時はまだ、今みたいに上手に作れなくて、焦がしちゃった……って、しょんぼりしてたっけ。
「私ね、あの時、美味しいって食べてくれたのが嬉しくって……。それから、もっと料理を練習しようって思えたの」
「そうだったのか……」
「ちなみに、もう一個作ってるの。それはね、ちゃんと焼けてるよ。今の私が作れる、最高のハンバーグに仕上げたから」
そういい、もう一つの皿を持ってくる涼奈。
こちらは先ほどのハンバーグと違い、かなり綺麗な出来だった。
「これだけ成長したんだよって、お兄ちゃんに見せたかったから。……だからあえて、二つ作ってみました」
「そっか。……うん、どっちも美味しいよ」
確かに、一つ目は焦げてしまっている。だが、これもちゃんと美味しい。
ウソ偽りない、俺の正直な気持ちだった。
そして二つ目は、文句なしに美味しい。
涼奈の成長がわかる味だ。
「──ははっ。こりゃ一本取られたね」
そんな俺たちの会話を見て、苦笑を浮かべる中野。
「その顔を見ればわかるよ。この勝負、涼奈ちゃんの勝ちだ」
「え? でも、まだ……」
「ううん。この勝負は『どっちが涼太郎を喜ばせられるか』がルールだからね。だから、僕の負けだよ」
「杏子さん……」
正直、凄く難しい。
純粋な味勝負なら、本当にいい戦いだったから。
「けど、これで終わりじゃないよ。まだまだこれからも、何度も勝負する機会はあるから」
「……は、はいっ! 負けません、私!」
こうして、一回目の料理対決は、涼奈に軍配が上がった。
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血の繋がりが無いと分かってから、妹の様子が何だかおかしい。 ミヤ @miya_miya2525
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