第9話 嘘つき社長と天使の恋物語は永遠に
月日が過ぎて1年半後。
悠大と嶺亜の下に新しい命が誕生していた。
季節は春になり桜散って、新緑の季節になった今日この頃。
「ホンギャー」
元気な赤ちゃんの泣き声が、杉森家に響いていた。
「はいはい、ちょっと待ってね」
嶺亜がやって来た。
リビングのベビーバウンザーで寝ていた赤ちゃん。
黄色のベビー服を着ている可愛い男の子。
名前は萌(はじめ)とつけられた。
また新しいスタートが始まる意味合いで、萌と名付けられた。
嶺亜はちょっとほっそりして、髪はショートにしている。
優しいお母さんの顔になり、穏やかに過ごしている。
嶺亜がオムツを変えると萌はご機嫌になった。
「ちょっと待っててね、手を洗ってくるね」
嶺亜がシンクで手を洗ってると、萌が目を開けた。
開かれた萌の瞳は…綺麗な緑色…。
赤ちゃんでふっくらしているが、よく見ると、萌はあの時の青年に似ている感じがする。
「はい、お待たせ」
嶺亜に抱っこされ、ミルクを飲み始める萌。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
悠大が帰ってきた。
「お、萌、起きていたか? 」
萌の頬に触れて悠大はとても嬉しそうに微笑んだ。
「さてと、今日は夕飯何にするかな」
2階の部屋に荷物を置いて、着替えを済ませて悠大が降りてきた。
冷蔵庫を見て。
「よし、今日はハンバーグでも焼くか」
食材を取り出して作り始める悠大。
あれから悠大は、嶺亜に教えてもらいながら家事をこなしている。
嶺亜がお産で動けなくなると、何もできなくなるのは困ると裕美にも言われた事から本格的に家事を覚える気になったようだ。
早く帰ってきた時は、こうして悠大が夕飯を作ってくれる。
そして休みの日は掃除や洗濯も手伝ってくれて、嶺亜も随分助かっている。
時々、萌を連れて近くのコンビニに行ってくれる悠大。
その間に嶺亜は空気の入れ替えや、日頃できない掃除をしている。
現在5ヶ月になる萌は起きている時間も増え、動きも多くなり目が離せない。
目の色が緑色ではあるが、それ以外は悠大にも嶺亜にも似ているところがる。
なんとなくちょっと変わった感じがする萌。
夕飯が出来て、悠大と嶺亜は食べ始めた。
まだ食べれないが、萌もベビー椅子に座って一緒にいる。
「あーあー」
食べれない萌だが、2人が食べているのを見るといつも欲しがって声をだしてくる。
「萌も食べたそうだな」
「しっかり見えているものね、来月からはゆっくりだけど離乳食が始まるから。もうちょっとの、辛抱ね」
萌は悠大が食べている姿を見て、同じように口をまねしている。
悠大と嶺亜はごく普通にある幸せな家族を手に入れて、穏やかな日々を過ごしている。
嶺亜の姉・芹那は刑が確定して禁固25年と言う重い刑が下された。
全てを認めて悔いている芹那は以前より、とても穏やかな表情で服役中である。
時々、嶺亜が面会に行き子供が出来た事を報告すると穏やかな笑みで喜んでくれていた。
嶺亜の両親のお墓は、悠大が一緒に見てくれていて、芹那がいつか出所したらずっと命が尽きるまで守ってゆくと言っている。
血が繋がらない姉ではあるが、嶺亜にとっては産まれた時から一緒にいるお姉さん。
絆が深まり本当の姉妹と同じくらい大切な人である。
その想いにやっと気づいた芹那は「もう思い残すことはない」と言っているようだ。
結婚して名字が変わっている芹那だった為、嶺亜と芹那が姉妹である事はあまり知られずに済んでいた。
さて。
ちょっとだけ気になるサキと一樹のその後・・・。
サキはあれから最上階へ無事にたどり着けました。
そして
「私は守護天使なるの」
と、言っていましたが…。
(お前はまだ人間として、楽しみたい願望が残っている。もう一度、生まれ変わって楽しんでくるが良い)
と、光の存在から言われて。
別の星で生まれ変わって、望み通り素敵な恋を楽しんでいる模様です。
それから…。
あのカッコいい青年の一樹は?
緑あふれる豊かな国に、古風でモダンなお城が建っている。
とても大きなお城は、大聖堂が10個以上は建ちそうなくらいで、庭もまるで森林のように広く、動物達が生き生きと暮らしている。
お城の最上階の部屋。
広い空間にガラスのテーブルに、ふかふかのソファー。
本棚に大きなピアノも置いてある。
机と椅子があり、机の上にはモニターが映し出され周りの様子を映し出している。
鳥が飛ぶ姿にレーダーが反応して光ったり、お城の大きな門が開かれると信号音が鳴ったりしている。
このレーダーを管理しているのは、監視カメラだけではなくドローンという空飛ぶロボットのようなものも監視している。
広い窓からは心地よい日差しが入ってきて、外は綺麗な青空が広がっている。
心地よい日差しの当たる場所に…
あの素敵な青年が立っている。
爽やかな笑顔で、少しだけ年老いた顔をしているが、とても凛々しい青年。
「わぁーい! 」
元気な男の子の声がして、勢いよくドアが開いた。
「お父さん! 」
元気よく入って来た男の子は…なんと、悠大にそっくりな男の子。
まだ推定6歳~8歳くらいの男の子。
窓際にいた青年はゆっくりと振り向いて男の子を見た。
「お父さん! 」
勢いよく男の子は青年に飛びついて行く。
青年は男の子を受け止めてそっと抱き上げた。
「お父さん、元気なって良かったね。ねぇ、どこを旅していたの? 」
「ちょっとね、やり残して来た事を終わらせてきたんだよ」
「ん? そうなんだ。でも、お母さんずごく心配して、泣いていたよ」
「そうか、それはすまなかった」
二人が話していると。
「貴方…」
長い金色の髪がとても綺麗な女性が入って来た。
その女性は嶺亜にそっくりである。
「お母さん! 」
男の子は青年から飛び降りて、女性の下へ駆けて行った。
「お母さん、お父さんね。なんか終わらせる旅をしていたって、言っているよ」
「そう、何か残してきた事があったのね」
女性は青年を見てそっと微笑んだ。
「さっ、お父さんを少し休ませてあげて。疲れてしまったら、大変よ」
「うん、お父さんまた後でね」
男の子は女性と一緒に去って行った。
青年は机に歩み寄り、引き出しを開けた。
そこには…
嶺亜と一緒に写っている和也の写真が1枚だけあった。
「…本当はダメなんだけど。これだけは、手放せなくて持って来てしまったんだ。…」
椅子に座って青年は一息ついた。
「時を経て、いつかきっとまた会えるってそう言ったよね? 前世では、父さんの愛した人だったけど。ずっと先の未来では、僕の心から愛する人とし出会えたんだよ。そして、家族だった父さんは今、僕の子供として出会えたんだ。…住んでいる星も違うし、時空の流れも違うから。前世の記憶なんて、みんな忘れてしまうけど。僕のように、時空を行き来できる力を持って生まれてくる人もたまにいるみたいだね。…忘れていたって構わないよ。魂がちゃんと覚えているから、またこうして巡り会えて。違う形でも、愛し合えるようになっているんだ」
青年はまた窓の外を見た。
「地球は今、どうなっているのかな? 」
青く広がる空を見て、青年はそっと微笑んだ。
不運な事故から悲しい年月を過ごして、すっかり自分の殻に閉じこもってしまい「もう誰も愛さない。結婚なんかしない」と思い込み、自分に嘘をついていた嘘つき社長の悠大。
そんな悠大がてきとうにと思って選んだ結婚相手の嶺亜は、天使の血縁で悠大の気持ちに寄り添って見守っていた。
成仏できないまま、ずっと不幽霊のまま傍にいた妻のサキは悠大の閉じこもった殻を破らせて、本当に愛する人が誰なのかを気づかせてやっと次のステージに行けた。
前世で悔しい思いをして、無念を晴らしたくて時空を超えてやって来た息子の一樹は、和也の体を借りて悠大に近づいた。
ひき逃げ犯への仕返しが、いつのまにか嶺亜に恋をして、仕返しではなく全てを終わらせる事へ向いて行った。
それぞれの想いを抱き始まった1つの物語。
それは時空を超えて、遥か未来にまだ続いていた物語。
1つの魂は永遠に続き、きっと、物語は終わらないのだろう。
求め続ける限りどこまでも…どこまでも…ずっと続いて行く素敵な物語である。
嘘つき社長と天使の恋物語。
END
嘘つき社長と天使の恋物語 紫メガネ @ayasatorin
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