第29話

「マリハちゃんのお父さんを殺す……?」

ほのりがかすれた声で聞いた。声はかすかに震えている。

「どうして?マリハちゃんのたった一人の家族でしょ?」

「別に、殺してほしいわけじゃない。ただ、方法がそれしかなかった場合、お願いしたいの」

「理由を尋ねても良いですか?」

エスポワールが気遣うように尋ねた。

「お父さんがサラストム国に戦争を仕掛けようとしてるから」

エスポワールと雪斗を驚いたようだった。だがほのりは静かに思考をめぐらせていた。

「なるほどね。分かった。協力するためにマリハちゃんのスキルを教えてほしいんだけど……」

どうしてほのりたちが話していた内容を知っていたのか、マリハお父さんが反乱する未来にどうして気づけたのか、ほのりはずっと考えていた。その結果、そういうスキルを持っているというのが一番すっきりする答えだった。

(もし情報を手に入れられるスキルだったら、どこまでの情報をどのように手に入れられるのか聞いておかなきゃ)

「ほのりちゃんはあんまり驚かないんだね。

ほのりちゃんの反応にこっちがびっくりしたよ!」

あははとマリハは笑う。

「まぁ、この島の事情を聞いたときから、いずれ誰かは反乱を起こすんじゃないかなって思ってたから」

「そっかぁ……。あ、スキルだよね!

私のスキルは『超聴ちょうちょう』」

マリハが人差し指をそっと差し出すと、どこからともなく淡く光る粒が現れ、蝶の形を作った。それはヒラヒラと動き、マリハの人差し指に止まった。

「私は聴覚をこの蝶々と共有できる。そしてこの蝶の耳はとってもいいんだ!今までに聞き取れなかった音はないの」

ふっとマリハが息を吹きかけると、蝶はまた光の粒子に戻り、消えた。

「この蝶を三人の部屋に忍び込ませた。ドアの隙間からこっそりね。

あっ、悪いとは思ってるよ!ごめんね、勝手に聞いちゃって。

でもあたしも本当に君たちを信用していいのか分からなくて……」

「いや、こっちもちゃんと説明してなかったからしょうがないよ。

光の粒の状態でも、人の話聞こえるの?」

「ううん、それは無理みたい。蝶の形になってはじめて、聴覚が共有できるんだー」

(単純だけどかなり協力なスキルだな。私は今回部屋の声が外に漏れないようにするスキルを作ったけど、部屋のなかに蝶が入って聞かれちゃった。かといって誰も部屋に入れないスキルを使っても部屋の外から蝶の耳で聞かれてしまう。蝶が部屋の外にいるのは気づきづらいし……)

考えているほのりの横でエスポワールは目を動かしたり、口を開いたり閉じたりして、そわそわと落ち着きなかった。どうやら早く兄弟について聞きたいようだ。

「分かった!教えてくれてありがとう!」

「いえいえ!

それで、君たちのスキルは?」

「私たちのスキルは……」

「っ!待って」

答えようとしたほのりをマリハが止めた。

マリハは目を閉じて沈黙する。辺りはシンと静まった。

「お父さんが帰ってきてる」

ガイヤは島民の集まりで出掛けていた。

あと一時間は帰らないはずだったのだが……。

「予定が早まったんだ。

三人のスキルはあとで聞かせてね。

今はこっちの事情を話す」

早口でマリハが言うと、三人はコクリと頷いた。

「お父さんが反乱を起こそうとしているのは話したよね。

……反乱を起こすときに、大切なものってなんだと思う?」

「うーん、戦力とか?」

「それもそうなんだけど、もう一個ある。勝ったとして、どうやって国をとる?」

「そうか」

雪斗が口を開いた。全然話さなかった雪斗が急にしゃべったので、マリハは少し驚いた。

雪斗は言葉を続ける。

「国をとるには正統性が必要だ。勝ったとしても急に攻めこんできた反乱者には、誰も従わない」

「そういうこと。闇雲に戦いを仕掛けるのと、トップを決めてから攻めこむのとでは大きく違う」

マリハは小さく頷く。

「じゃあそのガイヤさんを説得するのと一緒にリーダーも探さなきゃだね」

(とはいってもリーダーは誰だろ?

正統性……そんな人、この島にいるかな。だって囚人が集められた島でしょ?)

場が静かになる。スカートが引っ張られる感覚がして、ほのりは右下を見た。エスポワールがほのりのスカートを軽く握っている。どうやら、待つ限界のようだ。早く兄弟のこと(小さい子供の目撃証言だが)を聞きたいけれど、自分じゃ言い出せないって感じか。

(まぁ、こういうのは第三者がそれとなく聞く方がいいよね)

「そういえば、マリハちゃんが見たっていう、子供は……」

ほのりが言いかけると

「そう」とマリハが力強くいった。

言うのをためらう自分を、後押しするように。

「そのことだよね、次に話さなきゃいないのは」

そこでマリハは一呼吸おいた。

「反乱を起こすには、誰をリーダーにたてるべきだ。そしてそれは身分が高かったり、英雄みたいにみんなから慕われている人物がぴったり。そんな話し合いをしているときに、浜辺に小さな子供が倒れているっていう目撃証言が入った」

「その子はどうなったの?」

マリハはうつむき、小さく笑った。

まさか殺されたのでは、とほのりは青ざめた。

「生きてるよ。それもめちゃくちゃ可愛がられてる」

雪斗が何か気づいたように、マリハを見た。

雪斗の考えが正しいとマリハは頷くようにまばたきした。

「その子の名前はリアリサー・ファミーユ。

サラストム国の王子だ」


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異世界転移をしたら幼なじみがハーレムを築きそうなので全力で阻止したいと思います yurihana @maronsuteki123

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