第28話
「これからどうしよっかって話をしてたの」
「これから?」
「そう!せっかく時間があるから、帰るのに便利な道具ないかなって。急に帰らなきゃいけなくなったときにいかだとか作っておくと楽でしょ?」
マリハと会話しながら、ほのりは自分のスキルを確認した。
三人で会議を始める前、他の人に聞かれないようにほのりは『遮断』のスキルを使った。
(よし、スキルはちゃんと動いてる。話す声は外に漏れてないはず)
ほのりは雪斗とエスポワールを見て小さく頷く。ほのりの合図を理解すると二人も同じく頷いた。
「あははっ、いかだかぁ。いかだじゃ厳しくない?この海を漕ぐのはさ。それに土地勘ない人がこの島をぶらぶら歩くのは危険だよ?
……だから、あたしが手伝ってあげよっか」
「え?」
驚いているほのりの前にマリハは勢いよくしゃがんだ。
「手伝ってあげるよ!行きたい場所には全部連れてってあげる!
なにか……探し物とか、あるんでしょ?」
「……!」
(違う。これは探ってるだけだ!反応するな私!すればマリハちゃんの思うつぼ!)
ほのりは極めて冷静に振る舞った。それとなく、二人の様子を伺う。
エスポワールは多少動揺しているようだが許容範囲内。雪斗は……めっちゃポーカーフェイス。
(いや、表情筋まったく動いてないんですけど。どこみてんの?どーいう表情!?)
席払いをして、ほのりはいかにも自然な口調で言った。
「探し物?特にないけど……。
うーん……あ、強いていうなら、ここについたときヘアピン落としちゃったかな?」
「あはは、それよりももっと大事なの、あるでしょ。
兄弟とか」
ほのりはおもわず目を見開いた。
(これは……はったり?いや、でもマリハちゃんは確信してる風だ。なんで!?
私のスキルは正常に動いてた!それは三人でさんざん確かめたもん!
部屋の外からは絶対に聞こえないはず!それなのに……。
それよりもマリハちゃんになんて答えるか考えないと。サラストム国に攻めこむリーダーの娘に、私たちの事情を知られるのはかなりまずい。誤魔化さないと)
「兄弟?誰の兄弟かなぁー……。全然関係ないよー、兄弟なんて」
必死にごまかそうとしているほのりを雪斗はやや呆れた目で見ていた。誰か見ても分かるレベルの焦り様だった。
それはマリハにもバレているようだったが、マリハは問い詰めたりせず、残念そうにした。
「そっかー。残念だなー、なんかこの島でちっちゃい子を見たって話を聞いたから、関係あるのかと思ったのにー」
びっくりするほのりを見て、マリハは面白そうに笑った。完全にほのりで遊んでいる。
「え、それ、どこら辺で聞いた!?」
おもわずほのりは身を乗り出す。
からかうようにマリハは言った。
「あれあれ~関係ないんじゃなかったの?」
ほよりはうっ、と言葉をつまらせる。
「そこら辺で勘弁してくれませんか?
あまりほのりさんを困らせないでください」
エスポワールは困ったように笑う。
「へえ、君、結構大人っぽいんだね。言葉遣いがさ」
感心したようにマリハが言った。これほどきちんと話せるのなら、どうして今まで黙っていたのだろうか、とマリハが考えたとき、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
マリハが首を回すとマリハのことをじっと見つめる雪斗と目があった。
「まぁいいよ。教えてあげてもさ。
ほのりの表情がコロコロ変わって面白かったから言うのもったいぶっただけだし。
でも、一つだけ条件があります」
「条件?」
ほのりは首をかしげた。
「あたしのお願いをなんでも一つきくこと」
「お願いって?」
「それは今言えないなー。どうする?イエス?ノー?」
ほのりは黙考した。
もし島でマリハが見た小さい子供がエスポワールの兄弟だったら、この島での目標はもう半分達成されたことになる。しかしその子供の情報が役に立たず、さらにマリハのお願いがほのり達の手を負えないものであった場合を考えると、リスクはなかなかに大きい。
熟考の末、ほのりは口を開いた。そしてエスポワールに近づき、肩にポンと手をおいた。
「エス君が決めて」
「え?僕が?」
エスポワールを自分を指差した。本当に自分でいいのかと確認するようにほのりを見た。
「うん」
ほのりはまっすぐエスポワールを見た。エスポワールはコクンと頷く。
「僕の答えはイエスです」
マリハはにやっと笑った。
「おっけー。んじゃまず、あたしのお願いから言わせてもらおうかな」
「先に教えてくれないの?」
ほのりが尋ねるとマリハは首を横にふった。
「今度はからかってるんじゃなくて、そうした方が効率がいいんだよね」
そこでマリハはふーっと息を吐いた。
「あたしのお願いはね……あたしのお父さん、つまりガイヤを殺してほしいの」
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