鈍感な君には届かない( Another story)
最近、幼馴染が急に大人っぽくなった。
身長が伸びたせいだろうか。今まで彼を異性として見たことなんて一度もなかったのに、クラスの女子が彼の話をしているのを聞いてから、ずっとモヤモヤしている。
「ねえ、いま好きな人いる?」
数学の問題を解いていた彼の手がぴたりと止まった。
「いるよ」
彼の一言に心臓がドクンと跳ねる。頭が真っ白になりそうだったが、彼に動揺を悟られてはいけないと思い直し、いつもの私を演じようとした。
「その子、どんな子?どこが好きなの?可愛い?」
目の前に座っている彼がちらりと私を見る。私の心を見透かされていないか不安を覚えたが、その視線はすぐに横に逸れた。
「可愛いかは分からないけど、頼りがいがあって、皆に分け隔てなく優しくて、放っておけない人」
言い終えた後、彼の頬がほんのり赤く染まったのを見て、聞かなければ良かったと後悔した。
彼が女性らしい女性を好きだと言うのなら、私は恋愛対象外。だから、彼への想いを断ち切れると思った。それなのに、彼は頼りがいがあって、皆に分け隔てなく優しい人を好きだと言ったのだ。
自分と似ている人が好き。だけど、彼の好きな人は私じゃない。そう思うと、なんだか無性に泣きたくなった。
「そっか。めっちゃいい子じゃん。今度、紹介してよ。私たち、親友でしょ?」
我ながらズルい女だと思った。だけど、彼と一緒に居られなくなるのは嫌だった。
「いいよ。いつかね」
何も知らない彼はそう言って、伏し目がちにメロンソーダを飲んだ。
『ねえ、いま好きな人いる?』
本当は同じ質問を返して欲しかった。もし同じ質問を返してくれたなら、私はあなたのことが好きだと言えたのに。
「ああ、もう。この馬鹿!」
アイスコーヒーを一気に飲み干すと、彼は「なに怒ってるんだよ」と子供の頃と変わらない無邪気な笑顔を見せた。
変わっていないようで変わっている。彼も、私も。
彼と過ごせるのも、あと少し。そう思うと、この何気ないやり取りがキラキラと輝いたものに見えた。
鈍感な君には届かない 深海 悠 @ikumi1124
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