第14話 エレメンタル・リング

 無事講義を終え足早に教室を出たところで、聞き覚えのない女性の声が僕を呼び止めた。

「斬新な講義ですね、櫻井准教授」

 その声のする方へ向き直り、声の主を直視した。

 スラッとした長身で髪は短く整えられており、スーツの上からでもわかるくらいに鍛えられた身体が、一般人のそれとは比べ物にならないことは素人が見ても一目瞭然だった。

 女性の左隣には、筋骨隆々の逞しい上腕二頭筋を備えたマッチョな男性が付き添っている。

「申し遅れました。椎名葉月、陸将であります!」

 眉先にあてがわれた右手の指先はビシッと揃い、所作の凛々しさがより気高き女性をより演出している。

 陸将がチラリと後方の相方を見ると、マッチョが退室する女子大生をチラチラみていたので迷わず肘鉄砲をお見舞いされていた。

「ヴぉほん!わたくし、鍛冶屋宗重1等陸佐であります!!」

 少々涙目の鍛冶屋は、上官に見えないように脇腹をスリスリとさすっている。

「初めてお会いする形がこんな風になってごめんなさいね」

 椎名葉月陸将は、口調を和らげてお姉さんのようになった。

「いえいえ、長らく海外派遣に行かれていると三咲から聞いておりましたので。」

 初見であることには変わりなかったが、外見や声でその人が誰だかわかっていた。

 椎名葉月。

 椎名家三姉妹の長女だ。

 年は僕より1つ上だと聞いている。

 三咲との結婚式に唯一出席出来なかったので、1度会ってみたいなとは思っていたが…まさかこんなに唐突とは。

 後ろのマッチョこと鍛冶屋1等陸佐の表情から察すると、どうやら聞かされていなかったらしい。

「…それで、陸自幹部の将官が僕になんのようですか?」

 それを聞いて、葉月は表情を引き締めた。

「多世界解釈や夢のメカニズムについての第一人者だと伺っております。櫻井准教授のお力を貸して頂きたく…」

「ダメです」

 葉月が言い終える前に僕は言葉を遮った。

「え?ちょっ、確かに私は陸自の立場でお願いに来たけれど、身内に冷たくないかしら?!」

「ダメなものはダメなんです。大体この手の話は思考実験の、悪く言えば妄想なんですよ。それでは。」

 呆然とする2人を尻目に、そそくさとその場を後にした。

 いつもは大学近くのアパートに住んでいるが、今日は三咲の実家に帰れる日なので面倒事は断固拒否しなければ。

 早く子供たちに会いたい。

 その思いを乗せて、三咲や子供の待つ家路へと車を走らせた。


****


「コイツー!ちょっと偉いからって生意気らぞお~!みさき、なんとか言ってやれえ~!」


 そかそか、忘れてた。

 葉月御姉様のご実家でしたわ、ここ。


「はーちゃん、ちょっと呑みすぎじゃないの?」

「ストレス溜まってやってられっかあ~」

 

 昼間の凛々しさや気高さは何処へやら、酔っぱらいの醜態を晒しまくった葉月は、地酒の一升瓶を早2本目になるまで浴びるように呑んだ。

「みさきのダンナ、あったまカッチカチや~!現場じゃわらしが『行け~!』ってひったら、野郎共がオーーー!ってなるんやからなあ!」

 もはや呂律も回らぬ勢いである。


 僕が帰宅して幸せな家族の団欒を満喫していたら、その2時間後に音もなく現れたのが葉月陸将であった。

 子供たちを寝かし付け、茅葺き屋根の囲炉裏付き和室に戻ってきた時には完全に出来上がっていた。

「それにしてもダンナしゃん良いオトコ…みさき、一晩貸してえ!」

 おいおい、酒癖悪すぎだろ…。

「もー、はーちゃん!」

 へべれけ状態の葉月がフラついたので、三咲と2人でさっと身体を支えた。


 周囲の空気が一変したのはこの時である。

 葉月の目が僕らを捉えると、瞬時に陸将の鋭い眼光に変わった。

「私は監視対象にある。今から言うことを黙って聞いて。1度しか言わない」

 小さい声だが切迫した口調で囁く葉月。

 どういうことだ、酔っていない…?

 ただならぬ気配を感じて、黙って頷いた。

「近いうちにこの近所に引っ越してくる家族がいる。その子供は防衛省傘下の機密組織で人工的に生み出された子供なの。私はその子供を意図的に逃がした。新しい住民コードを作り里親に引き取ってもらった。その子には普通に暮らして、普通の人生を送ってもらいたい。」

 三咲が驚いて葉月の顔を見ようとする。葉月はそれを阻止してぐっと引き寄せた。

「三咲ごめん、私は過ちを犯した。これからも三咲を苦しめてしまうと思う。」

 その声は懺悔にも近い、教会で赦しを乞う罪人のようだった。

「櫻井さん、私はあなたをその組織へ強制連行するために来ました。でも私には出来ません…。」

 僕の講義を受けた生徒の混乱ぶりを漸く理解した。

 荒唐無稽な話を突然されると、人並み以上の知識を有していても理解できない。

 そもそも何故酔っぱらいのフリをしなければならなかったのか?

 小声で話す必要があったのか?

 誰に聞かれる?今日はお客さんいないし、子供は寝ている。


 暫しの静寂が訪れる。


  

 ミシッ…



 音は天井から聞こえた。


「うそだろ…」

 三咲と僕は音の鳴る天井へ目を向けた。

「ごめん!」

 突然、葉月は三咲と僕を同時に蹴り飛ばした。

 華奢な見た目からは想像も付かない威力で、2人とも漫画のように後方へ吹っ飛んだ。

 それと同時に天井がメシッと木の裂ける音がして、迷彩柄の衣服に身を包んだ巨漢がドスンと降りてきた。

「任務を放棄しちゃいけませんねえ、隊長」

 昼間に葉月の隣にいたマッチョである。名を鍛冶屋ムネシゲ、と言ったか。

「私の命なく勝手な行動はするな!」

「それは面白い冗談ですねえ。離叛行為をした場合、上官であろうとその地位は即時剥奪され、副隊長が作戦の全指揮権を執りますからねえ」

 三咲と僕は2人の自衛官を挟むようにしりもちをついて、この短いやり取りを固唾をのんで見ていた。

 三咲の前には鍛冶屋が、僕の前には葉月の背中が見えている。

「ハヅキさん、あなたワタシに黙っていましたね?《荷物》が身内だということを。まあ我々はお互いの身分すら抹消されてますから、知らないのは当然ですがね。」

 荷物…僕のことか。

「そうですアナタですよ」

ムネシゲは右手に持ったバカでかいサバイバルナイフを忍者みたいに構えて僕をみた。

「櫻井センセ、何故自分が狙われてるかお分かりで?」

 心当たりは1つしかなかった。

 しかしそれは、ハイデルベルクのアパートの壁紙に書いたアレしかない。

 それもキレイに消して現存するものはどこにもない。

「ふんふん、『綺麗に消した』と思ってるんですねえ。アナタがあのアパートを引き払ってから、次の入居者があそこで殺傷事件に遇いましてねえ。警察の鑑識が進む中で、奇妙な文字列が壁紙から浮かび上がってきたそうですよ。」

 !!

 それは予想外だった。

 チョークで書いただけと、雑巾でゴシゴシ目立たぬように消したつもりだったが、いまの技術ではそんなことまで復元できるのか…。

「ほとんどは読み取るのが困難なくらいに消されていましたがね。一部の場所だけはくっきり残っていましてねえ。それをあらゆる調査機関に依頼して調べたところ、数日前、我々の所属機関の目に止まったという話ですよ。筆跡鑑定でアナタのものだとわかっています」

 逆三角形マッチョのクセに、随時ネチネチと喋るじゃないか。

 要するに、全部の禁忌目録は入手できなかったと。

 確かに僕が書いたものだが、僕の記憶には無い【Magic-code】だ。

 幸いそれを知っているのは三咲だけで、先方は僕が知っていると思い込んでいる。楽観的だが、いまはこれ以上暗転する事態は考えたくはない。


「せいっ!」

 鍛冶屋宗重1等陸佐が僕に注視している隙をみて、葉月の下段回し蹴りが飛ぶ。

「ホっ」

 巨漢のわりに、見事な体捌きで華麗ににかわす。

 葉月は空振りになって上体を崩すかに思えたが、ワイヤーで吊るされているかのように反転して着地し、右手の5指を畳に付け左手は宙に浮かせたまま蜘蛛のような体勢になった。

 対して鍛冶屋は、葉月の下段攻撃に備えた構えを取る。

 ナイフの切っ先を地面へ向け、その右手首は僅かに捻ったようにみえた。


 刃物相手に素手での反撃は、素人目にも不利に思えた。

 この和室にあるものは、木製の机に1升瓶が2本、そして囲炉裏。

 武器に1升瓶というのも些か心許ない。

「はーちゃん!お父さんのアレがまだある!」

 両者睨みあったまま拮抗していたところに、三咲が声を上げた。

 それを合図のように、狭い和室の部屋で2人の戦闘員が間合いを詰めた。

 葉月は手元にある1升瓶を素早く掴み、鍛冶屋の頭上目掛けて投げた。

 巨漢は当然のようにそれをかわし、2本目もほぼ同時に投げて、かわした。

 その2本の瓶は同じ軌道を描いたが、鍛冶屋が開けた天井の穴へ吸い込まれていった。

「ふはは!投擲は苦手でしたかねえ!上官殿!!」

 鍛冶屋は右足で囲炉裏の灰を蹴りあげると、スモーク替わりのように目眩ましへと使った。

「万事休すううう!!!」

 コンマ0.5秒の速さで、巨体の加速と突きの瞬間最大破壊力を全身に込めて鍛冶屋は畳を蹴った。

 コマ送りの映像を見ているかのように、鍛冶屋の殺意のこもった残像が僕の目にはハッキリと見えていた。

 何もできない――。

 視界の隅に、キラリと光る何かが映る。

「いいや、投擲は得意だ」

 刹那、葉月の身体は宙を舞った。

 その突進をものともせず、三咲のいる反対側へ体操選手のように着地し、屋根裏から落下してきたものを神業のように掴んだ。

 鍛冶屋も軸足で素早く向き直り、葉月の狙いをいち早く察した。

「棒切れを掴んだところで、戦況は変わりませんよ!」

「よく見ろ、ブタ野郎」

 確かに葉月の左手には黒い棒の様なものが掴まれている。

 防御の構えだろうか、その棒の様なものは顔の高さで横一直線に構えられていた。

 そして右手には――。


 キンッ


 その音を間近で聞いたのは、この時が初めてだった。

 左手に持っていたのは棒ではなく「鞘」

 葉月は刀身を納めたその鞘を、一瞬の抜刀に備えて左腰に構え、重心を低く保った。

「これはこれは驚きました。1度アナタとは本気の殺しあいをしてみたいと常々思ってましたからねえ。」

「2度目は無いと思え」

 葉月の眼はサムライそのものだった。

 令和という泰平の世に生まれながら、本物の殺し合いをみることになるとは誰も想像できないだろう。


 葉月は一撃必殺の抜刀術に長けているらしい。

 居合道と剣術との違いは、剣術は初めから互いを敵とした敵対動作から始まる、いわゆる敵との「立合」から始まるのに対し、居合道は主に床の間での想定のような普段の生活の中など、「居」ながらにして敵に「合う(遭遇する)」として形が組まれている点にある。

 居合道は主に空間の形稽古を行い、抜き付けとよばれる刀を鞘から抜き放ちながら斬る技術が重視されていることから、室内での強襲には剣術よりも有用な場合が多いとされている。

「どうした、早く来い」

 あれほど口数の多かった鍛冶屋が、固まったまま動かない。

 ――いや、動けない。

 お互い武術や剣術の腕前が達人レベルの域に達しているのであれば、鍛冶屋がどうシミュレートしても葉月からの返し技を受けることが分かっており、手が出せなくなっているのだ。

 刀を抜かずして勝つ。

 殺人剣ではなく活人剣として武道の真髄とも評される理由はこれにあった。


 だが、それは“達人同士である場合”のみである。


「ホォウあああああ!!!!」

 鍛冶屋宗重はその域に達していなかった。

 力だけなら葉月と対等か、僅かに勝っていたのかもしれない。

 しかし精神が未熟であった。

 その差は生死を分ける戦いにおいて、埋めがたい大差となる。


「三咲、よく見てなさい」


 葉月は目にも止まらぬ神速で抜刀することなく鞘の最先端“鐺”の部分で、人体急所の8ヶ所を突く、壱の型【八突き】を放った。

「ガハッ!」

 鍛冶屋の呼吸が一時的に止まっているのか、苦しそうな表情に変わる。

 葉月は続けて従来の抜刀体勢に戻り、超神速の抜刀術、参の型【三裂き】を対象の上段、中段、下段へと矢継ぎ早に解き放ち、まるで竜巻のエフェクトが発生したかのような錯覚に陥った。


 ――キンッ

 

 その一連の動作は凡人である僕には全く見えなかった…というか、抜刀と納刀がほぼ同時に見えた。


 マッチョは意識を失い膝からガクリと崩れ、顔面ごと前のめりに畳へダイブした。

 辺り一面にブタ野郎の鮮血が…

「真剣じゃないから殺してないわよ」

 あ、そうだったんですね。


 戦いの余韻もなく、直ぐ様こちらを見た葉月の顔は、陸将ではなかった。

「櫻井さん、私の所属する部隊は非公式な組織で構成されています。貴方がドイツで書かれたオリジナルコードは、我々の組織が300年の歳月を費やしてもその3%に満たない完成度だったのです。それがたった数行で12%にまで再構築できてしまった。」

 陸自が多世界干渉技術を独自開発している…?

 それが300年とは、フリーメイソンみたいな秘密結社のような団体か…?

 いやまて。

 三咲がドイツで特別研究員をしていた所属研究所もこの研究を極秘裏にしていたと言っていた。

 どういう偶然か、それとも必然か、椎名家の三姉妹のうち2人がその研究に携わり、ひょっとして次女までそんな研究を…?いやいやそれはないか。

 一体世界のどれくらいの組織や研究所が、多世界干渉を行おうとしているのか。

 タイムマシン研究なら、ロマン溢れる研究だなと想像に容易いことだが。

 問題はもう1つある。

 多世界干渉の研究に、なぜ子供が使われているのか。

「葉月さん、先に聞いておかなければならないことがあります。もうこの際ですから、話せないことがあるなんて言わないでくださいよ」

 葉月は口許を引き締めて、わかりましたと言った。

「子供を人工的に造り出すというのは人工受精のことを考えれば可能ですから、それはひとまず置いておきます。しかし、多世界干渉の実験において何故、子供じゃなきゃだめなんですか?」

 僕は少し言葉を限定的に置き換えた。

 「子供を使うのか?」と「子供じゃなきゃダメなのか」と聞くのでは、相手から引き出せる情報量に差異があると思ったからだ。

「脳機能の発達がピークに近い状態の年齢であることが最重要視されている為です。」

 もしかすると…と僕の内心で仮定していたことを口にする葉月。

「私たちは【エレメンタル・リング】という装置を有しています。詳細は省きますが、その装置にはオリジナルコードを正確に入力しないとデバイスが機能せず、リングが繋がらないとされています。」

 デバイス、という表現に葉月は顔を歪め拳をぎゅっと握りしめた。

「まさか…」

 声を発したのは三咲だった。

「………」

 葉月は1度目を瞑り、覚悟を決めたように再度見開いた。

「ご想像の通り、我々は人間の…子供の脳を媒体に異空間の扉を開こうとしています」


****


 みさきやの中庭から、対岸の一軒家へ到着した1台の白いトラックを眺める三咲。

 腕にはまだ小さい由衣を抱えていて、後ろの縁側では3歳と4歳の香奈と麻衣が玩具で無邪気に遊んでいた。

「ママー!」

 麻衣が母親である三咲に笑顔で手を振り、それに応えて三咲も手を振り返した。

 数日前、椎名家の長女である葉月が実家に突然帰ってきたと思ったら、国家の最高機密を残していった。


 ――それから数日後の朝刊。

 三咲はある見出しに目を通して、その手から新聞を落とした。

【女性陸将同乗の陸自機墜落 2人死亡】

 ・椎名葉月陸将

 ・鍛冶屋宗重1等陸佐


 葉月は幼少から武芸の才に恵まれ、厳格で居合道の師範代であった今は亡き父親から、一子相伝とも言える技の数々を叩き込まれていった。

 椎名家の三姉妹の名前が、固有流派の型の名称になっているのは父親の影響に他ならない。

 正義感は人一倍強く、高校生の時に父親が他界した頃にはその実力は師範代に並ぶほどであった。

 自らの意思で防衛大、自衛官の道を選び、国民を守るべき立場を目指しながら、どこで歯車は狂ったのだろう。

 《あの人にもう1度会いたい》

 純粋な心に漬け込み、パラレルワールドに対する興味を植え付ける組織のやり方は、もはや暗示のレベルを遥かに越えていた。


****

 

 葉月は防衛省管轄の児童養護施設で、長らく子供の世話係をしていた。

 表向きは単なる養護施設で、地図にも載っていない山奥にそれは存在していた。

 子供たちは【エレメンタル・チルドレン】と呼ばれ、リング稼働時に最も適正の高い児童が選ばれ、施設から研究施設へ連れていかれた。

 検証が終われば「休養のため他の施設に移送した」と葉月には告げられていて、検証自体、具体的に何をしているのか葉月は知らされていなかった。


 ある日、1人の小さな男の子が移送されることになる。

 その日初めて葉月は研究施設への同伴を許可された。

 養護施設は後輩世話係に任せる為、研究施設直属の世話係として配置転換する、とのことだった。

 そこで葉月は真実を知ることとなる。


「なに…これ……!」

 着任早々、分厚い資料を渡され《全て目を通すように》と言われた葉月が見たものは、常軌を逸する内容だった。

 パラレルワールドへの知識はそれなりに有していたが、そのアプローチの仕方や歴史的背景などは葉月が当初聞かされていた内容とは全く別物であった。


 例えば櫻井准教授が書き出したオリジナル・コードを1000個の魔方陣ピースに、ピザを切り分けるように細分化するとする。

 これは完成形なので1000個のピースを順番に組み合わせれば、魔方陣が発動すると考えれば分かりやすいかもしれない。

 実際彼らがやっていることは、そのうちの未完成ピースをランダムに組み合わせ、どれが正解なのかと“確率”で組み合わせて実験を行い、その魔方陣の中心に【生け贄】を毎回用意しているのだ。

 そう、その生け贄なるものが子供たちなのである。

 生け贄ということは即ち、死を意味する。

 現段階で12%の完成度ということは、残りの88%のピースはそれぞれ、無意味な方程式を組み合わせていると言っていい。

 この組織は一種のカルト集団のような、生け贄の儀式にも近いことをしている。

 そしてもう一つ、その生け贄となる子供たちを【生産】していたという事実がある。

 そして葉月はその【生産】された子供たちを【出荷】に備えて育てていたことになる。

 まさに家畜だ――。


 葉月はこのオリジナル・コードの発案者であろう人物の書類を、分厚い資料の最後で目にした。

 【櫻井武人:サクライタケト】

 

“私が呼ばれた理由はそういうことか”

 葉月は全てを察し、同時に今回連れてこられ実験に使用される少年を助ける作戦を瞬時に構築した。

 読み通り、対象者に最も警戒されない立場の葉月は監視役に鍛冶屋宗重1等陸佐を同行させ、対象者確保の命令を受けることとなった。


 櫻井准教授に出会う、数日前の出来事である。


 

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