最後の願い叶えます。

紫音あずき

第1話 前兆

AM6:00。

夢から強制的に連れ戻すアラームが部屋に鳴り響く。

目を開けずに布団から腕だけ出して枕元にある携帯を取り微かに目を開けて時間を確認し

どんどん音が大きくなるアラームを止める。

ほんの数秒布団から腕を出しただけだが腕が寒くなるほど部屋が冷えている。

カーテンを開けると藍色の空からは綿菓子のような白い雪が降り

街灯に照らされるとそれは宝石のようにキラキラしている。

1年前のあの日と同じような光景に今でも胸が痛む。




▽△▽




-1年前-

朝の食卓にはすでに兄と父親、祖父が座っていておばあちゃんがご飯をよそっていた。

「悠、おはよう」

最初に声をかけてきたのは6歳上の兄の涼だ。

続いてみんなが声をかけてきたので僕は返事をしながら兄の隣に座った。

食卓テーブルの上には紅鮭とお味噌汁、卵焼きに胡瓜の浅漬けが乗っていた。

紅鮭の皮はこんがり焼けていて表面はオレンジ色に輝いている。

お味噌汁は大根の細切りとキャベツのざく切りが入っていて

卵焼きには大根おろしが上にかかっていてそれに少し醤油を垂らして食べるのが

僕の家の朝ごはんの定番だ。




両親は僕が2歳、兄が8歳の時に離婚をしている。

当時のことは全く記憶がないので母親がどんな人なのかもわからない。

父親は警察官で旭川に単身赴任をしているが去年の暮れに

殺人事件があったため正月休めず遅めの休暇で帰ってきているのだ。

僕が中学に上がるまで父親の上司も考慮してくれて札幌勤務にしてくれていた。

おばあちゃんは母親の代わりに育ててくれて、おじいちゃんもたくさん遊んでくれて

本当の母親がいなくても寂しい思いはしたことない。

それに兄はとても面倒見がよくて今でも一緒に映画を見に行ったり

バイトの給料が入ればご飯も連れてってくれるのだ。

実は今日兄の給料日なので2人でご飯を食べる約束していたのだが父親が帰省していることもあり

3人で最寄り駅の近くにある焼肉屋にいくことになっている。


家族と談笑しながら朝ご飯を食べ、つけてあったテレビを見ていると

全国放送の情報番組から道内ニュースに切り替わった。

【昨夜未明、駅近くの商業施設付近で20代男性が刺殺されました。犯人は未だ逮捕されていなく先週の通り魔事件との類似点が多く北海道警察は同一人物の可能性も視野に入れて捜査しているもようです。】


「父さん、仕事いかなくて大丈夫なの?」

そう父親に聞くと

「あぁ、父さんのところに事件のことは連絡あったが旭川管轄の刑事には捜査要請がきてないからな」

「それにしても最近は物騒よね、みんな気をつけてよ」

「そうだな、悠はまだ学校が近いし帰りも遅くないから安心だが涼はバイトもしているから心配だな。」


「大丈夫だよ、バイトだって日付変わる前に帰ってきてるしさ」


おじいちゃんとおばあちゃんの心配する気持ちを理解したのか兄は明るい声で笑いながら答えていた。

この時は誰もがあんなことになるなんて考えてもいなかっただろう。





僕の兄が通り魔に殺されるなんて。





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