第55話

 香奈は飛び降りた。


「ギリギリセーフ」


 が、なんとかギリギリ香奈の手を取ることが出来た。


 ここでミスるなよ、引き上げるまでが重要だからな。


 なんとか香奈を引き上げることができた。


 香奈は涙で顔がぐしゃぐしゃだ。


 お前は今日何回泣くんだよ。


「前にもこんなことあったな」


 デジャブかと思ったよ。


「……っ……ぅ…」


 あ〜、鼻水もそんなに垂らして。


 そんな香奈も可愛いが、俺は怒っている。


「おい、何死んで楽になろうとしてんだよ。死ぬのは償いじゃないぞ」


「……っ」


「お前なんか俺に比べれば断然辛くない」


 俺は香奈の肩へ手を置く。


「俺も苦しい、俺がしっかりしておけば母さんは死ぬことはなかったから」


 あの時のことは一瞬でも忘れたこともない。


「俺も死のうと思った」


 母さんの手紙を見つけるまでは。


「でも結局はお互い今の現状から楽になろうとしていただけなんだよ」


「……っ」


「俺が死のうが香奈が死んだところで母さんはもう戻ってこないんだよ、もう俺たちは過ちを犯したんだ。一生罪悪感に苛まれながら生きていくんだよ。それが最低限の償いだ」

 

 声を荒げながら香奈に言った。


 香奈は地面に手を置き、涙と鼻水を地面に落とす。


 それから10分ぐらいは経っただろう。


「ほら、帰るぞ」


 俺は香奈の手を取り立たせようとする。


「私たち別れよう」


 香奈の口から別れようと言われると思ってなかった。


「どうしてだ?」


「私たちが付き合うことはきっと信のお母さんが許さないと思う」


「母さんの手紙を読んだんならわかると思うけど絶対に死なないし、幸せにならなきゃいけないんだ」


 母さんとの唯一の約束だからな。


「俺、香奈がいないと幸せになれないと思ってるんだ」


 俺が言っていることは綺麗事かもしれないがでも紛れもない事実でもある。


「それにもし、俺と別れて時間が経って、香奈が死んで天国の母さんに会って謝ったとしても絶対に許してくれないぞ」


 俺は両手で香奈の両頬を挟んで無理矢理俺と目を合わせる。


「俺と一緒に死んで母さんに謝ろう。俺がいたらもしかしたら許してくれるかもしれないぞ」


 なんか俺も涙が出てきた。


「そんで母さんに俺の奥さんって紹介してやるよ」


 あれ?俺さりげなくキショいこと言ってない?


 プロポーズしてない?俺。


 でも仕方ないよね?一緒に生きて一緒に死ぬって言ってんだから。


「だからさ、別れるなんて言うなよ。俺は大好きだぜ、香奈はどうなんだ?」


「……っ私も大好き」

 

「じゃあこれからもよろしくな」


「はい」


 俺たちはこれからも一緒に一生罪悪感に苛まれながら生きていく。


 そして、どれだけ辛くても一緒に幸せに生きていく。



                     完 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 本作品を読んでいただきありがとうございました。


 本作品は賛否ある作品でしたし、賛否ある終わり方だったと思います。だけど、皆さんが応援してくださったおかげで完結までいくことができました。


 一応本編は終わりです。でも、気が向けば後日談も書くつもりです。


 もし良かったら明日の21時頃から投稿する次の作品も読んでくださったら幸いです。


 本当にありがとうございました。

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