第45話

 長かったぁ。


 やっと旅館に着いた。


 何かずっと佐々木が話したんだけど。


 まぁ一切聞いてなかったけどな。


 旅館が和の感じの女将さんがいるようなとても雰囲気のいい旅館だ。


 荷物を置くために部屋へと向かう。


 


 おおー


 すげー、畳だ。

 

 布団を敷くタイプだ。


 襖もある。


 テンション爆上げなんですけど。


 もうこのまま昼寝して顔に畳の跡をつけてぇなぁ。


 でも同じ部屋の奴知らない奴ばっかなんだよなぁ。


 知らない奴ばっかだと気をつかって何も出来なくなってしまうんだよ。


 陰キャってやつ?


 部屋の角で大人しくするしかやることがない。


 さっさと荷物を置いて部屋を出よう。


 夜飯まで時間があるから外に出て時間を潰すとしますか。


 いや、待て少しだけ旅館を探索でもするか。


 

 卓球台がある。


 温泉卓球ができるじゃん。


 自動販売機もあるじゃん。


 コーヒー牛乳なんかお風呂上がりに絶対飲むに決まってる。


 小さい頃、こういうところに泊まったことないから憧れがあったんだよ。


 


 さぁて旅館も探索したし、外に行きますか。


「あ、浅野」


 聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてきた。


 後ろを振り向くと佐々木と寺田がいた。


「浅野も外に行くの?」


「ああ」


「一緒に行っていい?」


 え〜、何か完全に一人でゆっくり見て周る予定だったからちょっと嫌だなぁ。


 でも、別にこいつらとならいいか。


「佐々木は大丈夫なのか?」


 念のため佐々木に確認をとる。


「うん、いいよ」


「そっか」


 そういうことで俺と佐々木と寺田で外を見て周ることになった。




「浅野も部屋に居づらかったの?」


 外に出て、良し、楽しもうって時に寺田がムカつくことを聞いてきた。


「も、ってなんだよ。も、って。俺はお前らと違って嫌われてはないんだよ」


「は?嫌われてないし。あ!そっかー、浅野は陰キャってやつ?だから逃げてきたんでしょ」


 自分で陰キャって言うのは良いけど他人に言われるとムカつくな。


「そんなわけないだろ、俺は盛り上げ上手だし、会話なんかバスケットボールより弾むぞ」


「あーはいはい、だからこの前クラスの人が話しかけてきた時にずっとキョドってたけどあれは浅野自身が弾んでたんだね」


 くそ、見られてた。


 何か嫌な感じで見られたくないから大袈裟に頭を振って相槌してただけなんだよ。


 ムカつく、何か、何か反撃しなければ。


「ちくしょー」


 くそしょうもないけど寺田の手に持っているペットボトルのお茶を飲んでやった。


「え?え?え?ちょっ、関節、え?」


 何故か佐々木の方が焦っている。


「お前のお茶を飲んでやったぞ」

 

「あーあ、私しーらない」


 何が?


 と思っていたら俺の脇腹に佐々木の拳が飛んできた。


「いてっ、おい、何すんだよ」


「ふんっ」

 

「ほら、香奈ちゃんの機嫌取って」


「いや、俺が佐々木に何したんだよ」


 また、すねやがったよ。


「いいから、早く」


 いや、本当に佐々木に何したんだよ、寺田のお茶を飲んだだけだろ?


 寺田のお茶を飲んだのがそんなに気にくわなかったのか?


 まさかあの佐々木がここまで友達想いだとは思わなかった、人って成長するんだなぁ。


「なぁ、佐々木?」


 左にそっぽ向いていたので左側に移動して顔を見ながら話しかけた。


「ふんっ」


 次は右にそっぽ向いた。


「悪かったって」


「ふんっ」


 俺が右に行くと左に顔を向け、俺が左に行くと右に顔を向ける。


 めんどくせぇ、いつまで怒ってんだよ。


「いい加減こっち見ろ」


 俺は両手で佐々木のほっぺ挟み、無理矢理こっちを向かせる。


「お前、綺麗な顔してるなぁ」


 こいつの性格のせいで忘れてた、こいつは可愛いんだ。


「え?どうしたの?」


「お前の子供は可愛いんだろうなぁ」


「それはまだ早いって」


 佐々木は俺に思いっきりビンタをした。






 はぁ〜、陰キャ卒業したい。

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