第39話

 浅野が任せろって言った、だから私は浅野を信じて体育館のステージへと上がろうと歩を進める。


 これで二回目だろう。浅野が任せろって言ったのは。


 一回目は私がいじめられてた時にもう無理かなぁ、って時に浅野が現れてきて私を助けてくれた。


 その時はなんで私なんかを助けるのか意味が分からなかった。いや、正直今でも分からない。


 浅野曰く自分もいじめられていたからいじめられている奴の気持ちが分かるらしい。


 度が過ぎるほどのお人好しなのだ。


 とうとう体育館にいるミスコンを見に来た人たちが見えてきた。


 体育館は真っ暗になっていて、全部のカーテンが閉められている。


 そしてはしごを登ってある、二階の細い通路の右端と左端でスタンバイしている裏方の人がスポットライトを当てる。


 あそこの名前ってなんて言うんだろう?キャットウォークって言う人もいるし、ギャラリーって言う人もいるんだよね。


 あそこの黒いカーテンってめちゃくちゃ汚い印象があるんだけどちゃんと洗濯してるのかな?


 あと綱引きに使う綱もあるよね、あれって消防士の人達が訓練する時に使うやつだよね、でも使うことなくない?


 絶対みんなターザンごっこやりたいよね。私もやりたいもん。


 さてと、そろそろステージの中心へとやってきてしまったのだがまだ浅野に動きがない。


 大丈夫かな?浅野のことだからなんとかしてはくれるのだろうけどもう本当に時間がない。


「さぁとうとうこのミスコンも最後の一人となってしまいましたが、ここでグランプリ候補の登場となります」


 本当は浅野のことを信じていたいけど手の震えと足の震えが段々強くなる。


「エントリーナンバー16。佐々木香奈さんでーす」


 お願い。


 間に合って。


 スポットライトの光が私に当たることを覚悟して思いっきり目を閉じた。


 真っ暗の世界が広がっている。


 ここで目を開けたらみんなはスポットライトに光を当てられている私のことを観ているのだろう。


 結局浅野は間に合わなかったのだろう。


 でもここで浅野を責める権利なんてありはしない。


 むしろ私なんかのために動こうとしてくれたことに本当に感謝したい。


 私は覚悟を決めてゆっくりまぶたを上げた。


 が、しかし私の目の前にはまだ真っ暗な世界が広がっていた。


「あれ?ごめんなさい。改めてもう一度いきます。エントリーナンバー16。佐々木香奈さんでーす」

 

 だがしかしまたしてもスポットライトの光は私には当たらない。


 体育館中がざわざわしている。


 機材トラブルなのかな?ラッキー。


 いや時間が延びただけでまたなんらかの対処をして再開されるだろう。


 すると突然スポットライトが光り出した。


 しかしスポットライトの光は私にではなく、私の反対側でキャットウォークの上にいる人物に当てられた。


 さらに体育館中がざわつきが大きくなる。


「レディース&ジェントルメン。今日は私のショーにお集まりいただき誠にありがとうございます」


 白いシルクハットに白いマントに白いスーツで顔がバレたくないのか仮面をつけている。


 シルクハットを手に取り、逆の手に持っているスティックでシルクハットを二回叩くと鳩が飛び出してきた。


 おおー


 体育館中の人達が盛り上がっている。


 もう一度シルクハットを被り直し手に持っているスティックを三回擦ると薔薇の花に変わった。


 薔薇からトランプに持ち替えて片手だけで特に何もしていないのにトランプが宙に舞っている。


 いや普通にすごいんですけど、体育館にいるみんなもマジックに夢中だ。


 どこから出ているのかわからない煙がもくもくと溢れ出している。多分ドライアイスなのだろう。演出がすごい。


 て言うか良く見たらスポットライトの光を当ててる人が森くんと神崎くんになってるんですけど。


 じゃあもう分かっていたけどあの謎のマジシャンは浅野で確定だ。


 すごい。なんでマジックなんか出来るの?


「さぁ最後にこの世で最も美しいものを消して見せましょう」

 

 そう言って浅野はシルクハットをフリスビーのように投げ出した。


 みんながシルクハットに気を取られているうちに浅野は黒いフードつきの服を羽織ってその場から離れた。

 

 明るくて場所で白い服を着ていた浅野から暗い場所で黒い服を着ている浅野を見失っているようだ。


 これめちゃくちゃ有名な名探偵の漫画のやつで出てきたやつだ。


 みんなが浅野を見失っている隙に浅野は私のところまで走ってきてくれた。


「早く逃げるぞ」


 そう言って浅野は私をお姫様抱っこをした。


 え?ちょ、ちょっと待ってよお姫様抱っこ?めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。


 重くないかな?


 

 * * *



 いやいやなんなのこれめちゃくちゃ恥ずかしいだけど。


 なんなのこの世で最も美しいものを消して見せましょうって。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、あんなこと普段の俺だったら言うわけがない。


 あの場の空気にやられて言ってしまったんだ。そうであってほしい頼むから。そうじゃないと俺は死ぬ。


 今はとりあえずさっさと遠くの場所に行かないと。



 * * *



 私はお姫様抱っこをしている必死な浅野の顔を見て心臓の音が激しくなる。


 

 もう認めざるを得ない


 

 私は浅野のことが好きだ。

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