第38話

 佐々木がミスコンに出るって聞いてしまった。


 俺は知っている。佐々木が緊張しいだってことを。


 初めて寺田と遊ぶ時に緊張して全然話せなかったし、体育祭でまだ始まってないのに緊張とプレッシャーで倒れてしまった、ってことも俺は知っている。


 前の俺ならこんなこと知らんフリしてボッチで文化祭を過ごすところではあるが、もう佐々木とは知った仲だからさぁ知らんフリはできないじゃん。


 だがもしかしたら自分からやりたい、って言ったかもしれないから一応佐々木から確かめないといけない。


 でもどうしよう改めてあいつと話すのがちょっとだけ恥ずかしい。


 基本的には用があって話しかけてくるのが佐々木の方で俺から話しかけることなんてほとんどなかった。


 そうだよ別に佐々木本人に聞く必要ないじゃん、周りのやつから聞けば良いだけの話だった。


 思い立ったら吉日。この言葉の通りに俺はさっそく聞き込みに行くことにした。

 

 まずは誰から行こうか迷ったが、とりあえず話しかけやすい順に行くことにした。


「神崎」


 そう、神崎なのである。


 結局は神崎が一番話しかけやすいのだ。


「ん?どうしたんだ?信からなんて珍しいじゃん」


 まぁそうだよな、俺から話しかけることなんてそうそう無いもんな。


「佐々木がミスコンに出るらしいんだけど何か知ってるか?」


「ああ、そう言えばそのことで男子が盛り上がってたな」


 まぁアイツは性格はともかく顔は良いからな。


「そのことで何か知ってることってあるか?」


「無いよ」


 そりゃそうですよねー、だって違うクラスだし、そもそも会ったことなんかほんの数回しかないからなぁ。


「またなんかやってんのか?」


「またってなんだよ」


「信っていつも忙しいよな」


 ほとんどは佐々木のせいだけどな。


「まぁ、またなんかあったら言ってくれ」


「助かる」


 冷静に考えたらそうだよな、神崎に分かるわけないよなぁ。

 

 もう周りくどいことはしない、相談しやすいの同性に決まっている、寺田に聞きに行こう。

 

 寺田が一人になるタイミングを狙って寺田に近づいた。


「今大丈夫か?」


「別に大丈夫だけど」


「佐々木がミスコンに出るのは知ってるよな?」


「うん、知ってるけど」


「なにか佐々木は困ってなかったか?」


 寺田は黙ったまま不思議そうに俺を見つめている。

 

「なんだよ」


「心配してんだ?」


「別にそんなんじゃねぇよ」


「だけどごめん、今回は浅野には言えない」


「は?どうしてだ?」


 なに考えてんだ、コイツ。

 

「じゃあ、私は行くね」


 やばい、止めないと。


 俺はどこかへ行こうとする寺田の手を掴んだ。


「なんだよ、佐々木は困ってるのか?」


「言えない」

 

 なんでコイツは頑なに話さないんだ。


「話すまで離さないぞ」


 話すと離す。


 ごめんなさい。ふざけました。


「なんでそこまでするの?」


 なんなんだよコイツ、そんなに重要なことなのか?そのことが?


「別にいいだろそんなこと」


 寺田は俺をただじっと見つめる。


「ほら、俺たちって知った仲じゃん。理由なんてねぇよ」


 少しおちゃらけて答える。


 それでも寺田はさっきと同じように俺を見つめる。


「お願い言って」

 

 そもそもなんで俺は佐々木のために動こうとしているんだ?


 俺はアイツのことが嫌いで顔を見るのも嫌なのに。


 自分のことを一番かわいいと思ってるし、料理がクソ下手くそだし、いつもいつも課金して俺に奢らせるし、そのくせにラーメンを頼んだら替え玉するし、運動神経の欠けらもない。


 そんな奴のために俺はなぜ助けようとする?


「アイツの悲しむ顔を見たくないから」


 死ぬほど恥ずかしい。


 なんでこんなこと言わなきゃならないんだ。


「うん、佐々木はものすごく困ってる。でも浅野の手を借りないでどうにかしようとしてるの。だからちゃんとどうしたいかは本人に確認して」


 なんでアイツは俺の手を借りようとしないのだろう?


「おお、ありがとな」


 これでやっと俺は動くことができる。


 どうしたいかはちゃんと本番前に聞く。


 今どうしたいか聞いてしまったらアイツは努力をやめてしまうかもしれないからな。


 じゃあ俺が今やるべきことは佐々木が俺に助けを求めてきた時に動けれるようにしとかないとな。


 さっそく俺は元来た場所に戻った。


「神崎」


「ん?どうした?また来て」


「頼む力を貸してくれ」


 俺は出来る限り頭を下げた。


「おいおい、頭なんか下げるなよ」


 神崎は慌てて俺の頭を上げさせようとする。


「頼む」


「いや、別に良いけどさぁ、そんなことで頭を下げるなよ」


 本当にお前は良いやつだよ。


「本当に助かる」


「こっちも頼みがあるんだけどさぁ」


「本当に悪いと思ってるけど野球部には入らない」


 神崎と知り合ったきっかけが野球部の勧誘だったからなぁ。


「そのことなんだけど、もう諦めることにした。野球部のみんなが俺たちだけで頑張ろうぜって言ってくれたんだ」


「そっか」


「それでもさぁ三週間後に強豪校と練習試合するんだけど、そこの四番がすごいバッターなんだよ。でもうちのエースが肘やっちゃって投げれないから、その練習試合だけ投げてくれないか?」


「それだったらいいぜ」


「よっしゃ。それで信の頼みごとってなんだ?」


「それは後々伝える」


「分かった」


 森は適当にお願いしたら別に良いからそこはOKだろう。


 人数は揃った。

 

 あとは俺次第だろう。


 家に帰って、荷物を置き、俺は押し入れを開けた。


 本当はこれなんか見たくもなかったし、使いたくもなかった、だが仕方ない。


 よっしゃ、頑張りますか。




 


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