第36話

 とうとう来ちゃったよ。


 来たって何が?


 文化祭だよ。


 あーどうしよう、文化祭来たけど何も成果を得られなかったんですけど。


 結局文化祭もずっとふわふわして楽しめなかったし、ああ私の青春が。


 今は控え室みたいなところで待機させられている。


「大丈夫?香奈ちゃん」


 穂花ちゃんが心配して声をかけてくれた。


「大丈夫だよ」


 正直なところ大丈夫ではない。手と足の震えが止まらない。


 逃げたい。投げ出したい。ここからいなくなりたい。


「佐々木香奈さーん、そろそろ準備お願いしまーす」


 やばい、もう出番がやってきた。


「はい」


 椅子から立ち上がったら一瞬だけ立ちくらみしたけどなんとか踏ん張った。


「本当に大丈夫?無理なら言ってこようか?」


「本当に大丈夫。心配してくれてありがとう」


 そう言って私は控え室から出た。


 頑張れ私、ファイト私、そうやってなんとか自分で自分を励ましながら歩く。


 大丈夫、一瞬で終わるから。吐き気が込み上げてきたけど自分に言い聞かせてなんとか踏ん張る。


「おい」


 声が聞こえた方向を見ると浅野が立っていた。


「あ、浅野。どうしたの?」


 久しぶりに浅野と話した気がする。


「そんなふらふらな足取りでどこに行くんだ?」


「どこって、今からミスコンに出るの」


「何でだ?」


「勝手にエントリーさせられていて、それでむきになってミスコンに出てやろうと思って、ついでに緊張しいも克服しようかなって思って」


 浅野に私がミスコンに出る経緯を話した。


「へぇ、じゃあミスコン出るのやめとけば?」


 え?


 浅野からミスコン出なければいいじゃんっていう提案をされた。


 やめてよ、そうやって言われたらすぐに私は逃げ出してしまうから。


「大丈夫私頑張るから」


「今のお前がミスコンに出ても緊張しいを克服どころか人前に出るのがトラウマになってしまうぞ」


 私はこの浅野の顔を知っている。本気で心配してくれている顔だ。


「今お前が舞台に上がっても緊張して普段のお前が出せなくて笑い者にされる。それで次人前に出る時にまた失敗するかもしれないっていうトラウマが植え付けられてしまうかもしれない」


 何で浅野はこんなに私を心配してくれるのだろう。


「でもいつかは乗り越えなきゃいけないけど別にそれは今じゃないと俺は思う」


「何でそんなに私に優しくするの?浅野は」


「別に友達が困ってたら助けるのが当然だと俺は思う」


 浅野は多分照れたのだろうか顔をそっぽに向けた。


 うれしいなぁ、浅野は私のことちゃんと友達だと思ってくれてるんだ。


「じゃあお願いできる?なんか勝手にミスコンに参加させらてムキになって出てやろうって思ったけど今にも吐きそうなぐらい緊張して出られそうにないんだけどさぁ、なんとかしてくれる?」


「分かった、あとは俺に任せとけ」

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