第28話

 私はバカだ。


 体育祭の競技決めに大人しく誰かが学年別リレーに出るのを待っておけば良かったのに私は自らやると言ってしまった。


 誰もやらないから私がやる。これだけを聞けば私は良いことをしているのだろう。だが、それは違う。私がやったのは、ただの無謀なことだ。


 私がやったのは勇気ある行動でも、積極的な挑戦でもなんでもない、ただ自分に能力がないのにもかかわらず私ならできる、私ならなんとかなる、「私なら」この言葉のせいで自分で自分の首をしめていく。


 昔から何も変わってない。自分は特別なんだと思ってしまう。でも、後になって気づく、私は緊張しいで、運動神経悪くて、料理も下手で、勉強も苦手、何もできないくせに自信だけは持っている、ただの自信過剰のバカだってことを。


 体育祭の練習で一回本番形式で走ることになり、それを気付くことになった。本番形式で走ってみて誰が見ても私はダントツで遅かった。


 練習しているのは私達のクラスだけじゃないからもちろん他のクラスの人達も見ていた。


 遅い、走り方がダサい、なんで学年別リレーに出ようと思ったの?とかが嫌でも聞こえてくる。もちろん同じクラスの人も言っている。


「大丈夫だよ、気にしないで私達が差をつけるから。なんなら今からリレー選手変えれるように先生に相談しようか?」


 第一走者の田村さんが話しかけてくれた。田村さんは姉御肌で私に気をかけて話しかけてくれた。


「大丈夫、私頑張るから」


 何が大丈夫なんだよ、何も大丈夫じゃないくせに。一丁前にカッコつけんなよ。頑張るって何を頑張るんだよ、今まで頑張ってこなかったから今みたいになってるんだよ。今日含めて後4日しかないのに。

 

 自分が自分に腹を立ててしまう。だから私はいつまで経ってもバカなんだ。




 だからといって何もしなければ状況は良くはならない。もう練習するしか方法はなかった。


 そして今日の放課後から練習を始めた。


 走る練習なんかしたことがないから練習方法が分からない。でも、まずはストレッチから始めた。


 練習方法はとりあえず動画投稿サイトにある「足早くなる」で調べてやるしかなかった。


 ん?これ本当にできてる?が続いた。基本姿勢から、腕の振り方、足の上げ方、動画を見て勉強したがイマイチコツが掴めなかった。


 動画のことを全部やろうとしたら動きがぎこちなくなり余計に遅くなった気がした。


 走っている自分を動画に撮り、見てみても出来ているようには見えなかった。


 もう仕方ない、数を走るしかない。今日は休憩をいっぱいとりながら100メートルを20本走った。

 

 家に帰ってゆっくりしていると足が痛くなってきた。骨折とか打撲ではない痛さ。筋肉が痛い。でも筋肉痛ではない。これがあるから足をマッサージするんだなと思った。


 次の日の朝は足が筋肉痛で歩くことさえ痛かった。でも、そんなことは言ってらんないから今日も学校が終わると練習をした。


 木曜日、ホームルームで担任の教師から今週の土曜日は台風が直撃するから来週の土曜日に体育祭をもっていくと言われた。私のこのことを聞き心の中で喜んだ。練習時間が増えることは私にとって好都合であるからだ。


 そしてその日も練習をして、金曜日も練習して、土曜日、日曜日も家で出来ることをやった。月曜日からはまた学校が終わったら練習をした。


 火曜日、穂花ちゃんが私を心配して話しかけてくれた。


「ねぇ、大丈夫?」


「何が?」


「最近顔色悪いし、授業中は寝てるし、何か色々と心配なんだけど」


「大丈夫、心配しないで」


「もしかして学年別リレーのこと?それなら先生に言って変えてもらおうか?」


「本当に大丈夫だから、私が決めたことだから」


「そう?じゃあ本当に無理だと思ったら言ってね」


「うん、ありがとう」


 これは私個人の問題で、穂花ちゃんには迷惑をかけたくない。


 そして、この日も学校が終わり練習をした。


 水曜日、急に焦りが襲いかかってきた。


 本当にこのままでいいのか?タイムは縮まってないし、走り方も変わってない。そう思い始めたら止まらなかった。休み時間笑っている人を見ると私のことで笑っているんじゃないかって思う。学年別リレーが私のせいで負けたら笑う人が増えてしまうのではないかと思ってしまう。


 そんなことを考えてしまったら震えが止まらなかった。授業中になってもそんな考えがずっと頭の中から離れなかった。


 授業を受けてる時間なんてあるのか?あと今日含めて3日しかないよ?私のせいで負けるよ?


 そう思ってしまったら震えだけでなく、吐き気もやってきた。吐き気はなんとか耐えたが、黒板の文字が歪んで、黒板が歪んで、全部が歪んで、いつの間にか床に倒れて私は気を失っていた。



 

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