第27話
佐々木が学年別リレーに出ることになってしまった。
いや、待て。何もボーリングが下手ってだけで運動音痴って決めつけるのは早いかもしれない。野球できるからサッカーができるとは限らない。
決めたのが六時間目だったこともあり、学年別リレーの選手が決まり終わったらすぐ下校になった。
今思えば足遅い奴がどんな状況だろうとリレーを走ろうと思わないだろう。そうだよ、ちょっと自信があったから走るって言ったんだよ、絶対。
そう考えると、気持ちが軽くなった。もう今日は帰って寝よう。足が速い奴が出るリレーに足の遅い奴が出るわけがない。
次の日
5.6時間目に体育祭の競技練習がある。学年別に振り分けられている。ちなみにこの高校は6クラス30人だ。
騎馬戦や障害物競走の安全性の確認、綱引きやリレーの連携の練習にあてられている。
騎馬戦、障害物競走、綱引き、リレー、借り物競走の五種目には基本的に一人二種目出ている。それでないと人数と競技数が合わないからだ。
しかし、俺のクラスは女子が多く、女子も二種目出る人もいるが一種目だけの人もいる。
俺は奇跡的に男子の中でも借り物競走の一種目だけに出る。
だから、暇なのである。借り物競走に練習などないから何をすれば良いのか分からない。
どこのクラスを見てもみんな練習している。俺だけが何もせずに立ったている。
なんか俺だけ練習しないまま立っとくのは嫌だし、自分で考えて借り物競走の練習でもするか。
借り物競走はスタートして、30メートル先にある机の上に四つ折りの紙が置いてあり、その紙を開き、お題が書かれているので、そのお題の物を持ってゴールへ向かう。
借り物競走なんか運。ほとんどギャンブル。練習するって言っても何を練習すればいいかなんか分からない。
仕方ない、四つ折りの紙を速く開く練習でもするとしよう。
お、結構練習してみると意外に上達するもんなんだなぁ。最初と比べて数コンマ速くなった。30メートル走で勝負なんかつかない。紙の開きの速さで勝負は決まる。
この紙開きは手先の器用さが求められてくる。本番で一番やってはいけないのは焦ることだ。焦ってしまっては最高のパフォーマンスができなくなってしまうから。
「何やってんだ?」
練習を抜け出してきた森が俺に話しかけてきた。
「見て分からんのか、どう見ても借り物競走の練習だろ」
「借り物競走の練習してる奴なんか初めて見た」
「良かったな、もしかしたらお前が借り物競走の練習してる奴の第一発見者かもしれんな」
てことは俺は初めて借り物競走の練習した奴になるのか。でも嫌だな、借り物競走の練習を初めてした奴になるなんか。
「おーい、信」
うわ、なんか来た。
「何やってんの?」
コイツは神崎拓海。クラスの人気者で野球部のショートのレギュラーだ。
佐々木のいじめを止めるために協力してくれた優しい奴だ。ちなみにクラスの人気者って言っても俺と森とは違うクラスだ。
「借り物競走の練習だ」
「え、借り物競走の練習してる奴なんか初めて見た」
「残念ながらお前は第一発見者じゃないんだ」
「ん?何の話し?」
「いや、こっちの話しだ」
本当に気にしなくていい。借り物競走の練習してる奴の第一発見者がお前じゃないことなんか全然どうでもいい話だ。
「あ、もしかして森くんでしょ、俺、神崎拓海。よろしくね」
「ああ」
こういう底抜けで明るい奴なので、もちろん人見知りなどせず初対面でも馴れ馴れしくいける。
「良かったのか?抜けてきて」
「大丈夫、大丈夫、疲れたからちょっと休憩」
団体競技は一人抜けたら練習が成り立たないことがあるから、きっと無断で抜け出してきた神崎はあとで怒られるのだろう。
「俺、学年別リレー走るんだけど、そっちのクラスは誰が走るの?」
「確か、青木、田中、宮崎、森、だったけ?」
一応森に確認しておく。
「合ってるぞ」
「へー、森くん走るんだ。女子は?」
「女子は、田村、渡辺、柏木、佐々木、だ」
女子は印象的だったから覚えている。
「佐々木さんって、信の彼女じゃん」
あまりにも急に変なことを言い出したので一瞬神崎が何を言ったのか理解するのにに時間がかかってしまった。
「はぁ?佐々木は彼女じゃねぇよ」
「だって、学校で仲良さげに話しているとか、ファミレスに一緒に行ったとか、噂されてるぞ」
「いや、多分それ俺だけど、付き合ってねぇよ」
まさか、そんなところを見られているとは思わなかった。まぁでも、二人でいたら噂されるよな。
「あ!見て。今から信の彼女が走るよ」
「なぁ、俺の話聞いてた?佐々木は彼女じゃねぇよ」
今から女子が一回、本番形式で走るらしい。
どうやら佐々木は三番目に走るらしい。
一人目の人がスタートした。学年別リレーに出ることだけあって男子に引けを取らない走りをしている。
二人目にバトンが綺麗に渡された。二人目ももちろん速い。
そしてバトンは佐々木に渡り、走りだした。
結論から先に言わしてもらうと、めちゃくちゃ遅い。
可愛らしく女の子走りで弱々しく地面を蹴って走っている。
「信、あれ大丈夫?」
神崎の言う「あれ」とはきっと佐々木のことだろう。
「やばいかもしれん」
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