第26話

 二学期


 夏休みが終わり今まで休みだったせいで生活リズムがズレて、学校に来たくなくなるものだ。そして意志の弱い者は学校に来ずこのまま夏休みが続けばいいのにと思い家に引きこもってしまう。俺も引きこもりそうだったけど一日目を行けばなんとかなるものだ。それは課題にだって言える。まず一文字目を書くことが大事だ。一文字目を書いてしまえばもう一文字もう一文字、と段々書いていけるものだ。だから何においてもまず一つ目が大事だと言うことだ。


 そんな二学期の一日目を普通にクリアして、今は一週間目となった。一週間目になっても俺と佐々木は一度も喋っていない。おかげさまで俺は平穏な生活を送っている。


 そんな平穏な生活に水をさすようなイベントが起きようとしている。


「はーい、じゃあ一週間後は体育祭なので出たい種目を選んでください」


 と、いつ決まってたのか分からない学級委員長が仕切りだした。六時間目は本当は数学だったけど決まってなかったので急遽変更して体育祭の種目決めになった。


 種目は五つあり


 綱引き


 借り物競走


 障害物競走


 騎馬戦


 学年別リレー


 紅白でこの五つで争う。ちなみにこのクラスは紅組だ。


「じゃあ、男子は右側、女子は左側に集まって話し合って決めてください」


 綱引きと学年別リレーは男女混合で行うが他の三つは別々で行う。


 それでも男子と女子のそれぞれ種目に出る人数は決まっていて、今はそれを決める。


 まぁ、俺は余ったものに入るだけだ。男子はスクールカーストの高い奴が最初に何をやりたいかを決めてスクールカーストの低い奴は余ったものに入る。つまり、スクールカーストの低い俺は余ったものに入るだけだ。


 男子はイベントには積極的で、負けると裏で陰口を言う。なんて奴らだ!


 そして男子は一瞬で決まった。言い争いなんてものはなく、普通に決まった。ちなみに俺は借り物競走になった。


 女子は圧倒的に遅い。体育祭に関しては圧倒的に遅い。積極性がないから女子は遅いのだ。このクラスの女子は運動系の部活に入っている人が少なく、運動系の女子は積極的に種目を決めるがそれ以外の女子はあれは嫌、これは嫌、と文句ばっかり言う。文化祭は積極的なくせに。 


「あの〜、女子のみなさんあと少しで時間なのでそろそろ決めてもらって良いですか」


 委員長が六時間目の授業が終わる時間がやってきたのを感じて女子に早くするように言った。


「うっさい、今決めてんじゃん」


 こわ〜い、女子の方めっちゃピリピリしてる。


「ごめんなさい」


 ほらー、委員長がビビっちゃったじゃん。


 男子はもうとっくに決まったから自分の席に帰るのだが、左側は女子が占領しているためまだ帰れない。男子達は右側の席の男子のところに集まってまだ決まってない女子の悪口を言っている。


 早く決めてもらわないと放課後も使って決めなくてはならないため、早く帰りたい奴と部活に遅れたくない奴はイライラし始める。


 俺も早く帰りたいからイライラしている。何を話し合っているんだ、と思い自分の席から女子の話し合いを聞いた。

 

「ねぇ、誰が学年別リレーに出るの?」


 学年別リレーに誰が出るか、で揉めているのか。リレーは足の速い奴しか出ないから、足の遅い奴は出たくないのはわかる。


「私足遅いから無理」


「誰かやってくれないかなぁ」


 ああ、これはいつまで経っても決まらないやつだ。最終的にこの空気に耐えられなかった奴が「私がやる」と言う。そしてその子は足が速いわけでもないから負けたらその子のせいにされる。可哀想に。


 障害物競走の人数が余っているからその中で誰がリレーに変わるかを決めているらしい。その中になんと佐々木がいる。 


 俺は佐々木がリレーをやらないことを願っていた。俺の知っている佐々木はゲームが好きで、ボーリングが下手で、大食いで、緊張しいだ。


 ゲーム好きと大食いは関係ないけど、ボーリングの球の投げ方と緊張しいを見ていると、きっと運動音痴なのだろうと思っている。自信があったらとっくに俺に自慢してたし、リレーに出るって言っているだろう。言わないってことは自信がないのだろう。

 

「このまま決まらないと放課後にいってしまうのでできるだけ早く決めてください」


 お、委員長よく言った。女子が怖かっただろうに勇気出して言ったんだなぁ。


「分かってるって、だから今決めてんじゃん」


 やっぱり女子を怒らすと怖い。


「ちょっと誰かいってくんない」


 スクールカーストの中でもイケてる奴が言ったことで話し合いが動きだした。


「そう言うアンタがいけばいいんじゃないの」


「私、足遅いからみんなに迷惑かけたくないんだよねぇ」


 出た〜、ただ単に自分が出たくないだけなのにみんなに迷惑かけちゃうからとか言って逃げる作戦だ。


「そんなこと言ったら私もそうよ」


 また話し合いは振り出しに戻ってしまった。これはまた時間がかかりそうだ。


「私やってもいいよ」


 おー、やっとやってくれる人が出てきてくれた。マジありがとう。誰?俺の中学校の知り合いかな?いや、俺中学校の知り合いがいない学校選んだんだったわ。


 えー、誰だろう?黒板に書き出されているから見てみることにした。


 学年別リレー 田村 渡辺 柏木 佐々木


 田村さんは確か、バスケ部だった記憶はある。渡辺さんは、バレー部だったけど50m走クラスて一番速かったって噂になってたし、柏木さんはソフトボール部のスピードスターと言われている。これはかなり期待できるぞ。で、最後は佐々木か、佐々木って確か、


 ん?


 "佐々木"


 はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?

 

 え?俺は今の状況が理解できなかった。ああ、俺は今日顔を洗うの忘れてたのかも知れない。もう一度見てみよう、変わってるかもしれない。


 学年別リレー 田村 渡辺 柏木 佐々木


 いやいや、そんなわけがない。そうか、今秋だから、キノコの胞子で目がやられて幻惑を見せられているだ!きっと。目から血出るほど擦りもう一度見た。


 学年別リレー 田村 渡辺 柏木 佐々木


 終わった。何度見ても結果は一緒だった。


「香奈ちゃん本当に大丈夫なの?」


 心配した寺田が佐々木に声をかけていた。


「大丈夫、一週間だけでも頑張って練習するから。絶対みんなの迷惑をかけないから」


 はぁ〜、みんなに迷惑をかけたくないから学年別リレーに出ないと言った。みんなに迷惑をかけたくないから自らリレーに出ると言って、練習を頑張ると言った。どっちが正しいなんてのは分からない。だが、俺は少なからず佐々木を尊敬してしまう。

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