第25話
夏休みも残すところあと一週間となった。
今日は近くで夏祭りがあるらしく、佐々木が来いって俺に言ってきやがった。俺を呼ぶってことは絶対に俺と二人きりはありえない、てことは寺田も来るってことだ。森は知らん。
まぁ、俺と佐々木の関係も夏休みまでだ。二学期になったらただのクラスメイトになるのだ。あいさつしてきたら返すぐらいはしてあげようとは思う。
待ち合わせ場所に向かうために駅に行き、切符を買い、電車に乗った。
電車の中では十人くらい着物を着ている人がいた。この人らも同じ夏祭りに向かっているのだろう。
目的の駅に着き、雪崩のように降りていく人たちにもみくちゃにされながら駅を出た。
待ち合わせの場所には佐々木がすでに待っていた。
「よ、佐々木」
「あ、浅野」
佐々木は意外にも着物姿で来ていた。
「どう?かわいい?」
と言って俺の前でくるっと回った。
「かわいいかは知らんけど、似合ってるぞ」
「そう?ありがとう」
素直にかわいいって言っておけば良いのに何故か恥ずかしくなって言えなかった。これだから童貞は嫌いだ。
褒められたのが嬉しかったのか、佐々木は近くのガラスに写る自分を見てニヤニヤしている。
そして自分の姿を見ていた佐々木は急に俺の方に向いた。
「今日の屋台で売ってある食べ物全部制覇しようね」
「ああ、そうだな」
屋台の食べ物といえば、焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、チョコバナナ、他にも色々あるがそれらを全部制覇って普通にやばくない?
でも、佐々木は胃袋が宇宙なのである。前、一緒にラーメンを食べに行った時に余裕で替え玉頼むし、ライスも食べるし、ニンニク結構入れるし、本当に佐々木は全部制覇できるかもしれん。
「ごめん、待った?」
と少し待ってたら寺田がやってきた。
「ううん、そんなことより穂花ちゃんの着物かわいい〜」
「いやいや、香奈ちゃんの方がかわいいよ」
寺田も佐々木と同じく着物姿で来ている。
お互いがお互いを褒め合う、なんか女子ってこういうの多くない?いや、もしかしたらお互いが褒め合うことによってお互いが自分を高め、これからの日本を支えていくのかもしれない。そんなわけないよな、何言ってんだ俺、ごめん。
「ねぇ?浅野、かわいい?」
「かわいいと思うぞ」
かわいい?と聞かれたらかわいいと答えるのがベストだろう。他の言葉で答えると拗ねるから。
「やったー」
寺田は嬉しそうにしていた。良かった良かった。
「私にはかわいいって言ってくれてないのに」
「かわいいって言っておかないと寺田が傷つくだろ」
「私は傷ついていいって言うの」
めんどくせー、素直にかわいいって言っておけば良かった。
「悪かったって」
「絶対悪いと思ってないでしょ」
まぁ、悪いとは思ってない、でも実際は素直にかわいいって言えなかった俺が悪いのだろう。
「思ってるって、ごめんな」
「別に良いけど」
やらかした、佐々木が軽く拗ねてしまった。でも、食べ物を与えたら元気になるからいいか。
「ごめん、少し遅れた」
俺が来てから5分ぐらい経って森が来た。5分ぐらいだからそんなには遅刻ではない。
「いいよ、全然待ってないよ」
「良かった」
多分だけどこれで全員揃ったと思う。森はいらんかったけど。でもそんなこと言ったら二人は美人だし、森はイケメン、俺が一番いらないのかもしれない。
「揃ったんだったらさっさと行こうぜ」
こんなとこでずっといても仕方ない、夏休み最後の思い出づくりでもしよう。
会場に行くとそこそこの人がいる。
俺は夏祭りなんて小学校入る前に行った記憶がある程度だ。でも、10年ぐらい前だから記憶なんてほとんどない。その時は母さんと一緒に花火を観たのが唯一記憶にある。その時に
「信が大きくなったら大切な人と観て欲しいな」
と言っていた。母さんに会いたくなってきた。しかし、いないものいない。前を向いて歩いていこうと思う。
つまり、夏祭りほとんど初めてだ、ってことだ。テレビで夏祭りの映像が流れても何も思わなかったが、今の俺はとても興奮している。
なんでこんな楽しそうな所を俺は今まで行かなかったのだろう、少し後悔している。しかし、今から楽しめばいいだろう。
「おい、佐々木、全部の屋台の食べ物買いに行くぞ」
「うん」
そして俺と佐々木はすべての屋台の食べ物を制覇すべく、各々が走って列に並んだ。寺田と森の存在を忘れて。
ある程度買い込んでフラフラしていると声が聞こえて来た。
「おーい、こっちー」
声のする方向を見てみると寺田と森と焼きそばを食べている佐々木がいた。
つい興奮してこいつらのこと忘れてた。
「楽しすぎてお前らのこと忘れてたわ」
「ひどいなぁ」
「森は俺がいなくて寂しいもんな」
「そんなわけないだろ」
と俺と森のいつも通りの会話をする。
「んんんー、んんんんーんん、んん」
佐々木が口に食べ物を入れながら喋っているから俺は片手で佐々木のほっぺを中指と親指で押した。
「ん"ーーー」
「喋っる時は口に何もないときに話せ」
「危ないなぁ、あとちょっとで出るところだったんだから」
本当にコイツは知れば知るほどアホだな。
「そんで俺に何が言いたかったんだ?」
「あともう少しで花火があがるよ」
「おう、そうか」
そして数分後に花火があがった。
綺麗な花火を観ているのも良いけど寺田と森を二人っきりにしてあげようと思い、佐々木を誘ってあまり人がいない所に行った。
幸いにも寺田と森は花火に夢中で俺らが抜け出したのがバレていなかった。
「よし、ここまで来れば問題ないだろう」
「そうだね」
そして俺と佐々木は静かに花火を観ていた。
「なぁ、もう俺がいなくても問題ないよな」
「そうだったね、浅野とは夏休みまでだったね」
「浅野」
「なんだ?」
花火を観ていた佐々木がこちらを向き
「いじめられているところを救ってくれてありがとう。穂花ちゃんに話しかける時に相談にのってくれてありがとう。一緒にラーメン屋に行ってくれてありがとう。夏休みも手伝ってくれてありがとう」
あの佐々木が俺に感謝を伝えているだと、俺はどんな顔をすればいいんだよ。
「多分これだけじゃ足りないと思うの、でもね本当に感謝してるから」
「ああ、こっちこそ楽しかったよ、ありがとな」
きっともうこの高校生活で喋ることはないのだろう。お互いが自分の人生を生きていくだけだ。
そっからは特に喋ることはなく、そのまま解散となった。
家に帰り、風呂に入って、もう疲れたから寝た。
二学期からは今まで通りになっただけでこの三か月がおかしかっただけだ。こんなのはすぐに慣れるだろう。俺はそう思った。
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