第4話

 超絶怒涛の復讐劇とか言ったけど案が一つも出てこない。やっぱり死のうかな。


 でもまぁとりあえず一週間がんばってみるか、一週間でいじめをなくす方法が思いつかなかったら定時制か通信制に行くか。何も全日制が正解なんてことはない。


 もう死ぬのはやめた、俺は俺が幸せになるためにこれから一生懸命生きるわ。母さんごめん、俺まだそっち行けねぇわ。


 まず、部屋の掃除をしよう。部屋が暗すぎる、自分の周りの何かが暗らかったら自分も暗くなる。

  

 そして、飯を食おう。「腹が減っては戦ができぬ」って言うし。コンビニに行こう。


 もうすっかり外は暗くなり、学生は補導される時間。だけどバレなかったら何も問題ない。


 自分の中で吹っ切れたおかげか視野が広くなった気分だ。前は何も見たくないし、人と目を合わせたくなかった。今では前を向いて歩いている。


 街灯の光の下で千鳥足の酔っ払いが歩いているだけでも、スポットライトの下で踊っているダンサーに見えてくる。


 赤い鉄塔は東京タワーに見えてくる。


 大きな声で接客してるだけなのに、今にもすべてのガラスが割れそうな勢いのオペラ歌手に見えてくる。


 ただのレジ打ちなのに、今の俺には聴く者すべてを魅了させる天才ピアニストに見える。


 多分他の人はこんなの当たり前だったかもしれない。しかし、前の俺では考えもよらなかったと思う。今は前向いて生きると決めたおかげでこんな素晴らしいものを見れるんだなと思った。俺は今まで損な生き方してきたかもしれない。

 

 腹も心も満たしたし、今日は寝よう。明日学校休みだしゆっくり寝よう。明後日はバイト、って俺自殺してたら誰かが俺のシフトに入らなきゃいけなかったんじゃん。自殺してたらバイトの人達に迷惑かけてたな。あぶねー。

 

 なんてことを思っていたら、ぐっすり眠っていた。明日は一人でいじめをなくす対策を練らないといけないから。

 

 

 久しぶりにこんなにゆっくり寝れた。でもやっぱりいじめをなくす対策なんて一つもでてこなかった。


 次の日、俺はバイトに行った。ちなみにスーパーで働いてる。


 やっていることといえば、品出し、品出しは足りない品を足すんだけど、賞味、消費期限の品を前に出さないといけない。


 あとは精肉、鮮魚、野菜コーナーでラップを巻いている。最初の頃は下手くそで何回もラップを破ってしまったこともあった。

 

 今日の担当は品出しだ。


「こんにちは。今日もよろしくお願いします」


 おっ、思った以上に大きな声が出た。久しぶりに声出したから調節できなかった。


「わっ、びっくりした!こんにちは。どうしたの信くん今日雰囲気違うじゃん」


 体がビクッってなっていた。本当にびっくりしたようだ。


 この人はパートの長谷川さんで、もう四十近くの主婦だ。たまたま始まる時間が一緒で俺のことを気にかけてくれてよく話しかけてくれる。でも俺は無愛想に返事するだけだった。


「俺は一生懸命生きることにしました」


 背筋を伸ばして長谷川さんの目を見て宣言するように言った。


「うん、だいぶ目つきも雰囲気も変わったね。これから頑張って」


 長谷川さんは両手でガッツポーズして優しく笑って言ってくれた。


「はい。これからもよろしくお願いします」


 一生懸命生きると決めたからには挨拶もバイトも手を抜かない。


「本当に最初の頃は酷かったのよ、あいさつしても返さないし、無視するし、最近なんて今にも死にそうな顔してたもの」


 あいさつ返さない、無視は酷いな。今にも死にそうな顔って、やっぱり分かるんだなぁ。


「本当にすみませんでした」


 俺は勢いよく頭下げた


「いいのよ大げさねぇ、これからもよろしく」


「はい」


 今日一の声が出た。


「あーそういえば店長がね、最近万引き増えてるから気をつけてって」


「分かりました」


 お金に困ってやってるのか、ゲーム感覚でやってるのか、最近なんて万引き依存症なんてものがある。


 万引き依存症は最初は少しずつだが段々エスカレートしていき、もう自分では止められなくなっていくことだ。


 万引き依存症は依存症の中でも社会ではまだ認知度が低い。だから治療機関や支援がない。万引き依存症は再犯率が高く、万引きしたら刑務所に何度も入れられる。


 万引き依存症の人に刑罰は必要ない、必要なのは治療だ。と俺が個人的に思っている。


 そんなことを考えながら仕事をしていた。いやでも決して手は抜いていない。


 ん?なんかフードかぶってキョロキョロしてる客がいるな、と思い後についていった。


 菓子パンを手に持ち、盗った。そして客はそそくさ店の外へ出ていこうとした。


 フードかぶった客は人通りが少ないところに逃げた。俺は走って捕まえることができた。元野球部なめんな。


「盗ったもん出せ、あとフード取れ」


 盗ったもんを出し、フードを取った。取ったら俺よりも年下っぽかった。そして、今にも死にそうな顔をしていた。


 長谷川さんが言ってた死にそうな顔ってこんな感じだったのかな。


「中学生か?」


 うなずいた。


「なんで盗った」


「お母さんいない、お父さん帰ってこない」


 涙声で答えた。


 なぜか俺はコイツを放っておけなかった。


「ちょっと待ってろ」


 俺は走って休憩室まで行き、かばんから財布を取り出し、財布の中のキャッシュカード取りだし、4万を下ろした。

 

 そして俺はアイツのもとに戻り、4万を渡した。


「オイ、とりあえずこれでなんとかしろ、あと一生懸命生きろ」


 俺はそれを言って仕事場に戻った。そんな顔してたら人生損するぞ。


 てか、なんで万引きとか分かるんだろ。俺は店を見渡した。


 あー防犯カメラか!っと思ったらピーンといじめをなくす対策が思いついた。


 この手があったんだ。


 

 

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