第2話

 佐々木 香奈 コイツが父さんの浮気の噂を流した張本人だ。そしてコイツがいじめの主犯であった。小学校の途中で引っ越して戻って来たらしい。


 佐々木が自己紹介をしぺこりとお辞儀をし終えるとクラスの男女ともどもが歓声をあげている。


「中学校はどこだったのー」


「何部入ってたの?」


「どんな男性が好み?」


 などなど一斉に飛び交っていた。


 みんなが楽しそうにしている中、俺はどうしても顔をあげることができなかった。忘れたかったトラウマを思い出してしまうから。


「おーい、いい加減に静かにしろ」


 担任の先生の声でやっと静かになった。


「えーじゃあ、浅野、聞いた話しだとお前小学校一緒だったらしいじゃないか昼休みとか放課後とかに学校案内してやれ」


 は?


「えっ、ちょと待ってください」


「拒否権は無いしな」


 いやいや、待ってくれ無理に決まってる。アイツだぞ、何されるかわかったもんじゃない。しかも俺はアイツが憎くて仕方ない。そんな奴と喋りたくもない。


「浅野の隣が空いてるな、浅野の隣いってくれ」


「分かりました」


 俺の席は窓側の一番後ろだ。隣がなぜかずっと席が空いていたのはコイツが転校するのを前もって知ってたからか。


 佐々木が段々隣に近づいてくる。

 

 鼓動が早くなる。呼吸がうまくできない。全身が汗びっしょりになってしまっている。

 

 佐々木が隣に来た。


「これからよろしくね」

 

 笑顔で言った。俺はこの笑顔を知っている。小学校の時に何度と見た。俺をいじめてた時もその笑顔だった。


「よろしく」


 なんとか声を出すことが出来た。


 ショートホームルームが終わると同時に俺はトイレに駆け込んだ。朝、食べてきたものをすべて吐き出した。目眩がする。手に力が入らない。帰りたいけどそんな学業に余裕があるわけでもないので我慢するしかない。

 

 気力を振り絞り教室に入り、席に座った。すると隣の席の佐々木が体を横に向けて、


「昼休みは友達とお弁当食べるから放課後に学校案内してくれる?」


 俺がトイレで吐いている時にもうクラスメイトに誘われたらしい。


「ああ」

 

 あー憎い、コイツが憎くて仕方ない。出来ることならばコイツとはもう会いたくなかった。


 授業にも全然集中できなかった。先生の話しなんて一言も入ってこなかった。隣に俺の人生を狂わせた奴がいるから。


 放課後になった。部活がある奴は部活に行き、部活がない奴はさっさと帰っていく。俺は佐々木に学校案内しなくてはならない。しかし、俺はそんなことしたくない。佐々木も忘れているかもしれない、黙って帰ればバレないんじゃないのかと思い、教室を出ようと席を静かに立つと

 

「あれ?学校案内してくれるんじゃないの?」


 気づかれてしまった。


 学校案内、名前の通り学校を案内するだけだから別にコイツと会話なんてしなくても良い、このままなにも起こらず終わってくれ。


 最後に音楽室を案内すると


「そういえば小学校の時、浅野、リコーダー隠されて泣いてなかったけ?」


「そんなこともあったな」


 なんで覚えてんだよ。


「小学校の時と雰囲気変わってないね」


「そうだな、もう終わったから帰る」


 頼む、もう喋らないでくれ、小学校を思い出してしまいそうだから。


 なぜか俺についてきて


「高校になってもいじめられてるんじゃないの?」


 と、笑顔で平気で聞いてくる。


「いや、全然」


「相変わらず全然喋らないね、そんなんじゃ友達なんていないんじゃない?」


「ああ、その通りだ」


 もう終わったから帰ってくれよ。


「浅野のお母さんもバカね、実は何回も浮気されてらしいじゃない、それでも許してあげるって救いようのないバカね」


 俺の中で何かが切れる音がした。


 佐々木の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけていた。なんで母さんがバカにされなきゃいけないんだ。息が荒れて、手に力が入る。


「なによ急に」


 俺は我にかえると手を離し、急いで家に帰った。


 まだ手の震えが止まらない。母さんをバカにされて無我夢中になってしまった。明日会ったら謝ろう、そして明日からは何もない普通の日常を送ろう。


 

 ああ、佐々木、お前はそういう奴だったよ。

 


 次の日、教室に入ると俺の机に落書きが書かれていた。


 地獄の再来だ。

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