後話

 タクシーの中に1人残されたヒロシは、窓越しに回りを観た。どうやら僕の好きな東寺の近くらしい。五重塔が凛として素晴らしく観えている。スマホを取り出してここにきた証に五重塔を1枚撮った。運転手の言う通り、たしかに行き先の方向は間違っていないようだ・・。


 果たしてほんとうに1~2分後、運転手は戻ってきた。そして手には白い手提げのレジ袋を持っていた。再出発となる。運転手さんのしゃべりも再開した。

「いやー、あそこのお店のおはぎが美味しいんですわ。近くまで来た時は寄るんでどす。実は昨日、テレビで紹介されましてな。売れ切れちゃう前に寄ったんどす。ほんとうは今日は休みなんどすけど、彼岸前ということもあってテレビでもやったちゅうんで、今日は開いとると聞いて・・。」


 ヒロシは運転手のあっけらかんとした説明に呆れて文句もでなかった。

「(おいおい、そのために寄ったのかよ・・。まったくの私用じゃないか。客の俺は急いでいると言っているのに。やはり京都のタクシーの質は悪くなっているなぁ。)」


 そこから走ること5分、母方の菩提寺である行寿院の前に到着した。色々とあったが、ヒロシは運転手に一応お礼を言った。

「ありがとう、助かりました。」

料金を精算し車を降りようとした時だった。運転手がさらに話そうとしている。

「これ、ほんまに美味しいどすからね、一日は持ちますから、食べてみてください。」


そして、運転手は先ほどの白いレジ袋をそのままヒロシに差し出した・・、エッ! ヒロシは驚きの表情した。


「(俺のためにわざわざ買いに寄ったということ?)」


「いいんですか?」

「いやー、安っすいどすよ、でも、ほんまに美味しいんどすわ。」

運転手はにっこりした。

「京都、楽しんで下さい!」

そして、タクシーは寺前から去って行きました。


ヒロシは菩提寺の門の前に暫し1人立ち感動していた。

「京都は・・、良いところだなぁ。」


おはぎは二つ入っていた。墓参りの後は仕事があり、さらに酒席もあるということで、この後おはぎを持ち歩くわけにも行かない。お寺で墓参りを簡単に済ませた後、住職の奥さんに一つお裾分けして、お茶をいただきながらもう一つを平らげた。


住職の奥さんが言うには、このおはぎ屋は目立たないお店だけど京都では知る人ぞ知るの名店とのことだった。

確かに美味しいかった。ヒロシはあらためて運転手への心遣いに感謝をした。


そして、次の京都のタクシーに乗ることを楽しみにしているヒロシであった。

(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間模様15 京都のタクシードライバー herosea @herosea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ