中話

 ホテルを出て祇園町の大和大路通の花屋でお供物のお花を買った。お寺までの移動は・・タクシーは先ほどの嫌なイメージが残っているが・・。そう考えていたところに、目の前にタクシーが来た。ヒロシは結局深く考えることをやめてそのタクシーに手をあげて止め、乗車することにした。

「上鳥羽にある行寿院までお願いします。住所はここです。」


先ほどのタクシーのことがある。ヒロシは運転手の応対に少々構えた・・が・・直ぐに考え過ぎであったと悟った。

「お客はん、ご乗車おおきに。」

運転手はそう応えるとカーナビに目的をセットし、タクシーを進めた。このタクシーの運転手はとにかく人が良さそうだった。何よりも京都弁で良くしゃべる。

「お客はん、話ぶりから東京の方どすか?」

「身なりからわかりますけど、出張でこられましたな。」

「でも、お寺に何故いくのどすか。」


ヒロシは事情を話した。

「あーそぉどすかぁ、お母はん、京都の人やったんどすか、そらそら。」


さらに・・ヒロシから頼んだわけではないが、走る所々の案内を始めた。

「お客はん、五条大橋これから渡りますぅ。」

「五条大橋は、ほれ、牛若丸と弁慶が出会ったとこですぅ。像がありますやろ。ほんまは作り話みたいで、出会いはここじゃなかったらしいどすがな。」

「河原町通りでいきますぅ。」

と、逐一説明する。

「京都の道は碁盤の目になっとるからわかりやすいと良く言われるんどすけど・・。ところがそないに碁盤の目でもないし、道もそないに広くないし、信号・一方通行も多いんで走り難いんですわ。」

「京都の外に行くのは、有料道路がよーけー出来ましてな、色々つながって便利になりましたわ。」


 さて、タクシーが河原町通りを下って京都駅を越したあたりに来たころだった。突然、運転手さんが何か思い出したように言った。

「あっそうだ、お客はん、ちょい寄りたいところがあるんですぅ。1~2分、私に時間くれますか、料金、その分ええどすから。」


ヒロシにはあまり時間がない。困った表情で応えた。

「あの、僕、急いでいるんだけど・・。」

「ほんのちびっとだけどすよ、待ってもらえまへんか。」


 ヒロシは少々イラッときた。やっぱり京都のタクシーの質は落ちいている・・と思ったが、反論する余地もなくタクシーはメイン通りというより裏道を進むようになった。

「カーナビはそちらやけども、こっちの方が早いどすから・・・。」


 タクシーは暫くわけのわからない道を走り進み、京都の古い住宅街の中で停車した。すると、何も言わず運転手はさっと降りて、タクシー後方にあった気が付かないくらいこじんまりしたお店のようなところに入って行ってしまった。


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