人間模様15 京都のタクシードライバー

herosea

前話


 ヒロシは出張で京都にきた。

 実は京都はヒロシの母方の故郷でもある。子供の頃は夏休みに祖母の家に良く泊まりにきたものだ。とても愛着がある古都である。だが、祖母が大学時代に亡くなり、母の実家に暮らしていた伯母さん・従妹も引っ越してからすっかり足が遠くなっていた。それもあって巡り合わせのこの出張は楽しみにしている。


 出張の目的は、ビジネスパートナーである某企業の研究所訪問である。新横浜から新幹線に乗り2時間ほどの道中のはずだったが、静岡あたりで停電があったとかでダイヤが乱れ予定の時間より遅めの京都駅到着となってしまった。まずは、祇園にある予約したホテルに荷物を預けるためにタクシーで移動することにした。


 京都のタクシー・・、ヒロシには小さい頃の良くないイメージがある。その昔、京都には評判の悪いタクシー運転手が結構いたのだ。コワモテだったり、ツッケンドンったり、観光客相手に道を遠回りしたいと・・。子供心に京都のタクシーは怖いなぁ。」と思っていた。まぁ、今ではそのような話はまったく聞かないが。世界に誇る観光地、安心、快適と聞く。


 そんなことを思い出しつつ、JR・京都駅のタワー側の乗り場でタクシーに乗車した。すると・・このタクシーの運転手がとても愛想が悪い。行き先を言っても返事もしない・・京都の街の話題を振っても反応しない。耳が悪いわけでもなさそうで、とにかく話したくない雰囲気だ。「運転に集中させろ」オーラを後部座席に放っている。ヒロシは、2,3回の話を振って何も反応しないので、少々ムカッときて話すのをやめてしまった。内心、「京都も外国人観光客も増えて、高飛車になりタクシーの質も落ちたか。昔のように怖いということはないが・・。」と思った。


 ホテルに着いて、その気に入らないタクシーを降車、チェックインを済ませた。

 やや遅れての京都着だったが、時計を見ると某企業への訪問時間まで少し時間がある。さて、どうしたものか。ここは京都、神社仏閣の参拝をしてみようか・・、どこにしようか・・。ヒロシは、ハッと閃いた。


「そう、ここは京都だ!」


 京都には有名どころの神社仏閣がたくさんあるが、ヒロシにとってもっとも重要なお寺があることを忘れていた。有名どころではないが母方の菩提寺があるのだ。祖母の葬式以来、もう30年近くもお参りしていない。都合の良いことにそのお寺は本日の訪問先からそれほど離れていない京都下の上鳥羽にある。行ってみることにした。

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