最終章.俺のことだけ見てろよ。




結局5時間目の授業をサボってしまった。



柊は何の悪びれる様子もない。



後で先生になんて言い訳しようと、不安になっているのは私だけみたい。





「ねー柊、そろそろ戻ろう?」



「なんで?」



「なんでって、先生に怒られちゃう」



「海莉は俺と一緒にいたくないの?」



なにそれズルい…。



「一緒にいたいよ…」



「じゃあ、いいじゃん」



そう言って私の手をギュッと握る柊。



幸せ。



幸せなんだけど。



さっきから幸せ過ぎて身体が持たない…。






「ねえ、やっぱり戻ろう?」



「じゃあ、約束な」



「何を?」



「今度から、俺のことだけ見るって」





…。




まさか、柊からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかった。





ずっと柊しか見えなかった。



どんなに他の人を好きになろうと思っても無理だった。



だから約束なんてしなくても、私にはもう柊しか考えられないんだ。





「そんなのとっくの昔から、柊しか見えないよ」





「やっぱ教室に戻るのムリだわ。もうちょっと一緒にいて」



柊はそう言って私をギュッと抱きしめて。



そんな柊にまたドキドキして、心臓がおかしくなりそう。



ずっとこうしてたいなって思ってしまう。



本当に信じられない。







5時間目が終わって休み時間になった。



名残惜しいけど、今の隙だと思って、私は先に教室に戻った。



「海莉!どこ行ってたの!?」



教室に入った瞬間に駆け寄ってきた美結。



「もしかして、柊と一緒だった?」



私の耳元でそう聞く美結に、私は顔を赤くした。



「マジ?!なに、ついに?

ついに結ばれちゃった!?」



「いや、あの、色々あって」



美結には話したいことが沢山あって、どれから話していいか分からない。



「えーなに、もったいぶらないで」



「あのね、うん。柊に好きって言いてもらえた」



なんか、言葉にするとかなり恥ずかしい。





「きゃー!ついに?!ついに素直になったのか、あいつ!」



美結は急に大きい声を出すから、急いで廊下に連れ出す。







「いや、マジであんたたち見てて、ずっとイライラしてたんだよね」



「え?」



イライラ?



私知らない間に美結にイライラさせてたの?



不安と申し訳ない気持ちで美結を見ると、美結は盛大に笑った。





「だって、どう見ても両想いなのに、いつになっても付き合わないからさ。

ずっとじれったかったんだよ」



え、どう言うこと?



「美結は柊の気持ち知ってたの?」



「いや、知ってたも何も、逆に気づいてないの海莉ぐらいだよ?」



と美結は呆れたように笑う。



柊にも言われたけど、私ってそんなに鈍感なんだ…。





「ふふふ、いやー嬉しいな!

自分のことみたいに嬉しい!」



美結はそう言ってすごく喜んでくれて。



そんな美結が友達で本当に良かったと思った。





「嬉しいついでに1つ、いいこと教えてあげる!」



「なに?」



「口止めされてたんだけど、もういいよね!?」



そう言いながら美結は話し始めた。







「海莉って自分のことモテると思う?」



「え、思わないよ。

だって今まで告白とかされたことなかったし」



坂城くんにはそれっぽいこと言われたけど、それが初めてだったし。





「ふふっ、実は海莉って

めちゃくちゃモテてるんだよ」



「いやいや、モテないって」



美結は何を言い出すんだ。



全然身に覚えのない話に、頭の中ではてながたくさん浮かぶ。





「なんで、モテるのに男子に言い寄られなかったか分かる?」



「だからモテてないからでしょ?」



「ちっちっち、違うんなー」



指を立てて否定する美結は、何故かとても楽しそう。





「実は柊がね、海莉に好意がある男子を…「はーい、そこまで」



美結が話している途中で、柊が入ってきた。





「ちっ」



舌打ちをする美結に、


「マジでそれ以上言ったら、海莉に一生近づけさせなくしてやる」


と柊。



「それは勘弁!私女子だよ!?

幼なじみなんだし大目に見て?」



美結はそう言って逃げるようにして教室に入って行った。





今の、何だったんだろう…。



私、モテてたの?



私と付き合ってるフリして、坂城くんを私に近づけさせないようにしていたのも、もしかして…。



「へー、そうだったんだ」



なんだか嬉しくて口角があがちゃう。







「んだよ」



「なんでもー」



私は本当に、柊のこと何も分かってなかったみたい。



「柊ってもしかして、めちゃくちゃ独占欲強い?」



そう聞くと


「そんな訳ないだろ」


と否定した。



だけど、それは"照れ隠し"なんだろうなと、今なら分かる。



こんなに想われていたなんて、何で今まで気づかなかったんだろう。



私はずっと前から幸せだったみたい。





「柊は分かりずらいよ」



「海莉が鈍感なだけ」



「ふふっ。そうだね」



ずっとずっと分からないと思っていた。



柊の気持ち。



だけど少しだけ知ることができた。







「もう誰にも俺たちの関係、邪魔させねーから」





柊は自信満々にそう言って、笑った。










.END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰にも邪魔させない。 咲倉なこ @sakura-nako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ