おばさんのしごと
黒煙草
受け継ぎ
僕にとって冬休みは、日は短くも濃厚な日常が待っていた
クリスマスから大掃除に年越し、年明けてから親戚巡りで大騒動
運転する母に連れ回されて、最後の一人の親戚と面会する時には僕のメンタルはボロボロになっていた
懐は厚くなるも、心が擦り切れる
特に、最後に会う親戚のおばさんは精神にトドメを刺してくるので鬱になる
というより、過去になったのだが
そんな僕とおばさんが、面と面を向かい合ってお話をしだしたのは午後1時だった
午前10時に母とおばさんが“おばさん会議“をする時は、アプリゲームで時間を潰していたが、お年玉を貰う瞬間だけは真面目に行動しなくてはならない
「また今年も、私の懐がすりきれるのね」
そんなおばさんの開口一番、僕は擦り切れる精神を振り切って姿勢を正す
「いや、まぁ…あまり多くなくていいので…」
そんな僕は開口一番、嘘をつく
お金はあって困らない
それは死んだ父の、そのまたおじいちゃんから受け継いだ言葉だ
なので今、懐が厚かろうと足りない
「嘘が上手ね、あなたは」
見抜かれていたが、僕は創った笑顔を崩さない
「いい笑顔ね、でも本当にあげる金額は少ないわ…他の親戚は多かったかもしれないけど、少ないからって私のことは嫌いにならないでね?」
一昨年、去年にも聞いた言葉だ
まぁ、おばさんの仕事を知らないから、国からの支援金で生活してるかもしれないし、仕方ないのだけれど…
だが、去年と違ったのは貰ったポチ袋の厚さだった
異様に膨れたポチ袋
僕は一瞬だけ、思考を停止させた
────何故、こんなにも分厚いのか
────なんの仕事をしているのか
────おばさんは何者なのか
巡る思考の途中に、おばさんがこちらを見る
「驚いたでしょう?」
我に返り、おばさんの顔を見ると
死人のような顔つきをしていた
「…────ひぅッ!」
僕は驚き、母の居場所を見渡した
台所で鼻歌を歌い、昼ごはんの準備をしていた
大声を上げて呼べば、包丁で怪我をしてしまうかもしれない────
「酷いわね、人の顔を見て驚くなんて……」
おばさんの方を見ると、生気が戻ったような顔つきになっていた
「な、なんだったの…?」
「あなただけには教えてあげる…私の“仕事“を」
変に、“仕事“という言葉を強くしたおばさんは、懐から一丁のオートマチック拳銃を畳の床に置く
非現実的な存在が、僕の目の前に置かれた
「な、なにこれ…」
「あら、最近の子供は知ってるものかと思ったのに…?」
知っているのはオートマチック拳銃だけで、銃の名前なんて知らない
「これはS&W M39と言ってね、……んー、子供でもわかりやすく言うと、ありとあらゆる生物を停止させる道具よ」
つまり、殺す道具────
「…っ!」
おばさんが僕の口元を抑え、声を出さないように静止させる
身動きが取れなかった
おばさんの目を見て、口元を抑えられたから
というか、すぐに動けるおばさんは何者なのだろうか?
「私はこの道具を使って生物の動きを、止めてきたのだけれどね…最近は少し“仕事“が増えたの」
“仕事“が増えた────
殺しをすることが、増えた
馬鹿な僕でもわかる、その一言は心の精神をどん底に突き落とすには、もってこいだった
「“私の居るような世界“で『仕事』をしている人は、素性がバレてはいけないの」
その言葉で、確定した
僕を殺すのだと
「だから、あなたにはね────」
「っ!うわぁぁああ!!」
勢い任せに首元に力を入れ、おばさんの抑える手を振りほどき大声を出した
母が何事かと慌ててこちらに来て、僕を抱きしめてくれた
母が僕に何があったか聞くが、言えば母も殺され、僕も殺されると思い、言えなかった
母は、おばさんに警戒心を強くして問いただすと
「こちらの話しよ、あなたなら分かるでしょう?」
とだけ言い残し、アパートの一室から出ていったのだ
ポチ袋と拳銃を置いて
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「僕が“生まれた“のは、中学三年の正月だよ」
「ふぅん、そうなのか…俺は学校とか行ったことねぇから中学とか知らねぇ」
「いつからこの『仕事』に?」
「来年で20周年だな」
「生まれた時からかよ、ウケる」
────母へ
僕は中学を卒業して、おばさんのあとを受け継ぎました。
今年で20を迎える僕にとって、この手紙は何かしらの節目だと思っています。
たくさん書きたいことはありますが、何がともあれ僕は元気に“仕事“をこなしています
母だったあなたも病気が回復し、元気になってください
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手紙は隔離精神病棟に届いたが、本人が居る牢屋の前に積まれるだけだった
おばさんのしごと 黒煙草 @ONIMARU-kunituna
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