Scene 26
水妖は目に見えないらしい。
あの戦士の人――
川沿いは白い砂があって、救い上げると星のようにキラキラと輝いて見える。
「ここの水は綺麗だから、空が地面に映ったのさ。
だから大切にされてる」
ミュペが水に入り込んで、何か唱えはじめた。
ミュペの呪文はあまりに難し過ぎて、理解できなかった。
理解してはいけないような気もした。
生暖かい風が吹いた。
あたりが昏くなる。
木がざわめく。
私はあらかじめ指示された通り、ミュペに背を向けて、下流へ向かって歩きはじめた。
「戻りたければ振り返ればいい。
けれど忘れないで。
私はいつもそばにいる」
川の方を見る必要は無かった。
私を見つけた魔物が動けば、それを捉えて赤爪さんが来る。
気味が悪いとは思いつつ、進んでいくと、何やらカビのように甘い匂いがする。
私はなんとなくそれが「それ」なのだと感じた。
川の方を見た。
きらきらと映り込んだ天の川の真中に、墨のように真っ黒な滲みがある。
「水妖――」
私が口を開くと、影は、こちらに気がついて、言葉を放つ。
「珍しいものを連れているな」
赤爪さんが来る気配はない。
すぐ来ると言っていたけど。
「こっちへ来たまえ。
ここは気分がいい」
「あなたのせいで迷惑してる人がいるみたいだけど」
話すな、とは言われてないので、何か言ってみる。
「迷惑なのは承知の上。
誰に嫌われたとて知らぬ」
「そう言うのを自己中って言うんだけど」
「貴様は……らしい」
川の魚が跳ねて、声が聞こえなかった。
「どういうこと?」
「妖怪の妖怪たる場所はかように……場所では貴様の連れている……が目覚めている」
木々がうるさくなって、言葉が隠れた。
「ああもう、出てきて話してよ!」
私が言うと、水妖は水から出てきた。
その時丁度、出てきたものに、人の顔が噛み付いた。
異世界ほのぼの人外同居モノ 桃雪とう @MarianaOak
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