第3話 〜発覚〜
どのくらいの時間が過ぎたであろうか。僕は今、車に乗せられて自分が何処にいるのか微塵も想像できない所にいる。二〇分のようにも感じるし、はたまたもう一時間もこうしているのかもしれない。窓の外を見ても時刻は夕暮れ。速度の出ている車内からでは景色が高速で流れていくだけで何も推測する事が出来ない。ただ分かるのは景色が段々山の方に行っているらしいということだけだ。僕を抱えて連れ込んだ二人もずっと僕の隣に居座っているから変に動いたら生存できなくなりそうな空気を感じ取って身動きが出来ない。
何も訳の分からぬまま時間が過ぎ、ようやく車はある建物の前で停止した。直ぐに扉が開きようやく僕は外に出ることが出来た。改めて周囲を確認してみると、やはりここは山の中のようだ。四方は緑が支配していた。建造物はその中にポツリと佇んていた。こうも周りに自然しかないと異質に見えた。無機質でそれでいてとても現代的な建物だった。もしもこれが市街地にあったならば、最新の総合病院なんだな、とでも思ってしまうくらいだ。
すると僕とともに車に居た人達がその建物の中に入っていくのでそれを見つめているとその内の一人がこちらを振り向き顎でクイッと建物の中を指した。
「こっちに来い」
とでも言いたそうなジェスチャーだった。周りには僕一人しかいなかったので自分に向けていると理解はしたが、何をされるか分からなかったのでできれば入りたくなかった。でも入らなければまた無理矢理にでも入れられそうだった。彼らの力の強さはさっきのことで重々承知していたので自分で動いたほうが身体に優しい。多大な不安を抱えながら歩みを進めた。
中も病院のような、役所のような、とにかく内装は綺麗だった。こんな広さを毎日掃除するのはさぞ大変だろうな、と要らぬ心配をしてしまうほどだ。一行は奥のエレベーターに乗り込んだ。他に行きたい所も無いし行き方も分からないのですぐに後を追いかけて乗り込んだ。そのままエレベーターは上の階に上がっていった。内臓が上に迫りあげる気持ち悪さをこらえていく。程なくして宙吊りの箱は停止した。どうやら最上階のようだった。僕が最後に乗り込んだので今度は逆に僕が一番最初にエレベーターの外をみることになった。
最上階はこれまでのお役所感は完全に消えていた。SFに出てきそうな研究所、というのがふさわしかった。廊下にもモニターがそこらじゅうに点在していて常に何かを映し出している。ガラス張りになっているが部屋の中の机の上には分厚い髪の束とパソコンが散乱していた。何か知らないやつもあるぞ。もう定時はとっくに過ぎたのか、人は殆どいなかった。僕は見たことのない機械類と異様な雰囲気に圧倒され、呆然と見つめるしかなかった。恥ずかしいが、ここ最近僕は驚いたりし過ぎているのではないか、と考えることがある。その度にきっと他の人が同じ状況でも僕のようになるだろう、とそう思い込んでいる。
すると一人の女性、恐らく僕に声を掛けてきた人だろう。またしても僕の目の前に立ち、
「ようこそ、国立能力研究所へ。何も信頼できないかもしれないけれど、今は私達に付いてきて欲しいの。何か分かるかもしれないから」
その女性は身を翻し僕に背を向けて廊下の奥の方へ向かって颯爽と歩き始めた。その後ろをトボトボと付いていく。もうここまで来たら何をされてもいいだろ、というような気さえ起こっていた。
やがて廊下の突き当たり、一番奥の部屋に僕は通された。いつの間にか僕を抱えた男達はいなくなっていた。一体いつ!?そこにもモニターが沢山あって映像をちらりと見てみると街の映像が沢山映っていた。先程廊下から見た部屋同様、人はいない。ただ部屋の真ん中のパソコンに若い男性が座っていた。そこの席に向かって僕と色々話してくれる(一方的にではあるが)女性がツカツカ歩いていき何か一言言うとその男性もこちらを振り向いた。若いからか僕よりもほんの少ししか年が離れていないと感じた。それとほぼ同時に女性もこちらを向いたが、この二人顔が似ていないか?そんなことを思っていると。
「はじめまして。きっと姉さんからは何も聞かされずにここに来たんでしょ?なら尚更大変だっただろうねー。僕は谷川葵(たにがわ あおい)。この人は谷川薫(たにかわ かおる)。気づいたかもしれないけど、僕ら、双子の兄弟でさ。まあ、僕は弟なんだけどね」
「ああもう、勝手にベラベラ話して!だから会わせたくなかったのに!」
そう言うと女性――薫さんが男性の――葵さんの頭をはたいた。随分重い音が響いたが大丈夫だろうか。この二人顔が似ていると思ったら双子だったんだな、どうりで。だが性格は真逆といっても差し支えないようだ。
「はい、ここからは私が説明するからね!いいね、君!?いや、優一くん!」
「は、はい」
案外薫さんは強気なんだなと思った。最初こそは本当にミステリアスだったのに。その後ろで葵さんがやれやれといった様子で諦めろ、とでも言いたげな目を僕に向けてきた。
「まず君の身体に何が起きているのか、というところね。これを見てもらったほうが早いわ」
部屋にある大きなモニターに映像が映し出された。
「こ、これ。あの時の」
僕には見覚えがあった。今目の前に映し出されているのはあの奇妙な夜の出来事に違いなかった。
「ここに映っているのは優一くんとイレースね。優一くんはこちらに背中を向けているけれど。イレースの方は弱い個体ではあるけれど獣石飼いでない君には対処はできない。……ここで君は意識を失っている。問題はここから」
たしかに僕の記憶もここで途切れている。次にはっきりした時には怪物がいなくなっていた。
「……!?なんだ、これは!?」
意識を失っている僕の身体が突然光り、白い光に包まれていった。そして直ぐにその光は収まったのだが、そこに現れたのは僕では無かった。いや、どう考えても僕以外に居ないから僕なんだろうけど。でも見た目が似ても似つかなかった。髪色は鮮やかな金色に、着ている服も白を基調とした鎧を纏っている姿になっていた。その僕の姿を見て怪物は慌てた様子でその場所から逃げていった。
なるほどこれがあの夜に起こった出来事なのか、と意外にも冷静に見れる自分がいた。
「これは優一本人と見ていいと思うのよ。状況的にも他人がここに入り込む余地はないし、それにこの後直ぐに優一の姿に戻って倒れているの。偶然モニターを見ていた私はとても気になっちゃった。そして調べました!残念ながら全部は分からなかったけど、大体の推測はたてられたわ」
薫さんはデスクから古い資料を取り出した。紙が色あせている。何年前のものだろうか。
「これはここの資料庫の奥底に眠っていたものよ。埃をかぶりながらようやく探し出したのよ」
「まあ実際にかぶったのは俺だけどね」
葵さんがボソッと言い放ったのを僕は聞き逃さなかったぞ、お疲れ様です。
「と、とにかく見つかったのよ。そもそも優一くんは獣石飼いについてはどこまで理解しているのかしら?」
「今日友達からある程度は説明されました。三つの属性と五段階のランクがあること。その獣石飼いの人はひと目で属性とランクが分かるように石を身につけていること。そして怪物と戦っているということ、こんな感じですか?」
「基本的なところは理解しているね、その友達はしっかり真実を伝えている。良い友人に出会ったね」
「そうね、ならこれに書いてあることも分かるかもしれないわね。ここにはとある伝説が記されているの。要約すると、白い石を持っている人が現れて万能の力を皆の為に使い続ける時がやってくる。ということが書かれてあるわ。それにこの文献によると、既に二回このような人が現れて戦ってきているみたいなの、でもその人達の素性とかは一切書かれていない、わざと残さなかったのか、ただ把握できなかっただけの可能性もあるけど」
「たしかにその人の特徴は僕のと一致するところがありますね。ただ、僕は石なんて持っていませんよ」
記憶も辿ってみたが、白い石なんて僕は貰ったことも拾ったこともない。
「うーん、そこなのよねえ。一応聞いてみるんだけど、大きな怪我とかはしたことない?」
僕はそのようなことは一度も無かった、と答えた。
「そっか、こっちでも引き続き調査してみるわね」
「ところでさ、今優一君は能力を使えてみたりする?あの時の姿になってみる、でもいいけどさ」
いきなりそんなことを言われても。能力を使う、という感覚も分からないしあの姿になったときの記憶が無いからどうすればなるのか全く手がかりがない。
「い、いやあ。今は出来なさそうです……すみません」
「いやいや、そんなに気に病むことはないよ!こっちこそゴメンね!」
「とにかく、またイレースが襲ってくるかもしれないから!気をつけて!でもそう簡単に能力を使えないみたいだから自衛は難しいわね……そうだ、あなたをとある部活に所属させましょう!」
なにやら嫌な予感がビシビシとする。
「え。姉さん、またそんな勝手なことを」
「ここは私が何とかするわ。一応、警護の意味合いもあるからこれくらい余裕よ!というわけで、あなたにはこれから能力研究部に所属してもらうわ!」
「は、はあ……」
こんな経緯で僕は隼と同じ部活、能力研究部に所属?することになったんだ。
獣石飼い bee泥 @beedorodoro3
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