しなる幻影
見えないものが見えたり、見えるものが見えなかったりするようです。きっと何かのめぐりが悪いのでしょう。どうしてよいかわからなくなる時があります。不思議と曇りの日に多い気がします。晴れの日はそれはそれで曇りが恋しいのに、不思議なものです。ところで心配しないでください。私自身には特に問題ありません。一つ明確に言えることは、それがとても居心地の悪いものだということです。何もない空白に押し込まれるように私の視界は狭まってゆきます。始末しなくてはならない雑務も手につきません。そういう時には手を動かすのが一番とわかってはいるのですが、なんだか動くことが不安なのです。あなたは私の話をお笑いになるでしょう。それでもかまいません。というよりそうしてくだされば幸いです。もとよりあなたはそういう人ですから、私はあなたにこうして手紙を書いているとも言えます。しかしまったく近頃の世の中は殺伐としていますね。人と人の距離が近くなってゆくほど関係は密接になるものとばかり思っていましたが、ある点を超えると今度は傷つけあってしまうようです。そういう意味ではあなたも、いえ、あなたは例外でしょうね。あなたはときどき人ではないような気がしてしまいます。だからあなたが好きです。
会いたい人には会えましたか?見たいものを見ることができたでしょうか?あなたの気持ちがやすらいでいることを願っています。もちろん、皆が幸せなのが一番ですが、私はなによりあなたが幸せでいることが大切に思えます。世の中がどうなってゆこうとも、それ以上に私たちの家や身体がどうなろうとも関係はないのです。大切なのは生きてゆくことです。それは生物としてではなく、人間としてです。私たちは、いえ、私にとってあなたは生きなければならない存在なのです。生きて、生きて、生き抜いてください。あなたは生きなければなりません。これが文章を送ることのできる最後の機会かもしれません。ですから最後に私の我儘を書きました。これが私が生きているということだからです。私の姿をその眼で見るよりも、確かな、生きていることの証明です。
さようなら。生きて会いましょう。
散文集 アオシマノイズ @noizeaoshima
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