72話 講習会と迷宮王

「あなたも古代魔法で奈落と戦おう、無料講習会開催のお知らせ?」


 後ろ髪を引かれるように帰路についたローベルトを、クランメンバーが総出で見送ったその後。


 サシャは<幻灯弧>のマスター室で、真新しい一本の立札をまじまじと眺めていた。

 同室しているのはもちろん部屋の主たるオルガと、シルヴィエ、ヴィオラ、イグナーツ、エリシュカといった馴染みの面々である。


 ちなみにイグナーツもサシャの隣室で<幻灯弧>に住み込むことになっており、この顔ぶれでしばらく行動を共にすることが決定している。


「そう、講習会だよ。聞いていなかったのかい? 主催はあたいたち<幻灯弧>、後援はマルチン=ザヴジェル――領主さまその人。初回の開催は明後日の予定で、今のところザヴジェルの騎士団に所属している魔法使いの全員参加が決定しているさね」

「なんか聞いたような気もするけど、もうそこまで決まってるとか……動き早っ!」

「何を言ってるんだい。今のところキリアーン奈落は行方知れずのままだけど、いつまた出てくるか分からないだろ。いくら凄腕の魔法使いであっても古代魔法の習得には時間がかかるし、取りかかるのは早ければ早い方がいいからね」


 そう。

 昨日の凱旋の後の会見の席で、あれよあれよと決まっていた事のひとつがこの講習会である。


 奈落の先兵との戦いに魔法使いが参戦できる、その戦略的価値は計り知れないほど大きい。ザヴジェル領主マルチンを始めとした独立領のトップたちにより、即断即決で開催が決定されていたのであった。


「今日の朝一番で領主さまからユニオンへは通達が流れているはずだからね。主要クランへはもう伝わっているだろうけど、それ以外の魔法使いたちにも知らせるためのものがソレさ」

「おおう……」


 手にした立札をもう一度眺め、サシャは感嘆の溜息を洩らした。

 動きの早さや手回しの良さもさることながら、なんというか、外敵に立ち向かうザヴジェルの人たちの結束の強さを見せつけられたような気分である。


「場所は<鉄壁>騎士団の練兵場を使わせてもらう段取りだけど、何人集まってくるやら。肝心かなめの奈落戦で役立たずの烙印を押され、世の魔法使いは全員が歯噛みしていたからね。まあ、あたいたち<幻灯弧>のメンバーが手分けをして講義の補佐をすれば、三百人ぐらいまでならどうにかなるだろうけどね」

「魔法使いが三百人……。が、頑張ってねオルガ」

「ちょっとあんたねえ。サシャも参加するに決まってるだろうが」

「え、なんで? 魔法なんて覚えられないよ!? ね、姉さんも種族的に魔法は使えないって言ってたんだから!」


 必死に言い募るサシャに、オルガが「本当に何も聞いていなかったんだねえ」と肩をすくめた。


「あの、オルガさま。このお話が全員の前で出たのはさわりだけで、細かいことはサシャさまがローベルトさまとお部屋に行かれた後で話し合われていたような」

「おや、そうだったかい。なら責めるようなことを言って悪かったね。それじゃシルヴィエ、サシャに説明してやっておくれ」

「わ、私か?」


 唐突な流れに目を丸くしたシルヴィエだったが、サシャの顔を見てケンタウロス用の座椅子に座り直し、丁寧な説明を始めた。


 この大々的な講習会の陰の目的、それは出来るだけ多くの魔法使いをサシャの前に集めることである。集めて何をするか、それはもちろんサシャに魔狂い汚染度の鑑定をしてもらうのだ。


「魔法使いをあちこち訪ねてまわるより、そうやって一度に済ませた方が早いしサシャも楽だろう? 当日は<幻灯弧>の誰かが補佐につくから、サシャは会場の端から誰がどの程度魔狂いに近いかを補佐の者に伝えていってくれればいい」

「おお、なるほど! さすがシルヴィエ!」

「……決めたのは私ではないけれどな。まあ、初めてこの<幻灯弧>に来る時にあれだけ嫌がっていたことを思えば少々可哀想にも思えるが、こればかりは我慢して付き合ってもらったほうがいいだろう」

「ううん、そんなこと言ってる場合じゃないし、一気に片付けるに越したことはないよね。ありがたく参加するよ」


 サシャは、ふんす、と気合を入れてみせた。

 実際よくできたアイデアだと思うし、そうやって配慮してもらえたことが何だかとても嬉しかったのだ。無碍にするなど、とんでもないことである。


「それと講習会の前座として、もう一度巨岩蟲の死骸に向かって魔法を放つ実演もすることになったからな。これも表向きの理由は、古代魔法なら奈落の先兵相手に通用するということを参加者に見せて意欲を高める、というものだが――」


 シルヴィエが言うには、そこで<白杖>魔法騎士団所属の高名な魔法使いが、既知の全現代魔法を巨岩蟲めがけて放ってくれる段取りになったらしい。


 まあその魔法使いというのは先ほどローベルトを迎えに来た当人で、渡りに船とオルガが頼み込んだとのこと。既知の全現代魔法が本当にすり抜けるのかどうかのテストは騎士団側で昼過ぎには終わっていたようだが――全てすり抜けて魔法の種類による例外はなし――、サシャが感じる嫌悪感には差があるのか、それを確かめるのが裏の目的である。


「うわあ、なんだか至れり尽くせりでごめんなさい」

「謝ることではない。そうやってサシャの体を空けた分、他にやってもらうことがあるからな」

「ん?」


 思わず首を傾げたサシャに、にっこりと微笑みかけたのはヴィオラだった。そして、エリシュカもにんまりと笑いかけてきている。


「サシャさま、今日は古代魔法の向上にご尽力いただき、お疲れ様でした。明日はわたくしと、ぜひラビリンスにご一緒してくださいね?」

「サシャ君、未踏破ラビリンスのリストアップは終わっているぞ! どれもこれも貴重な霊草が山ほど採取できて、大型のラビリンスコアがあると予想されるところばかりだ!」

「あー、そういえばそれもやらなきゃだったね。ザヴジェルの魔鉱石の在庫、かなり少ないんだっけ」


 そう、先日の対奈落戦でザヴジェル軍は大型魔鉱石を湯水のように消費してしまっているのだ。その後【ゾーン】という画期的な対抗手段は出てきたものの、やはり多重結界による敵の誘導が戦術の主軸であることに代わりはない。


 大型の魔鉱石は竜種のような大型魔獣からも採れるが、魔力の質という面でも出力の面でもラビリンスコアには遠く及ばない。そしてそこにサシャがいる。完全に検証が済んだ訳ではないがラビリンス内の好きな階層に転移でき、初回の探索で小さいとはいえ最高級の<天人族の契約>ヤーヒムズ・コアを一度は手にした逸材である。


 サシャとしてはなぜそんなものが出てきたのか未だに分かっていないのだが、周囲からしてみれば、天人族のサシャの元に<天人族の契約>が出現したのだ。さもありなん、というのが正直なところ。


 さすがに毎回は難しいとしても、ここファルタは古代迷宮群のある霊峰チェカル、そのお膝元である。いくつも未踏破のラビリンスを攻略していけばひとつぐらいは……と密かな期待を寄せられているのだ。


「――エリシュカ、あんた霊草採取に比重をかけてラビリンスをリストアップしてやしなかったかい? ちょっとその紙を見せてごらんよ」

「な、マスターそれは言いがかりだ! 私は霊草と同じぐらい<天人族の契約>ヤーヒムズ・コアも楽しみにしているのだ! ちょ、力ずくなのは駄目だマスター! リストを返してくれ!」


 エリシュカの必死の抗議も虚しく、オルガはリストを奪い取るなりざっと目を通して「これは良し、これは却下。エリシュカあんた、やっぱりさり気なく踏破済ラビリンスを混ぜてあるじゃないか……」と冷静に検分をしていく。


「うん、そこまで酷くはなかったようだね。踏破済のラビリンスを除外して、全部で七個ある未踏破ラビリンス――この間の<密緑の迷宮>を除けばあと六個か、それだけに絞ればどうにかなるんじゃないかい? 幸いどれも近い谷筋に固まってたろう。エリシュカ、あんたの無駄な間道知識の出番だ。この六個を回る最短のルートをまとめておいておくれ」


 ばっさり添削をしたリストをエリシュカに返し、オルガは心配そうに眉をひそめてサシャに向き直った。


「……あたいが心配しているのは、サシャが<密緑の迷宮>以外でも好きな階層に転移できるかって根本のところは、まあ置いておくとして。それでいざ行けたとして、<密緑の迷宮>で一度サシャは倒れただろう? そっちが気になってるんだけどねえ。どうなんだいサシャ?」

「あー、それねえ……」


 当時の状況と今の自らをざっと比較しつつ、サシャは言葉を濁らせた。


 前回のラビリンスで倒れたのは、一気に注ぎ込まれた青の力に体がついていかなかったからだ。初めてのそれはさすがに衝撃も大きかったが、その後奈落との戦いの最中にも同様のものを経験しているし、その後の偵察で意識的に【ゾーン】を練習していたり、まあもう倒れることはないとは思うのだ。


「まず、他のラビリンスでも階層を指定して転移できるのかってことだけど、なんとなくそれは大丈夫そうな気がしてる。断言できないのは申し訳ないけど、きっと大丈夫」


 とりあえずサシャは答えやすい方から答えていくことにした。


 姉ダーシャから聞いた話――ラビリンスは結局のところヴラヌスという同族であり、スフィアの根源となっている青の力はサシャのものと同じ――を思えば、今のサシャの保有量からいってどうとでもなると思うのだ。


「それで、こないだのラビリンスで倒れたことについては……あれはちょっと体が慣れていなかったというか、もうあそこまでのことはないと思うけど――」


 強いて言えば、【ゾーン】で流れ込んでくる青の力の方が純粋で、<密緑の迷宮>でコアに譲ってもらった青の力は余計なものがかなり混じっていたようには思う。迷宮で降り注いできた青の光の量を今になって考えれば、それで体内の泉に残った青の力の量は驚くほど少ないのだ。


 もしかしたらそれは、以前にへそくり魔鉱石が売れないと教えてくれた港街の宿屋の女将さんが言っていた、生物特有の雑多な魔力――それに類するものかもしれない。


 自分は体質的に青の力以外の魔力は受け付けないようなので、そう考えるのが正しいのだろう。<密緑の迷宮>で倒れたのは、そんな余計なものまでいきなり受け取ってしまったのも原因のひとつだったのかもしれないが……それはそれである。


 いくらそうであっても感覚的に多分もう大丈夫だという自信はあるし、ついつい言葉を濁らせてしまう一番の理由は別にあるのだ。


「未踏破のラビリンスをまわってコアを取ってくる、んだよねえ……」


 それはつまり、コアを持ち帰る――言葉を替えれば「同族に完全な死を与える」ことに、どうしても抵抗を感じてしまっているのだ。


 姉ダーシャは、人としての生を諦めて結晶になった者たちだからどうでもいい、そんなことを言っていたが、サシャ自身まだそこまでは達観できていない。


 同族とはいえ、問答無用でこちらに襲いかかってくるような相手ならともかく。

 もしまた青の力を譲ってくれるような相手だった場合のことを考えると、どうも冷徹になりきれない自分がいるのだ。




「……ねえオルガ。魔力が空になった魔鉱石に、また魔力を充填することって出来る?」




 ちょっと思いついたことがあるサシャが、遠慮気味にオルガに尋ねた。


「はあ? 不可能じゃないけど、人の魔力なんて微々たるものだよ。例えばあんたが持っていたというズメイの魔鉱石、あれを元どおりに充填するとなると……<幻灯弧>所属の魔法使いが全員がかかりきりになったとして……やってみないと分からないけど、ひと月はかかるんじゃないかい?」

「わ、そんなに? でもまあ、充填できるならちょっと試してみたいことがあって。空の魔鉱石って手に入ったりする?」

「あんたここをどこだと思っているんだい。日々の余った魔力を空の魔鉱石に溜めていって、引退の時の退職金がわりにするのは一流の魔法使いの常識だよ? エリシュカ、あんたの部屋から大きいのをごっそり持ってきておやり。たくさん隠し持っているだろう?」

「マ、マスターなぜそれを知って――」

「あたいが気づいてないとでも思ってるのかい。あんた去年、魔法植物を作るとかいって空の魔鉱石を砕いて夜中にクランの裏庭に散布してたろう。その時に大量に経費で買っていたじゃないか」

「あ、あれは上手くいけばすぐに元が取れるはずで――」

「何がうまくいけば、だよ。近所で亡霊騒ぎになっていたのを知らないのかい。裏のアダムじいさんがあんたを見て引きつけを起こしたんだよ。あたいが火消しにどれだけ苦労したか」

「い、今すぐ持ってくる! ありったけ持ってくるから、待っててくれサシャ君!」


 風のように逃げ出したエリシュカの後ろ姿を、オルガ以外の全員がぽかんと口を開けて見送った。いったいエリシュカは普段何をしているのか。奈落その他の困難な問題をすっかり忘れ、皆の心がひとつになった瞬間である。


「で、そんなものが何かの役に立つのかい?」

「え? ああ、それなんだけど――」


 何ごともなかったかのように話を再開させたオルガに、サシャは大きく息を吸って自分の思いつきを説明しはじめた。


 まず<密緑の迷宮>で倒れたのは、コアが唐突に膨大な青の力を注ぎ込んできたからであること。その後気づいたのだが、その青の力にはサシャが根本的に受け付けない、青の力以外の魔力のようなものが結構含まれていたこと。


「たしかにあの時、サシャさまにものすごい青光が降ってきましたが……」

「あたいたちには、あんたがまとう聖光と瓜ふたつにしか見えなかったけどねえ。まあ本人がそう言うならそうなんだろうよ」

「うん、そうなんだよ。今思えば、厳密に純粋な青の力は半分もなかったと思うんだよね。でも目に見えて色があるのは青の力だけだから、青のそのままの色に見えていたというか」


 そこで更に言葉を重ね、サシャは試してみたいことをこう切り出した。


 自分にとって不要なその透明な力を、どうにかして空の魔鉱石に移してみたい。

 もし移すことができれば、それはもしかしたら第二の<天人族の契約>ヤーヒムズ・コアになるのかもしれないから、と。


「ちょっとサシャ! あんた自分が何を言っているのか分かってんのかい! モノは稀少品も稀少品、ザヴジェル領全体でもひとつしか残っていないヤーヒムズ・コアなんだよ!?」

「でもほら、オルガ。あの時そのヤーヒムズ・コアを手に取ってみたじゃない? 今思えば、あのコアはあのコアなりに持てる青の力をかき集めて放出してくれたと思うんだよね。見るからにすっからかんに思えたし。でもみんなはあのコアに、凄い魔力が残ってたって言う。もしかしたらそれって、もらった青の力にも混じってた、コアにとっても僕にとって不要な透明の力だったのかなって」


 だとしたら、譲ってもらった中に混じっているソレを捨てずに空の魔鉱石に移していれば、とサシャは言う。


「……元のコアはそのままに、第二のヤーヒムズ・コアの出来上がりってわけかい」

「そういうこと、なんだけど。ただ、どうやればいらない分だけ空の魔鉱石に移せるか分からないし、そもそも次に対面したコアが、またこないだのコアのように手持ちの力を譲ってくれるとも限らないんだけどね」

「……まあ、どちらも上手くクリアできれば、この間のようにコア本体はラビリンスに残しておけるってことさね。あんたのことだ、力を譲ってもらった相手を“完全な死”に追いやるのが心苦しい、とかなんとか考えているんだろう?」

「そ、そんなことは……あったりなくもなかったり」

「あるんじゃないかい!」


 オルガの正論すぎるツッコミに、あはは、と笑ってごまかすサシャ。


「で、でもあれだから! そう思うのは力を譲ってくれたコアに対してだけで、守護魔獣とかをけしかけてくるコアは普通に持って帰っても全然問題ないから!」

「当たり前だろう! そんなコアにまで討伐をためらってたら命が幾つあっても足りないよ!」

「まあまあオルガ、それならそれで良いのではないか?」


 そう言って割って入ったのは、それまで黙って話を聞いていたシルヴィエである。

 彼女は室内では持て余し気味の強靭な馬体を僅かに揺すり、いつもの冷静な口調でオルガとサシャに話しかけはじめた。


「空の魔鉱石云々については私は門外漢だが、ことコアの扱いについてはこういうことだろう? ――各ラビリンスで戦闘準備を整えて最奥の間に転移し、守護魔獣その他が襲ってきたら普通に戦ってコアを奪取する。これはサシャも問題なし、と」


 淡々と話を整理していくシルヴィエに、こくり、と頷きを返すサシャ。


「次。こちらが戦闘態勢に入っているにもかかわらず、守護魔獣その他がこの間のように動きを止め、コアがサシャに青の力を譲渡してきた場合。個人的にはそんな奇跡のようなことはそうそうないと思っているのだが、そうなるとその後の対処はふたつに分かれる。空の魔鉱石を使ってサシャが首尾よく第二のヤーヒムズ・コアを作れた場合と、作れなかった場合だな」

「まあ確かに、そんな都合の良いことはそうそう起きないだろうってことには完全に同意するね。問題はそれが起きた後だよ」


 オルガが肩をすくめ、困ったようにサシャを見つめた。


 なんだかんだ言って、オルガは結局のところサシャに甘いのである。

 もちろん、天空神クラールに愛されているとしか思えないサシャの直感を信じている、という部分もある。自分の与り知らない神の領域にまつわることについては、下手な口出しはしないように心掛けているのだ。


 けれども、それだけではない。

 そのあたりはシルヴィエと同じである。手に取るようにオルガの心情を理解できたシルヴィエは、仄かな笑みを口の端に乗せて言葉を続けた。


「とはいえ、ヤーヒムズ・コアを作れた場合は何の問題もない。ヤーヒムズ・コアを持ち帰れるのであれば大金星だ。たとえそれが、元のコアの半分の大きさのひとつだけだろうとな。ヴィオラ、その解釈で合っているか?」


 はい、それはザヴジェルにとって計り知れない助けとなるでしょう。

 そう言ってヴィオラが深々と頷く。ザヴジェル本家の姫君として育った彼女からしてみれば、それは当然の答えであるだろう。


 ならば、とシルヴィエはサシャに視線を戻した。


「ということでサシャ、簡単なことだ。もし挑んだ先のコアがまた青の力を譲渡してきた場合に備え、お前が確実に第二のヤーヒムズ・コアを作れるようになっていればよい」

「え?」

「それはザヴジェルの為であり、お前の心残りをなくす為であり、力を譲ってくれたコアの為でもあるのだろう? 私は門外漢だから空の魔鉱石の扱いは良く分からないが、なに、ここは<幻灯弧>のクランハウスではないか。良き講師がたくさんいるし、明日の出発までまだひと晩もある」

「え、まさかの無茶ぶり――」

「そうだねシルヴィエ、それしかないね。ならサシャ、さっそく始めようか。なあに、そんなに難しいことじゃないさ。シルヴィエの槍に神力を注ぎ込めるあんただ、注ぎたい力の区別さえできるようになればすぐに……って、エリシュカはまだ戻ってないのかい。あの子はいったい何をやってるんだか。おおい、エリシュカっ!」

「え、ちょっと待って――」

「サシャ、お前の頑張りで明日の我々の成果が変わるのだからな。是非とも頑張ってくれ。それにいつだったか言っていただろう、『ラビリンス王に、僕は、なる!』とかなんとか。上手くいけばそれが実現するのではないか?」

「えええー!」


 サシャの叫びも虚しく、その日の晩は遅くまで古代魔法の講習会ならぬ、空の魔鉱石の扱い方に関する講習会が開かれたのであった。


 成果のほどは……やらないよりはマシだったかもしれない、という程度。


 なにせサシャは青の力ならばオルガが驚嘆するほどに細かく操れることが判明したが、空の魔鉱石に導きたい肝心の透明の力に関しては、こちらはオルガが呆れるほどに知覚すら出来ないことが判明したのだ。


 ただまあ、それを見ていたイグナーツがひとつの案を出してくれた。

 後はそれが上手くいくかどうかぶっつけ本番でやってみる、といったところである。




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