73話 ラビリンスの異変(前)
「なんかまた日の出が遅くなってる?」
「我々にとって暗いのは好都合だろう。今のファルタをこの顔ぶれで歩くのだからな、もっと暗くてもいいくらいだ」
翌朝。
外も暗いうちから<幻灯弧>のクランハウスを出発したサシャたち一行は、黎明の青に佇むファルタの街中を足早に移動していた。
名物の霧が薄れ、まだ東の空がうっすらと白んできただけの時分なのだが、古都ファルタの住人たちは既にそこかしこで活動を始めている。
そう。こんなに暗いのは単に日照時間が短くなっているせいであって、二の鐘はとっくの昔に鳴り終えているのだ。本来であれば、早起きの農夫なら朝のひと仕事を終えて一服していてもおかしくない、そんな時間帯であった。
「うふふ、サシャさまは今や大人気ですからね」
「なにせ神隠しにあっていた天人族が凱旋、しかもそれが<救世の使徒>だからな」
「しかし、まさか昨日一日であんなに贈り物が届くとは。<幻灯弧>始まって以来ではないのか?」
「だがなんで野菜ばかりなのだ! もっとこう、研究に役立つ貴重な素材とかを贈ろうとは思わないのか!」
「えええー、野菜は素直に嬉しくない? エトも早速、あんなに立派な果物を届けてくれたし。なんだかご飯が充実しすぎて罰が当たりそうだし、一人ひとりにお礼を言えなくて申し訳ないよ」
徐々に明るくなっていく石畳の通りを和気あいあいと進んでいるのは、サシャ、ヴィオラとイグナーツ、シルヴィエとエリシュカといった面々である。
予定どおり今日はラビリンス巡りをする予定で、本来ならここにオルガも加わるのだが、彼女は明日に控えた古代魔法の講習会に向けた準備で忙しいのだ。
ちなみに、サシャが滞在する<幻灯弧>に大量の贈り物が届いたという話は本当で、そのうちの殆どが新鮮な野菜だったというのも本当である。サシャの来歴や南領境での功績の話と併せ、その辺の噂話も瞬く間に広まっていたらしい。
「ああ、だが折角の気持ちだ。贈り物はありがたく貰っておいて、天人族らしくザヴジェル全体に益する偉大な功績で返せばいい。かの大英雄ヤーヒム殿に始まってダーシャ殿もそうだし、それが天人族の流儀なのだろう?」
「ふふふ、シルヴィエの言うとおりですわ。だからこそ天人族の皆さまは民の隅々にまで絶大な人気があるのです。わたくしたちザヴジェル本家の人間のお手本ですね」
「……そんな話初めて聞いたし、なんだかすごいプレッシャーなんだけど」
贈られた野菜の量を思い出し、あれに見合うだけの功績となると……と顔を青ざめさせるサシャ。ちなみに彼の頭の中では、新鮮な野菜は王侯貴族しか食べられない超高級品だという感覚が未だ抜けきっていない。もちろんそれはザヴジェルの外の話であり、ザヴジェルだと一般家庭でも普通に食されているものなのだが。
「ほら、もう街門に着くぞ。必要ないとは思うが、さっき渡した書類を各自用意しておくようにな」
馬蹄の音も軽やかに先頭を進むシルヴィエが、振り返って全員に声をかけた。
彼女は習慣になっている朝の遠駆けがてら、ユニオンと領主館に寄って今日のラビリンス遠征の根回しを済ませてきていたのだ。奈落の動向に予断が許されない昨今とはいえ、一日で帰ってくるならばとどちらでも諸手を挙げて賛成をされ、万が一不具合が生じた時のためにと一筆したためてくれている。領主館に至っては、ヴィオラを除く全員の身分保証書まで付けてくれるという奮発ぶりだったらしい。ありがたいことである。
「さあ使徒殿、これから先は私の前に出ないように頼む。何かあったら即座に神盾を発動させるからな」
「ふふふ、イグナーツさまのお仕事ですね。わたくしも負けていませんよ?」
「おお、二人とも頼もしいな! では私は遠慮なく後ろでサシャ君の秘密を探っていくとしよう。サシャ君、私に隠し事はナシだぞ?」
イグナーツとヴィオラが張りあうように先頭に進み出て、代わりにエリシュカが満面の笑みでサシャににじり寄ってくる。
「……ね、ねえシルヴィエ、いいのかなこれで。イグナーツさんにも申し訳ないけど、ヴィオラ、お姫様だよね?」
「……本人がやりたがっているのだから、好きなようにさせてやればいいさ。この近辺でそこまで危険なこともないだろうしな。それよりもサシャ、エリシュカの質問に答えてやれ。私もいくつか聞きたいことがあるのだ」
「……二人がかり!? お、お手柔らかにお願いします」
そうして一行は無事に街門を通過し――許可状を出すどころか敬礼で見送られた――、古代迷宮群が散在する霊峰チェカルの登山道へと進んでいくのであった。
◇
一行が朝霧に包まれた登山道を進むことしばらく。
ほどなくして現れた分かれ道をエリシュカの指示どおりに曲がり、やがて岩壁の前にぽつんと建てられたラビリンスの管理小屋へと辿り着いた。
「さあ、ここが<神罰の迷宮>の管理小屋だ! ここには伝説の霊草、龍歯草が群生していてな、その透明な種子を煎じて飲めば透明人間になれると――」
「こんな朝っぱらからエリシュカじゃねえか! お前また懲りずに<裁きの原野>に……って、その神父服、まさか噂の天人族か!?」
得意げに説明をしながら管理小屋の入口をくぐったエリシュカに、カウンターにいたユニオンの職員が目ざとく軽口を投げて……後ろに続く面々に気付いて固まった。
「ヴィ、ヴィオラ姫に<槍騎馬>、樹人族の旦那は<神盾>さんか!? エリシュカのくせになんて顔触れを引き連れてるんだよ。と、とりあえず、ようこそ神罰の迷宮へ!」
「くくく、これはまた随分な態度の変わりようだなあミコラーシュ。今日こそ幻の種子を採りに来たぞ! さあ帰還の宝珠を二回分寄越せ!」
「二回分?」
意味が分からず問い返すユニオン職員だが、意図を問いたいのは後続のサシャたちも同様である。
「……ねえヴィオラ、二回分ってどういうこと?」
「……さあ? 最奥の間に跳べても跳べなくても、必要なのはそこからの戻り一回分だけのはずですが」
「……もしかしたら、龍歯草とやらを採りに行くので一回、最奥の間からの戻りで一回ということではなかろうか」
「……イグナーツ殿の言うとおりだろうな。おいエリシュカ!」
ひそひそ話から身を起こしたシルヴィエが、その馬体の上からエリシュカの襟首を掴んで引き戻した。
「ぐはあ! ――な、なんだシルヴィエ、か弱い魔法使いに暴力はいかんぞ!」
「二回分というのはどういうことだ? 話が違うではないか」
「ち、違わないさ! そう、検証が不十分だっただろうサシャ君の……好きな階層に転移できるということに関して。いきなり最奥の間に行く前に、特徴的な階層に転移できるか試してみるべきではないのか?」
最後は周囲の耳を気にして小声になったエリシュカに、「うむ、確かに実験不足だったな。ならば仕方あるまい」とあっけなく追認するシルヴィエ。
「ちょっとシルヴィエ、騙されてるよ!?」
「人聞きの悪いことを言うなサシャ。初回のここだけはやっておくべきだろう、何事も検証の積み重ねが大切なのだ」
「そうだそうだ、シルヴィエ君の言うとおりだぞ! それにサシャ君だって無数の雷が一面に降り注ぐ光景、見てみたいだろう? <神罰の迷宮>の名前にもなった、このラビリンスでしか見られない壮大な光景だぞ?」
「え、何それすごい」
何でもエリシュカによると、この未踏破ラビリンスの最終到達階層は、空から無数の雷が立て続けに落ち続ける大平原になっているらしい。
通称が<裁きの原野>。
未だかつてその激しい落雷群をすり抜けて階層を踏破した探索者はおらず、そしてそこの奥地には伝説の霊草、龍歯草の群生地があって――
「くくく、今の我々には<神盾>殿がいる。なあに、ちょちょいと神盾を展開してもらえれば雷など怖れるに足らず。件の透明な種子を探す時間はたっぷりと」
「ああっ、やっぱりそっちじゃん! エリシュカに騙されるところだった!」
「おっと、今のは口が滑った。たっぷりと探したりなんかはしないとも。ただ、ほんのちょっと様子を見るだけだ。ほんのちょっと」
「えええ……なんか怪しい。イグナーツさん、どう思う?」
サシャが話を振ったのは、基本的に無口なイグナーツだった。
サシャは薄々勘付いてきたのである。この生真面目で寡黙な樹人族剣士を、エリシュカが苦手としていることに。
「うむ、そうだな。目的が入れ替わっていると感じたら、そこでエリシュカ殿だけ神盾の範囲から外そう。それで問題ない筈だ」
「な、イグナーツ殿、後生だ! 私はもう雷に打たれるのは御免だぞ! 何度打たれたと思っているのだ! それに本当に種子を採る気なら、十二枚の錫の皿でぐるりと龍歯草を取り囲んで、そこに雷が落ちるのを待つのが作法なのだ。ほら、錫の皿なんてどこにも持っていないだろう?」
「……ねえエリシュカ。今日の出発前にカーヴィの空間収納に入れておいてくれって言ってた包み、かなりガチャガチャと音がしてたよね? あれってもしかして――」
「しーっ! サシャ君それはその、乙女の秘密だ! 殿方が触れちゃダメなアレなのだぞ!」
なんだかもうグダグダになってきたエリシュカの背後から、先ほどのユニオン職員が「よく分からないけど帰還の宝珠二回分、とりあえず用意できたけど……」と声をかけてきた。
「ミコラーシュ! 素晴らしいタイミングだ、私は今猛烈に君に感謝しているぞ!」
「……こんなところで話していても仕方ないか。じきに他の探索者もやってくる時間だ、まずは進もう」
「ですねシルヴィエ、わたくしもそう思います。でもエリシュカさん、嘘は駄目なのですよ?」
「ち、違――」
「そうだな、皆の言うとおりとっとと進んでしまおう。受付係殿、スフィアの石室はその奥でよろしいか?」
「は、はい<神盾>殿! そこの大扉の奥がそうでありますです! す、全てを見守るクラールの静かな護りが皆さま方にありますように!」
一行は理由も聞かずに二回分の宝珠を用意してくれたユニオン職員に礼を告げ、ラビリンスへと繋がる転移スフィアがある石室へと足を踏み入れた。
朝早くファルタを出てきたとはいえ、あんまりのんびりしていると他の探索者がやってきかねない。イグナーツがその辺りを鋭く確認しつつ背後の大扉をぴったり閉ざし、関係者以外の耳目を遮断してサシャに頷きかけた。
「さあ使徒殿、今なら問題ない。雷が降り注ぐ階層という情報だけで転移できなければ、そこは無視していきなり最奥の間でも構わないが」
「ありがとうイグナーツさん。でもせっかくだからちょっと見てみたい気もするし、とりあえず一回やってみるよ」
一行の目の前に音もなく浮かんでいるのは、青く静謐な輝きを放つ転移スフィアである。サシャを除く四人は言われなくとも隣の者の体に手を触れ、無意識のうちに息を止めてその瞬間を待つ。
「じゃ、ささっと試しちゃうね。いくよ――」
ヴィオラに右手をしっかりと握られたサシャが、無造作に左手を伸ばしてスフィアに触れる。途端に溢れ出す鮮烈な青光、同時に一瞬の浮遊感が全員に訪れ、そして――。
◇
「うわあ、これは確かにすごい」
視界を覆った転移の青光が薄れると、そこに広がっていたのは一面の荒れ果てた荒野と……重く立ち込める暗雲からそこかしこで断続的に落ち続けている、数えきれないほどの雷だった。
ぱっと視界に入るだけでもひと呼吸の間に十から二十は光の柱が乱立しては消え、それが際限なく続いているのだ。
「気をつけろサシャ君! スフィアから離れると途端に狙われるからな!」
「狙われるって、雷に!?」
「そうだ! それとファントムインプにもだ! 実体を持たない純エネルギー体のインプで、間近に落ちた雷の中から攻撃してくる!」
連続して響き渡る轟音の中、声を張り上げて解説してくれるエリシュカに「分かった!」と叫び返すサシャ。見れば他の面々も大きく頷いて、了解の意を示している。
「もしかしてエリシュカ! さっきユニオンの人に『また懲りずに来たのか』みたいなことを言われてたけど、ひょっとしてこの雷の中へ一人で何度も挑戦してたとか!?」
「そうだ! ここには伝説の龍歯草があるからな! ほら、あそこにも――ちょっと待っていてくれたまえ!」
無謀にも程がある、そう言おうとしたサシャだったが、エリシュカは何を勘違いしたのか目を瞑って大きく息を吸い込んだ。
途端にサシャの目に、地面のあちこちから淡い光点が漂い出てくるのが映った。古代魔法だ。オルガや祖父ローベルトほどの集まり具合ではないが、それなりの数がエリシュカ目がけて集まってきている。
……あ、さすがは<幻灯狐>のサブマスター。
サシャがそんな場違いな感想を抱いたのもつかの間、集まった精霊たちはエリシュカの周囲に水のドームのようなものを作り上げた。
「ふははは、どうだ! これがこの<裁きの原野>用に私が開発したオリジナル古代魔法だ! これならこうして――」
そう言うが早いが、水のドームごと雷の荒野へ走り出すエリシュカ。そして少し先の窪地で立ち止まり、そこに生えていた草をむしり取って駆け戻……ろうとしたところで、落雷の直撃を受けた。
ふぎゃあああ!と情けない叫びを上げて倒れ、それでもエリシュカは立ち上がってふらふらと戻ってくる。そしてスフィアの周囲の安全地帯に入るなり水のドームを解除し、ずぶ濡れになってまた倒れた。
「――ど、どうだいサシャ君、今のオリジナル魔法は。落雷のダメージを半減させる、画期的な優れものなのだ」
よろよろと立ち上がってくる、泥まみれのエリシュカ。
サシャが何と言葉をかけていいか咄嗟に出てこなくて固まっていると、彼女は握り締めていたびしょ濡れの草を得意げに目の前に突き出した。
「ほら、これが大陸広しといえどこの<裁きの原野>にしかない、伝説の龍歯草だ。目に見える形では花も咲かせず種もつけない。もちろん根で増えるわけでもない。けれども何故かここでだけは繁殖しているのだ。奥に行けば百本ほど生えている大群落がいくつかあってな――」
「ねえエリシュカ、ひょっとして奥まで行ったの?」
「もちろん行ったさ! 何のためにオリジナル魔法まで開発したと思っている? お陰でこの周辺の龍歯草の分布に関して、私より詳しい人間は誰もいないと自負しているぞ」
「あー……」
思わず遠い目になってしまうサシャ。
威力半減とはいえ、さっきの光景は目に焼き付いている。ふぎゃあ、という蛙が潰れるような叫び声も。
きっと何度も何度もああやって雷に打たれながら、不屈の精神で挑戦を繰り返したのだとは思うのだが…………なんというか。
何が彼女をそこまで駆り立てているのか、サシャには全くもって理解不能であった。
「――ちょっといいか?」
そこに割って入ってきてくれたのが、対エリシュカの最終兵器、イグナーツだ。
彼はその樹人族ならではの長い腕をするりと伸ばし、エリシュカの手からびしょ濡れの龍歯草を抜き取った。
「ふむ、これはフェルンだな。実物を見るのは初めてだが、この龍の歯のごとき形状の葉、話は聞いたことがある」
「な、イグナーツ殿、それは本当か!? 伝説の霊草なのだぞ!」
「ああ、本当だとも。我が種族は樹人族。そして我が一族は
イグナーツの言葉にエリシュカが、ごくり、と生唾を飲み込んだ。
「よ、よかったら詳しい話を教えてくれないか!」
「ああ。この茶番を早々に終わらせるために、ひと思いにひとつ教えてやろう」
「…………茶番? ……ひと思い?」
イグナーツが口にした不穏な言葉に、エリシュカがぶるりと体を震わせた。
他の面々も口を挟まず、興味深そうに二人のやり取りを見守っている。
「龍歯草は確かに花も咲かせず、目に見えない種子も持っている特別な草だ」
「おお! では本当に――」
「だが、種子が目に見えないのは透明だからではない。ただ単に、目に見えないほどに小さいというだけのことだ。種子ではなく、胞子と呼ぶそうだな。よって、透明な龍歯草の種子を煎じて飲めば透明になれる、それは残念ながらただの迷信だ」
「な、な、なんということだ。これまでの私の苦労はいったい――」
へなへなと崩れ落ちるエリシュカの向こう側で、特大の雷が轟音と共に荒野に突き刺さった。
いや、さっきから間断なく落ちてはいるのだがあまりにタイミングが良すぎて、周囲の目にはそれがエリシュカの心情を表しているように見えてしまっただけなのだが。もしくは、これぞ裁きの雷、そう穿った見方も出来なくはない。
「努力と工夫は評価に値する。ただ知識が足りなかったというだけだ。エリシュカ殿さえ良ければ、今後余裕がある時に他の霊草類の研究に力を貸すのはやぶさかではない」
「そ、それは本当か!?」
「ああ。余裕がある時ならばな。……今ではないぞ?」
「か、構わないとも! よし、最上の情報源を獲得したぞ! いろいろあったが結果的に今日は良い日だ! わははは!」
どこまでも前向きなエリシュカと、寡黙なだけで実は意外に優しいのかもしれない、そう周囲に思わせたイグナーツであった。
「――さて、そういうことなら、これからどうする?」
「そうですねシルヴィエ。何といいますか、もうこの階層にいる意味は薄くなってしまったというか」
「これからこの階層で次への転移スフィアを探すぐらいなら、帰還の宝珠を使って管理小屋の石室に戻り、そこから改めて最奥の間に跳んだ方が確実で早いだろうな。サシャの転移先指定も問題なく通用しているようだし」
「ですね。それならそういうことで、石室に人が来る前に動くべきですね」
シルヴィエとヴィオラが話を進めるが、誰も異論はないようだ。
エリシュカも「もう当分はこの階層には来ない!」とイグナーツに力説しているし、サシャにだって問題はない。
むしろラビリンスならではの不思議な光景を見れた分だけ、心の中で密かにエリシュカに感謝しているぐらいだ。こんなにたくさんの雷を一時で見れるなどさすがはラビリンス、他では絶対にできない体験である。
あと分かったことがひとつ。
それは姉ダーシャが言うように、確かにラビリンスは独自の【ゾーン】を使っているということだ。今のサシャには、はっきりと分かる。ダーシャが展開した【ゾーン】に入った時のような、見知らぬ他人の家にお邪魔している感覚がさっきからつきまとっているのだ。
……ここで死んじゃったら、このラビリンスの栄養になっちゃうんだよね。
そんなことを考えてこっそり身を震わせつつ、いろいろと収穫はあった、とひとり大きく頷くサシャ。
エリシュカの長年の努力が無駄足だったことは可哀想に思うが、それもイグナーツのフォローですっかり立ち直った様子だ。強いて気になる点を挙げれば、カーヴィの空間収納に仕舞ってあるあのガチャガチャいう包み、あれは返しづらくなっちゃったねえ、ということぐらいか。
……最悪の場合、こっそりオルガに渡しちゃえばいいか。
そんな物騒なことをちらりと考えつつ、肩掛け鞄の中で寝ているカーヴィの頭をそっと撫でるサシャであった。
「――さあじゃあシルヴィエ、とっとと帰還の宝珠を使ってくれたまえ!」
転移スフィアから少し離れた場所では、絶え間なく雷が落ち続けている。
その轟音を押しのけるように、いつもの調子に戻ったエリシュカの大きな声が辺りに響いて。
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